第5話 ド処女ギャル幼なじみ
さすがに調子こきすぎた。
文があんなに拒んできたのに、家まで送り届けた結果、往復で30分。いや本来なら20分でいけたはずだけどお互い足腰がガクガクしていたせいで、18時半を過ぎてしまった。
結果、自宅の前で、
「あれ? どしたの、じょーた。そんな汗だくで」
ちょうど華道教室から帰宅した制服ギャルと、ばったり出くわしてしまうのだった。こいつ毎回毎回僕と会った瞬間にわざわざ第二ボタン開けるのなんなんだよ。今は二人きりだからいいけどさぁ……いやよくないんだった。二人きりとか大ピンチなんだった。
「お、おおおおおう、華乃。いや、ちょっとその、ランニングをね!」
「今日スクワットの日のはずだったじゃん。増量中っしょ? 何で有酸素? 何でそんなキョドってんの?」
はい、無理。死亡。言い訳不可能。
いやいやいや! なに諦めてんだ、僕! こんなことバレたら文にも迷惑かかるんだぞ!? 強引にでも誤魔化し切らなきゃダメだろ!
「いや、その、あ。そうだ。そもそも僕はマッチョを目指しているわけじゃなく、華乃を守れるような強い男になることが目的だからね。ウェイトトレーニングなんて手段の一つでしかないんだ。筋力だけじゃなく、たまには心肺機能も鍛えないといけないと思ってね」
おい、マジかよ僕。こんなスラスラと嘘つけるなんて天才か。将来的に二股とかできちゃうようなクズ男になっちゃうぞ。僕は浮気なんてする男が一番嫌いなのに。
「嘘じゃん。バレバレだから」
「はい。ごめんなさい」
バレバレだった。そりゃそうだ。大量皮余りの僕に二股なんて無理に決まってるわ。
だが、ただでは死なない。せめて文にだけは迷惑のかからないような自爆方法を――
「てか、文ちゃんに聞いたから。さっきライン来た」
「え」
文に、だと……? ま、まさか、文……華乃に全部話したってことなのか……?
本当は、僕の一番に、たった一人の相手になりたくて……僕を道連れに爆弾抱えてライバルの白ギャルに突撃したってことなのか!?
ついに……ついに始まってしまうのか、地獄の修羅場が!?
華乃は、僕から目を逸らし、俯いて、顔を赤くする。そこに浮かぶ感情は、怒りか悲しみか――いや、そのどちらもなのだろう。
導火線にはもう、火がついてしまっている。大惨事を避けるためにはやはり、僕の身に全ての火種を移すという道しか残されていない……!
「か、華乃……! 違うんだ、文は……!」
「嘘。もう誤魔化さなくていいから。……待ち伏せてたんでしょ、あたしのこと」
「うん。はい、そうです。華乃のことが気になりすぎてストーキングしてしまいました」
幼なじみの白ギャル――いや、もはや赤ギャルがチラッと向けてくる瞳は、いじらしく潤んでいた。
これ、あれだ。照れ照れのときの顔だ。ド処女ギャルモードだ。普段あんなエロイジりしてくるくせに、僕がちょっとオスのツラ見せたり、ちょっとイチャっとした雰囲気になったりしたら、小動物みたいになっちゃうやつだ。
正直そんな僕のオス
で、何でいま突然、ド処女モードに入っちゃってんの? 僕が待ち伏せしてたとか、そんな都合の良すぎる勘違いを……ん?
都合良すぎるって、まさか……!
「じょーた、犬の散歩中の文ちゃんにたまたま会ったんでしょ?」
「うん。あー、やられた。
「軽いってゆーか……うん、けっこーあんたのそーゆー情報は報告してくれたりするんだよね。文ちゃんってさー、耳年増タイプってか、そーゆー経験全くないくせに、人の恋愛には興味津々てゆーか……ぶっちゃけムッツリ? で、なんかさー、あたしとじょーたのこと夫婦イジりしてきたりとかさー、くっつけたがったりとか? してくるじゃん?」
「わかるわ。千里、絶対そういう経験ないくせに絶対ムッツリだよな」
「ね。せっかく可愛いのに、絶対彼氏とかできなそう。だからさー、あんたも男友達感覚で話しちゃうんだろーけど、ダメだよ? 文ちゃんだって一応女の子なんだから。筋トレ後はムラムラしちゃって、あたしのことエロい目で見ちゃうからランニングで発散とかさー、うぷぷっ……キモすぎだし……♪ 童貞……童貞童貞どーてーどーてー! あはっ♪」
「そうだよ、童貞だよ、悪かったな、童貞で。童貞だからお前のこと思い出してムラムラしちゃって犬みたいに走り出しちゃうし、それでも結局お前に会いたくてランニング帰りのフリして待ち伏せちゃう童貞だよ、僕は!」
文ぃいいいいいいいいっ! 助かったぁ……!
この可能性まで読んで、僕がちゃんと言い訳できないだろうことまで予想し切って、あらかじめ策を打っておいてくれるとか……! そもそも普段から道化を演じて、華乃に警戒心を抱かせないようにしておくとか……!
有能すぎるって、僕のセフレ!
もしかして背中のあのブラ紐跡も……実は華乃より大きい胸を隠すためにキツめのサイズを……? だとしたらホント申し訳ねぇ……僕が無能なばかりに……でもブラ紐跡はエロいから継続してもらう。
まぁ、とにかく。文の機転のおかげで、危機は去った。
華乃はもう、完全に僕と文が作り上げた嘘を信じ込んでいるようで、赤い顔をニマニマさせ、後ろ手を組んでモジモジとしている。
よかったぁ……! チョロい幼なじみでよかったぁ……!
「あはっ……♪ ね? じゃあ、このあと……シコるんでしょ? はい、童貞くんにおかずプレゼントー♪」
「ちょっ……おま……っ!」
僕の腕に抱きつき、柔らかい胸を押しつけてくる華乃。桃のような香りが立ち上ってきて、僕はついつい前かがみになってしまう。
どうなってんだ僕の皮余り。数十分前に四回出したばかりなんだぞ。
「ぷ。なにこの太い腕ー♪ 童貞のくせにー。抱きしめる相手なんていないくせにー♪ 包茎ちんぽシコシコ専用筋肉ー♪ あたしの頭ナデナデ専用筋肉ー♪」
うん、撫でてやればいいんだな。相変わらずわかりやすい女で何より。幸せそうで何より。
華乃がこうやってチョロかわピュア赤ギャルでいてくれるおかげで、こんなクズ男でも幼なじみをやれている。
こんな幼なじみの目を簡単に欺けてしまうほど文が有能なおかげで、こんなダメ男でも都合の良い関係を続けられている。
ホント奇跡だよなぁ、この状況。
本来の僕にそんな器なんてないのに。華乃の言う通り、一生童貞でもおかしくなかった程度の人間なのだ。
もしも、もう一人でも美少女なんかと関わることになってしまったら、もはや潰れるしかないだろう。
まだまだガリな僕に、合計160キロを担いでスクワットなんて絶対無理だからなぁ。
ま、そんなご都合主義展開、起こるわけがないんだけどな!
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