十日目 家具と調理器具

『デイリーボーナスが更新されました! それと新たな実績が追加されました!』

「ふぁ……おはようございますぅ」


いつもの朝の挨拶で目が覚めたよ。でも台詞がちょっと変わってる気がする。

実績って何が変わったんだろ?


なんて頭の中で思ったら、目の前に実績一覧って言うのが表示された。


・木の家具を作ろう 2/4

・鉄の調理器具を作ろう 1/4

・倉庫を建てよう 0/1

・住人を増やそう 1/3

・次の実報酬までの実績の解除数 0/3


この実績を解除していけば、次の報酬が貰えるのかな?

既に作ったことになってるのはなんだろう。

鉄のは分かる。というか、ひとつしかないから多分ナイフ君だよね。

木の家具はベッドとタンスかな?

一応テーブルと椅子もあるけど……もしくはベッドが別で、机か椅子が判定されてるとか? 机と椅子がセットの可能性もあるけど。

あと……上の3つはまだ何とかなるけど、住人は無理じゃないなぁ。

そもそも僕とシーラちゃんしかいないし。


「……むにゃ」


隣で眠るシーラちゃんを見てたら、なんか恥ずかしくなってしまった。


「とりあえずこっそり【浄化】」


汗とか色んな液でぐちょぐちょだったからね……ちょっと他人には見せれられないよ。

部屋の中ごと丸々【浄化】してから、シーラちゃんを起こさないようにこっそりと部屋を出る。


「よかった。綿が復活してる」


砂浜の横にもっさり生え茂っている綿を見て、ちょっと安心したよ。

お布団の綿が足りなかったお陰て、色々痛かったからね。

シーラちゃんが起きたら、お布団を干しつつ充てんしておこうかな。


とりあえず、いつものように椰子の木から角材と葉と実を、砂浜から鉱石素材を、綿花畑から綿を回収。


椰子の木ジュースを飲みつつ、先程の実績を再度表示する。


「倉庫かぁ……必要だとは思うけど、土地が足りなんだよなぁ」


島の土地は狭いのに、砂浜と綿の畑で使っちゃってるから、小さいのでいいのなら作れるけど、どれくらいのサイズが必要なんだろ。


なんて思ったら、地面に線みたいな物が表示された。


「このサイズの土台を作れって事かな? これくらいなら何とか作れると思うけど……」


視線を変えると、線も地頭的に移動する。

ボク達の家の横に、丁度線が綺麗に収まる空間があったので、ここにしようと思ったら、その線が地面に固定されたよ。


「木材の材料足りるかな?」


さすがに家より小さいけど、それでも割と大きな建築物だし、高さはお家と同じ。

土台は木材よりも石材だし、そこまで難しくないけど、床と柱、梁で使ってギリギリかな?

とりあえず土台を作っていたら、 半裸のシーラちゃんがむにゃむにゃ言いながらお家から出てきた。

なんかじっと見ていたい気もしたけど、恥ずかしいのが勝って視線を逸らしちゃた。


「ふぁ~……おはよぅ……なに作ってるの?」

「倉庫を建てようと思って」

「お家も大きくなったのに、倉庫なんて必要なの?」

「倉庫を作ると、何か貰えるみたいんだよねぇ」

「何が貰えるの?」

「それがまだわかんないんだよねぇ」


僕は倉庫を建てつつ、シーラちゃんに火を熾してもらう。


……僕より圧倒的に短い時間で火が付いた。


男の子としての自信が崩れていくなぁ……こればかりは仕方がないんだけど。


「朝はお魚でいい?」

「うん、ごめん、釣竿はそこに……」

「そんなのいいわよ、ちょっと行ってくるわ!」


そう叫んでからパンツをぽーんと僕の方に投げて、人魚の姿になって海に飛び込んでいった。


「女の子なんだからさぁ、うちのお師匠様みたいな事しないでよ……」


あのパンツは後で洗濯しておこう……。


はぁっとため息をつきつつ、倉庫の建築は完了。

木材の在庫が心許ないから、次は鉄の調理器具にしようか。


シーラちゃんが持ってきてくれた鉄くずおたからを前に、なにを作るか少し考える。


手鍋と深鍋、フライパンでいいけるかな?

フライパンは絶対欲しい。

現状だと石焼だし、鍋も石鍋で移動できないのが難点なんだよね。

【浄化】が使えなきゃ、洗うのも大変だもんね、石鍋。


砕けた剣や、穴の開いた鍋を全て【分解】して「鉄」の成分を【抽出】する。

元々鉄製品だから、素材的にはほとんど「鉄」だよ。

ほんの少し炭素とかも混じってるけど、これは鋼鉄を作るために混ぜられたものだね。

あまり細かく素材を抽出すると、なんだかよく分からない物質までリスト化されちゃうから、いつもは割とアバウトに「だいたい鉄!」という感じで【抽出】することにしてるんだ。

【錬金術】を学んだばかりの頃は、この辺が上手く行かなくて、超細かく成分を分解していたら、お師匠様に怒られちゃったんだよね。


「普通の錬金術師はここまでできないよ!」


って、すごい剣幕で驚いちゃった。

そうだよね、そんな1㎎単位で成分を取り出してたら、キリがないもんね。

それ以来は、割とファジーに【抽出】するように心がけているんだよね。


この元素材にもなんか色々混じってるよ。

まぁ、オリハルコンが0.1mg混じってても全く役に立たないからね。

何が入っていても、全部フライパンの素材行きです。

あ、でもなんか金がちょっとだけ多めに混じってたので、それだけは別に分けておいたよ。

多分、金の指輪が混じってたんじゃないかな。もしくは金の装飾かな?

