九日目 にーでーけー
『デイリーボーナスが更新されました! 建築物が破損しています! 早めの修復をお勧めします!』
「ん……はれ?」
いつもの声で目が覚めたけど、僕は昨日、砂浜で力尽きたみたい。
なんか全身が砂でじゃりじゃりする。
「……とりあえず【浄化】」
伸びをしつつ立ち上がって、【生活魔法】で全身を清潔にする。
「【生活魔法】は便利だけど、お風呂に入りたいなぁ……」
お湯に浸かる行為は、清潔云々の問題以上に、心労の回復にいいんだよね。
シーラちゃんもここに住むって言ってたし、お風呂があったらきっと喜ぶよね。
でも人魚さんって、お風呂に入るのかな?
でも汗だくになったりするし、お風呂はあった方がいいよね、うん。多分!
そのまま周囲を確認してみたけど、シーラちゃんは帰ってきていないみたい。
お家の中にもいないね。というか屋根が無いし、早く組み立て直さないとね。
というわけで、建築の続きだね!
一晩寝て魔力も回復したし、砂地や椰子の木も復活したから材料化しないと。
声の人もお家が壊れてるって言ってたもんね。
「さてと、土間のコンクリは固まったかな?」
台所部分のコンクリを、足先でツンツンしてみたけど、硬度は大丈夫っぽい?
というわけで、いつものルーチンを椰子の実ジュースを飲みつつこなして、建築の続きだよ!
屋根の板は、隙間をなるべく潰すように、重ねて斜めで水滴が流れるように調整しつつ、念のために、雨が流れるように
とりあえず、屋根は今日の椰子の木で足りたよ。
扉は玄関と二部屋目に設置する事になったけど、玄関は前みたいに横スライド、内扉は普通に開閉する扉にしてみたよ。
今日分の砂鉄を全部使って、蝶番を作ってみたんだ。
鍵もないし、ノブも丸い取っ手を付けただけだし、つるんとした扉だけど……デザインがアレだけど、使用上は困りはしないか。
この先は寝室で、ベッドと机と椅子しかないしね。
余った木材で、小さなタンスみたいな物は作っておいたよ。
僕の私物は適当に木箱に突っ込んでおけばいいけど、シーラちゃんの私服とかはそうもいかないしね。下着とか増えたら、目のやり場に困っちゃう!
という感じで、扉の設置が完了したら、なんかファンファーレが鳴った。
『実績が解除されました! 「実績:2DK」 ボーナス報酬を選択してください!』
屋根を付けて扉を設置したら、お家として認められたみたい!
そしてボーナス報酬はというと。
・植物の設置
・鉱石の設置
選択肢的には同じだね。
詳細を見てみたら、植物は「綿花」、鉱物は何と「鉄鉱石」だった!
うわぁ、これ意地悪過ぎるでしょ! どっちも欲しすぎる!
でもこの選択肢だと、どう考えても「綿花」だよね。
布は今後必須アイテムになるし、クッションや布団が作れるのが大きい。
僕一人なら、多分鉄鉱石を選んでたと思うけど。
『選ばれなかった方は二度と設置できません、よろしいですか? Y/N』の選択肢が憎らしいよ!
ちょっと手が止まったけど、シーラちゃんの笑顔が頭に浮かんで、僕は「綿花」を選択して「Y」を押す。
そしたら砂浜の横に、同じ幅の畑らしき土の空間ができて、そこになんか草が伸びぽぽぽんと生えて花を付け、あっと言う間に一面の綿畑になった。
「いつもの事ながら、不思議な光景だなぁ……」
綿は結構便利な素材なんだよね。
種子毛繊維は色々な生地や詰め物にできるし、種の周りの繊維からはレーヨンが作れる。種を絞ると油も採れるよ。
鉄鉱石に後ろ髪を引かれるけど、綿花は綿花で有用素材なんだ。
ただ土地を著しく劣化させる側面もあるんだけど……普通に考えると、毎日綿花が成長したら、あっという間に不毛の畑になっちゃうよ。
その辺は、不思議畑だから大丈夫なのかな?
割と綿花がたくさん取れたので、さっそく敷布団を……と思ったけど、さすがに足りなかった。この感じだと、2.3日分は使うかな?
仕方がないので、椰子の葉と綿の茎葉から繊維を抽出し、シーツを作って、ぺらっぺらの敷布団を作っておいた。綿が増える度に充填していこう。
「次は台所の移設だけど……。物理的に移動は重くて無理だから、一度【分解】してから移設だね」
砂浜に無造作に作った石窯や石鍋を、一度【錬金術】で取り込んで、そのまま台所で再【錬成】する。
石の竈と石鍋がピカピカになって、ちょっと嬉しい。
とりあえず竈をもう一つ作って、そっちは石板を置いて焼き物ができるようにしておいた。
その横に作業用のテーブルも置いたよ。
ここがまな板君とナイフ君の新しい仕事場だからね!
