第五話 桜の風に舞う想い
夕暮れの山道を抜けて、
山の中腹にあるその場所は、二人が幼い頃からよく訪れていた思い出の地だ。頭上には、大きな
「ふぅ……ここに来ると、少し落ち着くわね」
「そうだな。ここは昔から変わらないな。――お前も、変わらない」
彼の「変わらない」という言葉に、彼女自身が本当に成長していないのではないかという不安をよぎらせたからだ。
「変わらない……そうね、私はずっと変わってないのかも」
「
「大丈夫よ。ただ……少し、自分が頼りないんじゃないかって思っただけ」
その言葉に、
「頼りない?そんなことないだろう。お前は強いし、ちゃんと自分の道を進んでる。俺はずっとそれを見てきた」
彼の言葉は
「ありがとう。でも、時々思うのよ。あなたの方がずっと、大人になってるんじゃないかって」
「俺が大人になってるかどうかはわからない。でも、だからこそお前を守りたいんだ。頼ってくれ。――お前は特別だから。それに、これでも俺はお前より二つも年上のお兄さんなんだぞ?忘れてないか?」
「特別」という言葉が
「……特別、か」
小さくつぶやく
(守護者として?それとも、私を一人の女性として?)
彼は本当に守護者としての責務だけで自分を見ているのだろうか?それとも、彼の中にもっと特別な感情があるのだろうか。
彼の「守る」という言葉が、どういう意味を持つのか。それがただ両親に誓った
「……
最後まで言い切る前に、声が
(
彼の凛々しい姿は、幼い頃の彼とはまるで別人のように見える。彼はもう、ただの幼馴染ではない。
「……本当に私を守りたいって思ってる?」
「もちろんだ。君の両親に誓ったこともあるけど、それ以上に――俺自身が君を守りたいと思っている。――それは、ずっと変わらない気持ちだよ」
彼の言葉に嘘はない。だが、それでもどこか釈然としないものが
――一時的なもの?期間限定?義務感?兄妹愛?それとも彼の心の奥底には――
(私に対して特別な感情があるの?それとも、私はただ「守るべき存在」でしかないの?)
彼女の心の中で揺れ動く思いを感じ取ったかのように、
彼女がいつの間にか太ももの上で握りしめていた両手を、それより大きな両手で優しく包みこむ。
彼の温かい手のぬくもりが、
「
幼い頃からずっと、彼は
けれどもその瞳の奥には、ただの「幼馴染」という言葉で片づけられない何かが宿っているのかもしれない。
伏せた目線を再度、目の前でしゃがみ、自分の
透き通った淡い茶色が不安げに揺れていた。彼もまた、彼女の中にあるものに応えられるのか、心の奥でわずかな自信を探している。
だけど、まっすぐと、その美しい瞳に自分が映りこんでいる。
彼の瞳の奥にあるのは、自分が自覚すらしていなかった本心をも、静かに見つめてくれる眼差し。
その眼差しに触れた時、
「でも……自信がないの。私、本当に母上の後を、
目の前の彼に、弱さを見せるのが怖かったが、同時に安心感もあった。
「
「……私、昔からあなたには頼ってばかりだったのね」
「そんなことはない。......でも、それでいいんだ。――お前は昔から一人で全てを抱え込もうとする奴だから、俺にも少し分けてくれれば、もっと役に立てる。だからこそ、俺は強くなったんだ」
「……ありがとう、
その瞬間、桜の花びらが風に乗って二人の間を舞い降りた。風が再び吹き抜け、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます