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東京の郊外に位置する閑静な住宅街。
その中にある、一際大きく目立つ一軒家で暮らす兄弟は、幼い頃から周囲に一目置かれる存在だった。
兄の健吾は地元の小さなIT企業を経営する若きやり手実業家であり、私は美術大学で教授を務めている。
兄は若くしてITビジネスに成功し、オフィスを構え、メディアや雑誌などに取り上げられる事も度々あった。
【起業3年目で年商億超え】
【若き、IT社長 最新鋭のメッセージアプリ開発】
その眩しくなる様な実績は父親の期待を遥かに超えて、家族にとって大きな誇りだった。
父親は常に称賛し、
「啓吾も健吾を見習えよ」
と口癖のように言われた。
「分かったよ」
と受け流す。そんな会話が日常茶飯事だった。
私は美術大学の講師としての才能や学生からの信頼は大きかったものの、世間から注目される兄の成功に比べたら、陰の部分に居るように感じた。
作品や芸術論は評価されていても、自分が追い求める様な大きな成功はまだ訪れていなかった。
兄の事業成功が目に見える形で膨らんでいく度、私の心には何とも言い難い焦燥感に駆られた。
そんな感情になったのは今に始まった事ではなく、小学生の頃からそうだった。
家のリビングにある大きな檜のテーブルに私と、その隣に健吾が座り、目の前には母と父が座っている。
満足した顔で通知表を置く私と、同じくにこやかな兄。
父はその二枚の厚紙を、片方は目を細め微笑みながら読み、もう片方は冷たい酷薄な顔で読んでいた。
「ねえ、どう?今回僕凄く頑張った!四が二つだけで、他は五!」
そう言った私に、父はテーブルに音が出る程、両手を強く打ちつけ、
「健吾は全部五だ。それに比べて啓吾は二つ、五が取れてない。今まで何をしてきたんだか。産んだ奴の顔が見てみたい」
と苦笑いする母の顔を睥睨した。
そこから兄との埋められない溝と言うべきか、そんな差が年々私を追い詰めていった。
そんな私を見て兄はいつも
「僕たちは良い所もあるし、悪い所もある。そこをお互い補い合って助け合うのが兄弟だよ」
と優しく言ってくれた。その言葉が私の心にどれだけ大きな影響を与えただろうか。
同時に兄は人の心がよく分かる慈愛溢れる兄だった。
同と胞 翡翠 @hisui_may5
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