金だけは別に分けておいたよ。

これは後で、収納箱の金入れに足しておくよ。


「フライパンの柄は木でいいかな?」


その辺に転がっていた木材の余りを使って、丸い柄にしてくっ付けておく。


最終的には、結構お手頃サイズのフライパンが完成。

お屋敷で使っていた物よりは小さいけど、二人分ならこんなものかな。

……シーラちゃんが3人分とか言っちゃ駄目だよ? 女の子に失礼です。


そのまま勢いで、手鍋と深鍋も【錬成】。

手鍋の方は、フライパンと同じように木片で柄も作ったよ。

深鍋は、鉄の取っ手をふたつ付けて持てるようにしてあります。

これで色々料理が捗るはず!


「ただいまー!」

「おかえりなさいー」


ちょうど調理道具が完成した所で、シーラちゃんが戻ってきた。


「もう色々作ったの? 早いわねぇ」


扉がまだない倉庫と、作りたてホヤホヤのフライパンを見て、呆れたようにため息をつく。


「シーラちゃんは何獲ってきたの?」

「ブリ!」

「おー!」

「あとイセエビ!」

「おおー!」

「……あと、カキも。ちょっとだけ」

「あ、はい」


なんでシーラちゃんが赤い顔で僕をちらちら見るのでしょうか?

まだお昼にもなってないよ?

まぁ、美味しいんだけどさ……。


とりあえず取ってきてくれたブリを頑張って捌いて、できたばかりのフライパンで焼いてみたよ。

味付けはオイスターソースとお塩。

油を引かなくても、ブリの身からたくさん出てくるから焼くだけで大丈夫!


「うわぁ、いい匂いだわぁ」


ジュージュー音を立てるフライパンを見て、目を輝かせるシーラちゃん。

いつの間にか人型に戻って、パンツも穿いてるんだけど……できればスカートも穿いて欲しいなぁ。目のやり場に困っちゃうよ……。


深鍋の方は海水を汲んで、水で薄めて火にかけて沸かす。

沸騰したらエビをそのまま投入して、赤くなるまで茹でる。


「こっちは味付けしないの?」

「捕れたてだから、これでも十分美味しいよ!」


ぶりは割と多い木から、何度も焼いてはお皿に乗せて、茹で上がったエビは鍋から取り出して、ナイフ君でバッサリ半分にしておいたよ。


「あちち! でもいい匂い!」


カキは……一応中身をブリの油で焼いて付け合わせにしたよ。

美味しいから仕方がないね。昼から食べて元気になっちゃうのは困るけど。

ま、まぁ、空腹に勝るものはないよね。うん。


「できたよー」

「わーい!」


台所横のテーブルでわくわくして待っていたシーラちゃんの目の前に、木皿に積み上げたブリの身と、半分に断ち割ったエビをでんと置く。


「なんだかこうやって見てるの良いわねぇ」

「料理見てて楽しかった?」

「ああ、ううん。なんだか幸せだなーって」

「そ、そうなの?」

「そのうち、その役目はあたしが変わるからね?」

「あ、う、うん」


シーラちゃんがちょっと照れながら、それでもしっかりと僕にそう言った。

それって、お嫁さんが手料理を作ってくれる奴だよね?

な、なんだか照れるな……。でも、うん。お願いします。


「……カキも焼いたんだ?」

「せ、せっかく獲ってきてくれたからね」

「ふーん?」


ブリのお皿の横に付け合わせた焼きガキを見て、なんかニヤニヤしながら、僕のほっぺを突くシーラちゃん。


「味付けはブリと同じだけどね。美味しいと思うよ」

「そーいう意味じゃありませーん。ふふ、食べましょ!」


お皿からブリの切り身を自分のお皿にとって、美味しそうに食べるシーラちゃん。


「美味しい! あとこっちのエビも美味しい! ああもう、全部美味しい!」


たどたどしい持ち方のフォークで、料理やエビの身を次々と刺しては口に運んで満面の笑顔になっていくシーラちゃん。


それを見ながら、なんとなく実績一覧を確認すると。


・木の家具を作ろう 2/4

・鉄の調理器具を作ろう 4/4(達成!)

・倉庫を建てよう 1/1(達成!)