あとは水溜め用の石の壺とかも、一回【分解】して移動。設置を済ませておく。
床に作った食料保管用の凹みの上にも、開閉できる板を置いて、落ちないようにしておいたよ。劣化が早そうなものはこっちに全部置いておく。油とかもこっちだね。
壁にも棚や収納を作っておいたよ。置ける物が何もないけど。
食事用のスペースには、テーブルと椅子、収納用の木箱が置いてあるよ。
食器は全部木製。格好つけるために棚に並べておいた。
食器を立てる筒も、椰子の実の殻から作ったよ。
なんか甘い香りのする筒になっちゃったけどね。
魔力が尽きるほど作業に没頭したお陰か、見た目だけは台所らしくなった。
「はぁ、疲れたぁ……そしてお腹が空いたなぁ……」
作業を中断して外に出たら、結構な高い所に太陽が移動していた。
お昼どころか、夕方に近いくらいまで作業していたみたい。
そりゃお腹も空くよね!
「釣りをしないとお魚の在庫が心許ないんだよね……」
獲った食材はシーラちゃんが凄い勢いで食べるから、保存食が殆ど残ってないんだ。
一応釣り用の干し魚は残してあるし、釣り糸をたらせばすぐお魚が釣れるから、困りはしないんだけど。
「というか今日もよく釣れるなぁ……」
ぶよぶよしたお魚がだけどね。
……いっその事、毒素を【錬金術】で抜いて食べてみようかな?
結構大きいお魚だし、食べる所はあると思うんだよね。
でも毒の処理ができないから駄目か……ガラスがもっと溜まったら、瓶を作って貯めてみようかな? なんに使うかさっぱり思いつかないけど。
「今日の所は見逃してあげるから、もう釣られないでね!」
ぷくーっと脹れるお魚さんを海に投げ込みつつ、食べられるお魚さんは全部回収。
新しく出来た深場の方に行けば、ちょっと変わったのが釣れるかもしれないけど……。深場のもっと奥の方では、今日も鮫さんが元気に泳いでいます。
シーラちゃんは見つからない的な事を言ってたけど、大丈夫かなぁ。
「ただいまー! って、きゃ!?」
しつこく釣れるぶよぶよのお魚を海に投げたら、砂浜に元気よくシーラちゃんが飛び出してきて……顔にべチンと丁度良く、お魚が乗っかった……。
「ち、ちょっと! またなの!?」
「ご、ごめん!?」
頭の上でぷくーっと膨らむお魚さん同様、頬を膨らませるシーラちゃん。
慌てて頭の上のお魚を取ってその辺にポイしつつ、【浄化】で、お魚の粘々を取ってあげる。
「あたしの気配くらい感じなさいよ、男の子でしょ」
「そんなのできないよ!?」
「……ん!」
ぷんすか怒るシーラちゃんがプイっと横を向きつつ、妙に膨らんだ網を差し出してきた。
「わぁ、魚さんがいっぱい!」
「お土産よ。感謝しなさいよね?」
「うん! ありがとう!」
ちらちら僕を見ては、なんか恥ずかしそうに、何度も視線を外すシーラちゃんが可愛いと思う。
「それとこっちは、おばばの倉庫から適当に持ってきた人間の道具なんだけど」
それとは別に、よいしょっという感じで海の中から引き上げたのは……。
「鉄製品!? こんなにいっぱい!?」
もうひとつの網に入っていたのは、錆び付いてボロボロだったけど、ひしゃげた剣や鉄鍋などの残骸。それも結構な量。僕じゃ1ミリも動かせないくらいの山盛りの
「まったく、重かったわよぉ」
「すごい! これだけあれば鍋やフライパンなら作れちゃう!」
「わきゃ!?」
あまりに嬉しくなってシーラちゃんに抱き付いたら、なぜか無言で頭から湯気を出して固まっちゃった。
「あ、ご、ごめん!」
慌てて飛び退いたけど、シーラちゃんは真っ赤な顔のまま、なんか恥ずかしそうにもじもじしてる。
「う、ううん、いいんだけど……思った通りの反応で嬉しかったというか、ちょっと照れただけなんだからね! こ、これで美味しい料理を作りなさいよね!」
「え? う、うん。もちろんだよ!」
錆びだらけだし、穴は開いてるし、剣は折れてひん曲がってるしで、普通に考えたら使えない物ばかりなんだけど……【錬金術】なら別だよ。
全部鉄として【錬成】して、いろんな物を作っちゃう!
