第10話 セフレ憲法記念日
「はぁ……」
文のエロ可愛さに毒気を抜かれ、僕はため息をついてしまう。毒気は抜かれたがちんぽはさらにギンギンだ。
「わかったよ、文。僕だって君にも気持ち良くなってもらいたいからね。お互い都合の良い関係を続けるためだというなら、偽彼氏作戦も甘受しよう。ただし、紫子と華乃を欺くためだけの設定だ。必要以上に噂を広めることは許さない。泣いちゃうからな、僕が」
「分かっている。たまには君を泣かせる側にも立ってみたいが、それはベッドでにしよう」
「楽しみに待ってる」
サド文かぁ……めっちゃ良い。
だが、口で言うほど簡単な話じゃないだろう。これは当然、文もわかっていることだろうが、
「とはいえ、もう僕のベッドでするのは無理だろうなぁ」
こればかりはもう仕方ない。どうしようもない。同じ家に紫子が住んでるんだから。隣の部屋(上京した姉さんが去年まで使っていた部屋)でメンヘラが耳を澄ましているんだから。
「……君のベッドがいい」
「え」
「君のベッドでのエッチはやめたくない」
「ど、どうした文」
僕を見上げてくる文の頬が、ほんのちょっと、本当に僕にしか気づけないくらいだが、膨れている気がする。
まさか、ちょいおこなのか……? あの文が……?
いや、でも。紫子を欺くために合理的になろうと言っていたのは、文の方であって。そんないきなり感情的な意見を出されましても……。
「だって私と丈太の初えっちの場所だもん。ちゅーもエッチも初めては全部あのベッドだもん」
「だもんて」
「私は初体験の思い出を大事にしてしまうような女なんだ。すまないな、都合の悪いことを言ってしまって。だが、これは、この程度のことなら、セフレ憲法には反していないであろう? ……いない、よな……? 面倒くさくなって、捨てたりしない、よな……?」
「するわけないだろ。ものすごく合憲だ」
「ものすごく安心した。いや、分かってはいるぞ? 当然、これまでのような頻度であのベッドを使うのは難しいだろう。他の場所も考えていかなければならない。考える。私が。だが、せめて大事な日ぐらいは、あのベッドがいいんだもん」
「だもんて。え? 大事な日とは……あ、あー、でも、それこそクリスマスとかバレンタインデーとかはさすがに無理だぞ? 前回だって華乃が僕と過ごしたがってきたから、文とは会えなかっただろ。ましてや今年からは自称婚約者の紫子までいるわけで」
「当たり前だ。クリスマスにバレンタインデーって……何を言っているんだ、君は。私達は恋人じゃないんだぞ? そんな戯れ言は、セフレ憲法違反スレスレの発想だ。猛省してほしい」
「ごめんなさい」
「私が言っているのは、その……5月3日……奇しくも憲法記念日だな」
「あー……うん」
「初めてのエッチからちょうど一年の日をほんの少しだけ特別扱いするくらい、セフレとしても普通のことで――いや、すまない。忘れてくれ。決して恋人面するつもりではなくてだな、ほら、私の父の実家って農家だから、暦についての意識がどうしても強くなってしまって、あくまでも種を蒔いてから収穫までの――あ、いや、これは決して種付けを仄めかした発言ではなくて、」
「落ち着け。大丈夫だ、初体験記念日を意識するくらいのこと、セフレ憲法には触れてない。僕も大事にしたいから、そういうのこそ。クリスマスやバレンタインデーなんかより、ずっとね」
「その言い回しはちょっとだけ違憲だと思う」
ちょっとだけ違憲って何だ。
「ごめん、気をつける。でも、わかったよ。5月3日だけは絶対僕のベッドでできるよう、対策を立てていこう。ていうか立ててくれ。僕には無理だから都合良く君に任せる」
「都合良く使ってもらえてものすごく嬉しい」
とりあえずの目標は定まったな。約二週間後、初エッチ記念日――セフレ化記念日に極上のセフレセックスをしてやるのだ……このドスケベ女をめちゃくちゃに犯してやる……!