・住人を増やそう 1/3

・次の実報酬までの実績の解除数 2/3


「あ、ちゃんと実績が進んでる!」

「実績って、朝言ってた奴?」

「うん。倉庫と鉄の調理器具が達成になったよ。あとは木の家具がふたつと、住人が2人だね」

「え? じ、住人増やすの?」

「住人なんて、この島には僕とシーラちゃんしかいないし、無理だよね。それに4つの実績のうち3つクリアすればいいから、これは今の所放置で大丈夫」

「そ、そうなの? なぁんだ、ビックリしたぁ」


そしてなぜかシーラちゃんがほっと溜息をついた。


「なんでホッとしてるの?」

「だ、だってそれはそのぉ。男が来たら困るし、女の子だと、取り合いになっちゃうし……」

「取り合いって……ご飯なら人数分用意するよ?」


というか女の子って実はたくさん食べるひとばっかりなの?

僕のお師匠様もたくさん食べる人だったけど……え? それが普通なの?


「そー言う意味じゃないのよ!!」


なんかぷりぷり怒りながら、凄い勢いで食べ物を口に運んでいく。


「……あんたを独り占めできなくなっちゃうじゃない」

「何か言った?」

「何も言ってないわよ! おかわり!」

「食べるの早いね!」


午後は家具の検証をする事にしたよ。

試しに【錬金術】でテーブルと椅子、ベッドを取り込んで見てみたら、テーブルと椅子がセットで「家具」。ベッドが「寝具」という区分だった。

テーブルと椅子はセットで1種類扱いらしい。

テーブルと椅子を試しに素材に【分解】して取り除いてみたら数字が減ったし、椅子を増やしても数値は増えなかった。

となると、残りの家具はシーラちゃんのお洋服の収納だね。

あれはまぁ、僕が触るのはちょっと憚れるので、そのままにしてあるよ。


「検証が終わったところで、シーラちゃん、ちょっと敷布団をもってきて。綿を詰めて増やすから」

「はーい。……ついでに洗濯しましょ。色々ドロドロだったし」

「い、一応【浄化】はしたから……」

「ああ、だから起きた時、ちょっと綺麗に思えたのねぇ」


そう言いながら、お家に入ってお布団を持ってきてくれた。


「干しとくついでに綿を追加するよ」

「それは有難いわ。ちょっと動くと痛かったし……」

「そうだね、途中から気にならなくなったけど、起きたら身体が痛かったよ」「気にならなかったのは、まぁ、夢中だったし……」

「あ、あはは」


シーラちゃんが照れながら、敷布団を砂レンガの上に置く。

その布団の中に、朝用意しておいた綿を全部充填しておいたよ。


「これで「家具」が増えるの?」

「ううん、これは「寝具」。家具は別に用意しないといけないんだよ。それもふたつ」

「ふたつ? それで、なにを作るの?」

「うーん? テーブルと椅子を追加したらクリアできないかな?」

「そんなにいっぱいテーブルと椅子があっても意味ないでしょ。お家狭いし」

「そうだよねぇ……普通に考えて、収納とかソファかな?」


食器を入れる棚と、大きなソファが軽く頭に浮かんだんだよね。

ソファはお師匠様のお気に入りで、よくベッドに戻らずソファでグダグダしていたイメージが強いんだよねぇ。


「収納は分かるけど、ソファってなぁに?」

「フワフワした大きな椅子だよ。二人で横になって座れるくらい、大き、な……シーラちゃん?」


僕の話を聞いて、なんかニッコニコになるシーラちゃん。


「それがいい! それ作って!」

「いいけど、綿が無いとくくれないから、明日だよ?」

「えー? お布団の綿を使っても無理?」

「できるけど、お布団無くなっちゃうよ?」

「そ、それは困るわね……あ、でもそのソファで寝ればいいんじゃない?」

「二人だと流石に狭いよ?」

「私がアンタの上に乗って寝るから平気よぉ」

「それは流石に重いよ」

「あ、あたしは重くなんかないわよ!? 失礼ね!」


なんかプンスカ怒りながら、僕をほっぺを引っ張るシーラちゃん。

女の子の気にすることを言っちゃった僕が悪いよね。


「……まぁ、ベッドが使えなくなるのは困るし、明日でいいわ。その代わり今日は、その……敷布団のフワフワ具合を試すからね! いいかしら!?」

「う、うん? いいけど……沢山詰めたし、結構良くなったと思うよ」

「そー言う意味でもない!」


とりあえず、ソファの枠と、台所の食器棚を作ってこの日は終了。

明日は布を作って、綿を追加してみよう。


サイズはシーラちゃんの希望で結構大きなものにしたよ。

試しに二人で座ってみたシーラちゃんが、僕にしがみ付いて嬉しそうだった。


その後は夕方までのんびり釣りをして、夕食を作って夜を迎えたよ。


敷布団の具合はだいぶ良かったと、シーラちゃんが言ってた。

うん、そうだね……ちょっと無茶しても痛くなかったね、はは。


その日も、だいぶ遅くまで眠れなかった。

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