「でも今日は無理かな。さすがに魔力が足りないよ」
「え? そ、そうなの?」
僕が困ったように言ったら、シーラちゃんがなんかしょんぼりしちゃった。
「あ、でも料理はできるよ? お家の中に台所を作ったんだ」
「……そう言えば、なんかお家が大きくなってるわね。全然気づかなかったわ」
新しく作ったお家を紹介したら、シーラちゃんがきょとんとして、しげしげと大きくなったお家を見て、やっと存在に気付いたように目を丸くした。
「気付いてよ! 僕、結構頑張ったんだよ!?」
「だ、だって、アンタに再開して嬉しくて……それどころじゃなかったんだもん」
なんかもじもじしながら、人間モードになったシーラちゃんが、ちらちら僕を見てくる。うん。可愛すぎてどうにかなっちゃいそうだよ。
「そ、それじゃお家の中を案内するよ」
「う、うん……ただいまー」
「はい。おかえりなさい」
玄関を開けて招いたら、シーラちゃんが「ただいま」って言ってくれたから、嬉しくなって僕も返事を返した。
「んふふ」
「あはは」
そしてなんか気恥ずかしくなって、二人して笑っちゃった。
「ふぁ~……随分変わったわねぇ……」
台所を案内したら、キョロキョロ見回してしきりに感心してくれる。
こんな反応が見られるなら、頑張った甲斐があるよね!
「ね、ねぇちょっと、こっちの扉、開かないんだけど!?」
部屋の中を探検していたシーラちゃんが、寝室の扉を開けようとして、なんか焦っていた。
「その扉は横じゃなくて、押して開けるんだよ」
「なんでそんなめんどくさい作りにしたのよ!」
スライド式だと、その分スペースが必要だから、壁が有効活用できないんだよね。
そんな事を説明しつつ、開け方を教えたら、何度も開閉して楽しそうな顔をする。
「なんか不思議ねぇ、これ」
「鍵が付いてないから入りたい放題だけどね」
「鍵? 扉を開けられなくする必要なんてないでしょ?」
「うん、ないけどね」
そして扉の奥の部屋を見たシーラちゃんが、なんかにっこり笑って一言。
「えっち」
「なんで!?」
「だって寝る場所だけ、なんか立派な家具が置いてあるじゃない。どうやって作ったのよ、このベッドの上のフワフワしたの」
「す、睡眠は大切なんだよ! あとそれはお家を作って貰った、追加報酬の綿から作ったんだ」
まだ綿が足りなさ過ぎて、ペラペラだけどね。
それでもシーラちゃんは敷布団を気に入ったらしく、何度も指で突いて反応を楽しんでいる。
「明日になったら、もうちょっとフワフワにするから、今日はこれで我慢して寝てね」
「寝られるのかしらねぇ?」
「え?」
「な、なんでもないわよぉ。それよりお腹すいちゃった。料理作って!」
「う、うん?」
なんか呟いたシーラちゃんが、なぜか赤い顔をしてる。
「そうだね、色々獲ってきてくれたから、ご飯にしよう」
「カキも一杯獲ってきたからね!」
「ああ。うん……それはオイスターソースにするよ」
そういや、オイスターソースは上手く出来たかな?
たるからちょっと掬って舐めてみたけど……うんうん、いい味だね!
「何その黒い水?」
「調味料を作ってみたんだ。今日の料理に使うから、期待してて」
「そうなの!? 楽しみにしてるわ!」
とりあえずシーラちゃんが獲ってきてくれたエビやら魚を処理しないとね。
腕まくりして気合を入れたら、シーラちゃんが小さく手を上げて、上目遣いで僕を見てきた。
「あ、あたしも手伝うから、色々教えて?」
「料理してみたいの?」
「あ、うん……おばばに言われたの。つ、つがいに手料理を提供するのは…良妻の基本…だっ…て……」
しりすぼみでそう言って、夕日より真っ赤になるシーラちゃん。
「分かった。色々教えるよ! ボクもシーラちゃんのお料理食べてみたいしね!」
「ホント!?」
「本当だよ!」
僕がそう言ったら、ぱぁっと笑顔になって、僕に飛びついて喜んでくれるシーラちゃんが眩しいなぁ。
あと、お胸が顔に当たって幸せです。
その日は基本的な食材の捌き方をレクチャーし、塩と焼き加減の概念を教えたよ。
半身のエビやら焼き魚に、オイスターソースを使ってみたけど、これヤバいね。
美味しすぎる。でも無性に野菜炒めが食べたくなるなぁ。
オイスターソースは、シーラちゃんも大喜びしてくれたから、作ってよかったよ。
あと、ちょくちょく、おずおずと勧められるカキの使い道の言い訳にもなったし。
いくつかは食べたけど、美味しいけど……眠れなくなるのは困るからね。
……まぁ、無理だったんですけど!
結局、夜明け前までシーラちゃんに食べられちゃったお陰で、寝不足確定です。
敷布団がちょっとごつごつしてたから、明日は綿を充てんしないとね、はは。
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