第6話 いとこ! 同居! えちち!
「今日からこのお家でお世話になることになりました。よろしくお願いしますね、丈太兄さん!」
「聞いてない」
僕の目の前に美少女がいた。ダイニングテーブルを挟んで座る、黒髪ロングの色白美少女が満面の笑みを浮かべていた。
「サプライズですので! それと、校内で兄さんの身辺調査をするために一週間ほど身分を秘匿しておく必要がありましたので! 入学からこれまで片道三時間かけて通学していました!」
「
「わたしと離ればなれになっていた三年間に浮気をしていないか調べることですね」
「
「ちなみにわたしはHカップです。校内にわたしより大きな胸を持つ人間はいませんでした」
「訊いてない」
本当に何も聞いていなかったのだ。
最後に会った小六のころと変わらず、お淑やかでお上品な微笑みを浮かべる一つ下のこの従妹――
隣に座る父さんと、紫子の隣で俯く母さんに助けを求めて視線を送る。二人とも微苦笑しながら目を逸らした。何だこいつら。
「いいじゃないか、丈太。紫子ちゃんも大変だったみたいでな、あの学校は相当厳しいらしいから」
ダメ父の言う通り、紫子が入っていた全寮制のお嬢様学園は、厳格な管理教育で有名な女子校だ。
小学校を卒業するまではしょっちゅう泊まりにきていた紫子が、三年間一度も顔を見せに来ることすらできなかったのもそれが理由なのだろう。スマホ類の所持も禁止だったらしく、電話で話したことさえ数えるほどだ。
「そうなんです、叔父さんのおっしゃる通り、わたし耐えられなくて……マリア様の教えを破ってでも、兄さんと繋がることを選択したんです……! 三度の脱走でスリーアウトを食らって、このたび退学処分と相成りました。うふふ」
なに清楚に笑ってんだ、このサラサラ黒髪。
「だからって何でわざわざ他県の高校に」
「兄さんとの約束を守るためですが」
「そうか。知らない約束だ」
「いいじゃない、丈太」
ダメ母が口を挟んでくる。いいじゃなくねーよ。
「紫子ちゃんね。あの厳しい姉さんとお義兄さんに反抗してまで、うちに住むことを決めたのよ? 命の危機を感じて胃を悪くしたお義兄さんは今入院中だわ。ちなみにですが、うちは柚木家に借金をしているので逆らうことはできません」
「聞いてない」
ダメ家だった。
しかしこうなってはダメ息子である僕に発言権なんてない。この決定が覆ることはないだろう。
今日から美少女との共同生活が始まるぞ! きゃっほい!
しかし、紫子……確かに昔から僕に執着してはいたけど、離れていた三年間も抱き続けちゃうほどの感情だったのか……。成長すれば自然に薄れて、恥ずかしくて微笑ましい過去の思い出になってくれるものだと期待していたのに。
それが、高一になっても未だに、だなんて……こいつ、自分がやってることの意味わかってるんだろうか?
だってよぉ。小学生のころから変わらぬお淑やか美少女だけど、当然、小学生のころとは変わってる部分もあるわけで……
「それにしても、大きくなったね、紫子……」
ニコっと笑う紫子は、身長もたぶん165cmほどになっているし、そして何よりうちの制服ブレザーに包まれたそのお胸が、とてもお淑やかとは言えないほどに自己主張していた。パッツパツだった。えちえち清楚だった。自称Hは嘘じゃなかった。
「兄さんこそ、こんなムキムキになられて……トレーニングに精を出しているというお話は聞いていましたが……」
トロンとした目で僕の体をまじまじと見つめてくる紫子。
そうか、そういえばそんな話も手紙に書いたっけな。
あれから三年間、毎月届く紫子からの手紙に、僕はもちろんちゃんと返信していた。毎回一万字近い内容が筆で書かれて送られてくるので、プレッシャーが半端なかった。正直ここ最近はほとんど文に代筆してもらっていた。僕の筆跡をコピーできるの有能すぎる。僕自身ですら区別つかないほどだし。
「兄さんの筆跡に最近変化が生じていたのも、筋肉がついたせいだったんですね」
区別ついてる奴がいた。
「筆圧が強くなっているのは、優しい内容に反して実はわたしに対するイラつきの表れなのではないかと心配していたのですが……安心しました! わたしを抱きしめるための筋肉、わたしたちの子どもを守っていくための筋肉ですもんね!」
「ああ、そうなんだ。特に筋トレ後は制御が効かなくてね……は? 子ども?」
「はい、お互い結婚できる年齢になったら、すぐ結ばれるって誓ってくれましたもんね? 民法が変わってしまったのは残念ですが……わたしが18歳になるまでの、2年と121日間、夫婦生活の予行練習、頑張りましょうね!」
「聞いてない……ことはない……!」
いや、確かに昔はそんな話もしていた。僕も可愛い従妹のそんなおままごとに付き合ってやっていた。お嫁さんにしてあげるとか言っちゃった気もする。うん、言っちゃった。
そのせいで紫子はお隣の幼なじみとしょっちゅう大喧嘩していて、ヒートアップの末、華乃を骨折させたことが、山奥の学校に幽閉されるきっかけとなったわけだ。
「でも、兄さん。兄さんが望むのであれば……赤ちゃんは先に作ってしまうという選択も紫子としては、あり寄りのありです」
どうなってんだ、全寮制のお嬢様学校。そんな思想とそんな言葉どこから入ってくんだよ。
さすがにこの三年間で牙も削がれて、結婚・妊娠・出産という出来事の重さもマリア様に叩き込まれているものだと思っていたのに……どうやら全っ然だったらしい。
手紙は長いながらも穏健で、求愛要素なんて皆無な内容だったのだが。今思えば、学園側の検閲が入っていたのかもしれない。本音では僕の赤ちゃん、あり寄りのありだったのか。
あ、無理です。
背負えないっす、僕なんかの細い足じゃ。紫子のこのドスケベボディは+50キロなんかじゃ済まないって!
170キロ超えのスクワットなんて、僕には一生無理だから!
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