八日目 家を大きくしよう
『おはようございます! 島の資材がリセットされました。今日も忘れずに素材に変換してくださいね!』
「おはようございます……まぁ、僕は寝てないけどね」
いつもの声で起こされ、というかぼけーっと天井のない天井を眺めて起きていた僕は、ふぁと欠伸しながら、隣ですやすや眠るシーラちゃんの頭を撫でてみる。
「ん、んふふふ……もっと苦いの飲ませて……ふにゅ……」
10回から先は覚えてないけど、さすがにもう無理!って言ったら、僕のを口で元気にしたりしてたからかな。なんかえっちな夢を見ているみたい。
今は寝てるけど、明け方くらいまで僕を食べる事に夢中だったからね……。
僕は僕で、なんか妙に体が熱くて結局寝れてないんだけど。
これ絶対、昨日食べたカキの効果だよね……。
次はあまり食べないように気を付けようって心に誓ったよ。
「1名の滞在時間が期待時間を超えたため、1名を住人に指定できます。住民に指定しますか?「Y/Y」」
なんて考えていたら、頭の中の声の人が、いつもとちょっと違う事を言ってきた。
滞在時間が超えたってなんだろ? 1名って事はシーラちゃんの事かな?
「というか、選択肢のボタンに「Y」しかないんだけど?」
「それはぁ、私がどこにも行く気が無いって思ってるからだと思うわぁ」
ボタンを前に、どうしたものかと考えていたら、僕にのしかかりながら可愛く欠伸をする。
「ふぁ、おはよ~」
「ごめん、起こしちゃった?」
「うぅん。いいのよ。それよりも聞こえたんだけど、あたしをこの島の住人にできるって事よね?」
「多分そういう事だと思うんだけど、いいの?」
「いいも何も、ずっと一緒にいるつもりだったんだけど? あたしを追い出す気でもない限りなんだけど……まさか?」
僕の背中にのしかかりながら、なんか不安そうな顔をして見つめてくる。
「ないない! そんな気これっぽっちもないよ!?」
「ん。ならいいんだけど……えへへ」
慌てて否定する僕にのしかかったまま、シーラちゃんがなんだか嬉しそうに笑う。
「それじゃ押すよ?」
「もちろんいいわよ。でもこれで何が変わるのかしら?」
「押してみれば分かるかな?」
シーラちゃんの許可も貰ったので、「Y/Y」のボタンを押してみた。
『住人登録完了! 島の規模を「ワンルーム」から「
ボタンを押したら、いつもの声が何かを言い出して……島が「ゴゴゴ」と地響きを立て始めた!?
「な、なにが起きてるの!?」
シーラちゃんが僕にしがみ付いて怯えてるけど……。
すぐに地響きは収まって、いつもの静かな島になる。
「……なんか広くなってる?」
窓から外を見て見ると、なんとなく海岸線が遠くになってるような?