「でもやっぱ、文の偽彼氏作戦だけじゃ紫子を騙し切るには……」
「不十分だな。相手は白石じゃないんだ。あんなチョロい女子なんて滅多にいるものではない」
「確かに」
「私も柚木紫子と会ったことはないから断言出来ないが……実はあの手紙を読んでいるだけでも、恐怖で鳥肌が立っていた」
「そ、そこまで? いや、確かに長くて重い手紙ではあったけど、求愛要素はなかったはずじゃ……学校側の検閲も入ってたっぽいし」
「いや、縦読みで何度も求婚されていたな」
「ええー……」
そんなの気づかんて……。
「もちろん気付かぬフリで流してはいたが、それでも何故か毎月返ってくる縦読みに、自分のことを婚約者だと思い込んでいる節があったからな……とにかく、柚木紫子は危険だ。出来る限りの対策を打っておくに越したことはない。方針としては、彼女の疑いの目が決して私に向かないようにすることだな」
「だからそれが偽彼氏作戦なんだろ? ふざけんな、このビッチ。ちゅーするぞ」
「ちゅーっ。……それだ、彼氏がいたって、君と浮気をしてしまうような尻軽の可能性だってあるんだ。彼氏持ちという条件だけで、メンヘラからの警戒をゼロに出来るわけではないだろう」
「じゃあやっぱその噂止めようぜ。僕の脳に悪い」
「念には念をだ。そこで、私達が取るべき戦略は……『白石華乃スケープゴート作戦』だな」
「なるほど。ここに来てやっと僕らが相当悪いことしてるって事実を突きつけてくる命名だ。やっぱ言語化って大事」
さすがに罪悪感が襲ってくるぜ……!
「ああ、まさに名前通りの戦略だ。柚木の警戒心を全て白石に向けさせる。メンヘラの執着心を逆に利用してやるんだ」
「まぁ、そもそも昔から紫子は、華乃に対して
中一までの僕の長期休みって、基本それだけで潰れたもんな。
少年野球もサッカースクールもミニバスも、応援に来たあの二人が場外乱闘起こすせいで居づらくなって辞めるハメになったし。僕が打った平凡なファウルボール、大谷の50号ホームランボールかってくらいの取り合いになってたからな……。イップスになった僕はバントしかできなくなったのだった。
だからこそ、紫子が出所してしまったことを、僕の家に住み着いてしまったことを、未だ華乃に伝えられていないのだ。いやまぁ、こんなのすぐにバレることだけど、まだ心の準備ができていないのだ……!
「怯んでいる場合ではないぞ、丈太。これからは、むしろその二人の争いを君が煽っていくんだからな。可能な限り大きな争いにしてやるんだ」
「つまり死ねと」
「安心しろ。死ぬ時は私も一緒だ。最も危険な役目は私が担おう。柚木と白石、どちらもの懐に入る。二枚舌外交だ。私があの二人の修羅場を、私達にとって都合の良いよう、コントロールしてみせる」
「カッコいい……!」
「二人が激しい修羅場を演じている隙に、君はめちゃくちゃに私を抱いて、好きなだけ無責任に中出ししてくれればいい。背徳感も全部精液に乗せて、私の中に都合良く捨ててしまえばいい」
「文……! 中出しは、しない……!」
「そうだった。つい」
こうして、僕たちの当面の方針が決定したのだった。めちゃくちゃ勃起していたので文の二枚舌で外交してもらったのだった。内交もしてもらったのだった。けっきょく肉交もさせてもらったのだった。普通に朝練に来てた運動部もいたので、誰かが踊り場でエロいことしてたっぽいという噂は広まってしまった。
うぐぅ……ギリギリのスリル、ハマっちゃったらヤバいよぉ……。
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