第16話 見せつけFカップ、隠れGカップ、隠せぬHカップ

「第一回、紫子ちゃんお料理教室~~♪ ぱふぱふー」


 なぜ僕の従妹は「ぱふぱふー」のとき両腕をちょっと中央に寄せたのか。僕の方をチラ見してきたのか。隠せぬHカップ……。


 難波家のシステムキッチンにて。

 Tシャツ姿でテンション高めの紫子。その両隣に僕と、そして無理やり連れてこられた文が立っている。文は制服ブラウスの上に、これまた無理やりエプロンを着けさせられている。隠れGカップ……。


 紫子が帰ってきてから、30分がたっていた。


 すぐさま筋トレ指導中のフリをして、文がいる理由を何とか説明してのけた僕。

 先ほど、当たり前のように家に上がってきた華乃の証言で、裏付けも得られた。が、それ以上のピンチが僕たちに降りかかっている。


 今日の晩ご飯を、紫子と文で作ることになってしまったのである。もちろん、紫子の独断で、だ。昼に言っていた、お料理を教えてあげる、という約束を果たすということらしいが……。


 え? てか紫子、ガチで文と僕の関係を疑ってるってことなのか?


 昨日の僕も、今日の文も、上手く誤魔化し切れたものだと思っていたのだが……。いや、多少のボロは出てしまったのかもしれないが、それにしたって、こうも狙いを定めてくるとは……。

 少なくとも、あのおにぎりを作ったのは文なのだと考えているのではないか。このお料理教室で、その真偽を見極めようとしているのではないだろうか。


 鋭すぎる……! リビングでくつろいでるどこかの白ギャルとは大違いだ。これは、マズい……!


「千里先輩は、お料理をしないというお話でしたよねっ」


「ん? 全くしないとは言っていないが。好きではないだけだ」


 冷や汗ダラダラの僕と違って、文はいつもの無表情で淡々と答えている。


「あら、それは失礼いたしました! ではではあまり指図はせずに、千里先輩の実力を見せてもらいましょうか!」


「いや、指図はくれ。和食はさすがにな……この鮭の粕漬けは、柚木が自分で? 凄いな、とても真似出来ん。何日間漬けたんだ?」


「一目で粕漬けが分かる女子高生はなかなかいないと思いますよー? 謙遜なさらないでいいのにー。では、まずは出汁を取りましょうか! お願いします、千里先輩!」


「お願いしますと言われても、鍋がどこにあるのか分からないのだが」


「あ、そうでしたね。あまりにも堂に入った立ち姿だったので、つい。うふふっ」


 怖すぎる。文は焦っていないようだが、さすがに放ってはおけない。


「な、なぁ、紫子。千里はお客さんだし、さ? ゆっくりしててもらおうぜ? うん、料理は僕が手伝うから」


「兄さん、料理なんてできませんよね。さっきから何でここに立ってるんですか? 兄さんこそゆっくりしててください」


「じゃ、じゃあ、華乃に手伝ってもらえば……」


「わたしの料理に獣臭がつくんでダメです。メス猿がこっちに来ないよう見張っててください。それが兄さんの仕事です。ね、千里先輩?」


「ん? いや私は別にどうでもいいが。だが、確かに料理経験がないというのであれば、難波がここにいても仕方ないな。遠慮せず、リビングで彼女とイチャイチャしていればいいんじゃないか」


 文はやはりまるで動じずに、そう返す。

 いいんだな、文……? 僕のサポートなしで、この窮地を切り抜けられるんだな……?


「千里先輩、彼女じゃないです、あの白ギャルは。ふざけたこと言ってると刻みますよ?」


「君もなかなかのメンヘラだな」


「メンヘラじゃないです、ヤンデレです」


 何だそのこだわり。


「ねー、さっきから何グダグダやってんの、じょーたー。そんなメンヘラ、文ちゃんに相手させとけばいーじゃーん」


「メンヘラじゃありません! ヤンデレです!!」


「メンヘラじゃん。こわっ」


 メンヘラとメンヘラが言い合ってる隙に、文とアイコンタクトを交わして、僕はリビングへと戻る。

 任せたぞ、文……信じてるぞ!?


「ねぇ、じょーた。数学わかんなーい」


 漫画でも読んでるのかと思えば、珍しく参考書を広げていた華乃。隣の椅子をぽんぽんと叩いているので、素直に従い、そこに座る。


「ばあちゃんがまーたお説教してきてさー。あたしの成績下がってんのは、毎日毎日お花なんてイジってるせいじゃんねー。ま、そのおかげで早く帰れたんだけど。じょーたに教えてもらえってさー」


「まぁ、いいけど。三角関数か」


 キッチンの様子は気になるが、気にしたところで何もできないし、せっかく文が上手くやっていても僕の挙動が不自然だったら台無しだ。何なら、それを紫子が狙って引き出そうとしているまであり得る。


 あと単純に可愛い女子からの「勉強教えて」ほど満たされるものもなかなかないしな!

 加えて、あの厳しいばあちゃんからも信頼されているという事実はさらに嬉しい。大事な孫とねんごろにしておいて実は愛人持ちだったなんて知られたら殺されるだろうけど。まぁ愛人ではないんだけど、ばあちゃんはセフレなんて言葉知らないだろうしなぁ。セフレとはまた違うニュアンスがあるよな、愛人って。


 ……もし、愛人と呼んでみたら、文はどんな反応を取るのだろうか。試しに……いや、やめておこう。

 文はやっぱりセフレだしな!


「そ。さんかくかんすー」


 椅子ごとガタンと、僕に身を寄せてくる華乃。いつものように、いつの間にかブラウスの第二ボタンまでを開け放っている。


「華乃……どこから手ぇつけてんだよ、応用だろ、これ。そういうとこだぞ、地頭は僕なんかよりずっと良いのにさ。いつも基礎を飛ばそうとするから、頭がぐちゃぐちゃになっちゃうんだろ。何でも基本からじっくりとな、」


「ね、じょーた」


 耳元でこしょこしょと囁いてくる華乃。桃のような甘い匂いが鼻腔をくすぐってくる。


「な、何だよ」


「こーゆーの、さ。近くにクラスメイトと親戚の子がいるのに、こーゆーことしちゃうの、スリル半端なくない? どーてーくんだから、ドキドキしちゃうでしょ……♪」


「は……は!?」


 迫ってくるのは、意地悪げな両目、上擦る唇、真っ白い谷間。内ももを伝ってのぼってくる、細い指先。くすぐったいその感触は鼠径部で止まり。続いて、円を描くように、ゆっくりとなぞってくる。僕の、情欲を……!


「イジったげよっか? 華乃ちゃんのお上品な指先で……♪」


「お前……っ」


「はい、だめーっ。お前ってゆったから、おあずけでーす! あはっ♪ ばあちゃんに叱られちゃうよー?」


 パッと離れて、ニヤーっと笑う、亜麻色の髪の幼なじみ。いつものパターンだった。ほんっといつものパターン。いつものパターンなのにいつも通りフル勃起。


「でも、自分でどーてーほーけーおちんちんシコシコするのは自由だよ? 見ててあげよっか……♪」


 魅力的な提案しやがって、この見せつけFカップぅ……!

 セフレじゃないから、できねーよ、そんなこと!

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