「あ、ほんとだ。なんか島が広くなってる」
そんな僕の頭を抱え込むように、シーラちゃんが窓の外を覗き見て驚いている。でもその体制、ちょっとおっぱいが頭の上に乗っかって、なんというか……。
「外に出てみる? ……って、ちょっと?」
僕の頭の上でもぞもぞしていたシーラちゃんが、そのまま視線を下に向けて、ちょっとえっちな顔になった。
「……なんか大きくなってない?」
「そ、それはシーラちゃんが裸で、その、僕の背中とか頭に当たってるし……そ、それに男の子は、朝だいたいこうなるんだよ!」
「ふぅん?」
シーラちゃんがえっちな顔で微笑みながら、するすると僕の前に移動してくる。
「ち、ちょっと何するの!?」
「だってこのままじゃ歩きづらいでしょ。あたしがなんとかしてあげるわ、ん……」
「シーラちゃん駄目だよ、もう朝だよ!? 朝の錬金作業もしてないし、ご飯だって……わぁ!?」
「はむっ」
……この日の作業と差ご飯は、お昼ご飯のあとになった。
「それじゃ、あたしは一回おばばの所に行ってくるわね!」
なんだか艶々したシーラちゃんが、んーと伸びをして僕に笑いかける。
「おばばの所って、難破船から拾ってきた変なのがいっぱいあるから、もしかしたら、ここで育てられる植物もあるかもしれないし!」
「そ、そうだねぇ……島もちょっと大きくなったし」
ちょっと力が出ない感じで周囲を見てみる。
なんで力が出ないかは聞かないでください……。
地響きの後から、島がひと回りくらい大きくなったかな。
中心の椰子の木の周辺から、徒歩で20歩分くらい海岸線が遠くなっている。
お影で、ただでさえ小さな小屋が余計に小さく見えちゃう。
浅瀬の方は広くなったなーというイメージだけど、深場だった所は、ただの浅瀬になっちゃったかな。
その奥にもっと深い場所ができたけど……それはつまり、鮫さんが僕に近づきやすくなったという事なんだよね。
……あっちにはあまり近寄らないようにしよう。
「それじゃ、僕は【錬金術】で素材の加工と、屋根を修復しておくよ。ご飯はどうする?」
「戻って来られるのは夜中化明日の朝くらいだと思うから、今日の分は要らないわ。でも……」
「うん?」
シーラちゃんが少しだけ視線を落とし、もじもじしながらチラチラっと僕を見る。
「寂しくない?」
「大丈夫だよ?」
心配させないようにと、元気にそう言ったら、なぜかシーラちゃんが頬を膨らませた。
「そこは寂しいって言ってもらいたかったんだけど?」
「……ホントは寂しいです、はい」
「んふふ、知ってた!」
そう言って、僕に飛びつきギュッと抱きしめてくれた。
シーラちゃんから感じる温もりが嬉しくて、僕も思わずシーラちゃんを抱きしめた。
息がかかるくらいの距離に、シーラちゃんの可愛い顔がある。
長いまつ毛に、夜空の星のように輝く瞳。
濡れた唇から漏れる吐息と、優しい声。
ああ、僕はもう……この女の子が大好きなんだ。
誰かに抱きしめられて嬉しいなんて、知らなかった。
そのまま、無言でしばらくお互い抱きしめたまましばし過ごす。
「……なんか、離れられなくなっちゃうから、そろそろ行くわ」
「うん。僕も寂しくなっちゃう前に、仕事しないと」
「大丈夫よぉ。必ず帰ってくるから。あんたの方こそ、あたしの事、忘れちゃ嫌よ?」
「それこそ大丈夫。僕はもう、シーラちゃんなしの生活は考えられなくなっちゃったもん」
「……あたしもよ」
僕に聞こえないくらいの小さな声で、何かを呟いたシーラちゃんが、なんかをごまかすように、大きな声を上げた。
「そ、それじゃ、チョッ早で帰ってくるから! 絶対、ぜーったい帰ってくるからね!」
僕にキスをし、そう言い残して、人魚の姿に戻って海に飛び込み、何度も振り向き、手を振って海に戻っていった。
その綺麗な緑の髪が波間に見えなくなって……なんだか心の中にぽっかり穴が開いたような気がしてしまう。
まいったね。僕、こんなに甘えん坊だったって知らなかったよ。
僕は捨て子だったし、【錬金術】を覚えるまでは、とにかく日々を生きていくのに必死だった。
人の温もりを知ったのは、お師匠様に拾われてからなんだよね。
そのお師匠様は何て言うか……修行は厳しいし、生活能力が皆無だし、親というよりは、大きな虎か猫ちゃんの世話をしていた気分だった。
だから、こんなに人恋しい気分になったのは、生まれて初めてだった。
「……シーラちゃんが帰って来なかったら、僕は寂しくて死んじゃう気がする」
でも、必ず帰ってきてくれるって言っていたから。僕は信じて島を発展させるだけだね。
「さて、とりあえず椰子の木と砂の素材化からしよう!」
ご飯代わりに椰子の実ジュースを飲んで、ちょっと気合を入れる。
それと島が大きくなったのと、この「ヒント」っていう「ボタン」が気になるんだよね。
「押せばいいのかな?」
「Y/N」ボタンのようにちょいと押してみたら、もう一枚ウィンドウが表示された。
・2DKの解放まで
・2部屋
・台所の作成
・寝室の作成
これをこなせば、次の実績が解除されるのかな?
「にーでぃけー」ってのはよくわからないけど、部屋を増やして、台所と寝所を作ればいいって事かな。
「それなら特に難しくはないけど、素材、特に木材が足りないな」
今ある小屋自体を素材として回さないと、絶対足りない気がする。
「まずは資材の素材化からだね。今回の家の屋根は、葉っぱじゃなくて木の板にしよう」
それだけだと強度の不安があるけど、強風が吹いたり、雨が降るまでは板でいいか。
火が潤沢に使えるなら、瓦でも焼くんだけど……。
海水からマグネシウムを抜き出して……うん、駄目だね。お師匠様のお屋敷みたいに吹き飛んじゃう。
マグネシウムは燃えるけど、爆発するのはいただけないよね。
「魔力が尽きるまで、進められるところまで進めてみよう!」
シーラちゃんが帰ってきたら驚くくらいのお家にしてみたい。
今の僕のモチベーションはそれがほぼ100%だよ!
椰子の木もそのまま素材に回しちゃうから、今回は角材にもしないよ!
葉っぱと実だけは分けておいて、そのまま小屋と混ぜて素材化する。
「ち、ちょっと【分解】した素材が多すぎるかな……でもまだ何とか行ける!」
元々の小屋の土台を一部残して、そこから一回り分部屋を広く取る。
その横に、もうひと区画分の土台を追加して、柱を立てる。
手前の部屋は半分土間、というか素材の砂と珊瑚砂から作った石灰、そして水を混ぜてコンクリートに変えて下に敷く。
「そこから一段高くして、そこから先を生活エリアにしよう。テーブルとかはこっちに置いて、奥の部屋にベッドを設置すれば寝室になるかな?」
玄関の入り口扉から入ってすぐが、コンクリ床の台所。
その横は、板張にして生活エリアにしよう。
砂浜の砂は生活エリアに持ち込まないように、土足厳禁にしよう。
板間はスリッパという突っ掛けの靴みたいなもので移動する事にしよう。スリッパは椰子の繊維から作ればいいか。二人分なら多分足りる。
問題はベッドなんだけど……綿が欲しいなぁ。
鉄が沢山使えるなら、スプリングを大量に作ってベッドに設置するんだけど。
今の鉄材の量じゃ到底無理だからね。
クッションも作れる綿は今一番欲しい素材だよ。羊毛でもいいよ!
とりあえず土台を組み直し、二部屋分の梁を組み、床板を敷いて、コンクリを流し込み、固まるまでちょっと休憩!
「魔力はまだ余裕があるかなぁ……でもお腹空いたから、休憩!」
お魚は昨日の残り物を温めて食べればいいかな。
カキも大量に残ってるけど……うん。これは今度にしよう。というか干しておこうかな! 今食べたらまた寝れなくなっちゃうからじゃないよ!
「それよりカキって、【分解】で見える解説だと、塩漬けにして発酵させると、いい調味料になるみたいなんだよね……試してみようかな?」
殻も炭酸カルシウムが【抽出】できるし、畑に撒いたり、コンクリートにも使えるね。
上手く行くかは分からないけど、小さな木の樽を作って、塩漬けカキを醗酵させてみよう。
発酵に失敗したら、そのまま【分解】して畑の肥料にします!
釣った魚を焼きながら、手持無沙汰で小さな樽を【錬成】する。
僕でも抱えられるくらい小さい奴だよ。
石鍋でカキの身を茹で、塩を足して……アミノ酸と糖分は、海藻と椰子の実から採ればいいか。
遅いお昼ごはんのお魚を焼きつつ、石鍋の中身をある程度煮詰たら、【分解】でカキの身ごと細かくして、樽に詰める。
「……この樽は冷やしておきたいんだけど、どうしようかな?」
とりあえず台所の一角のコンクリートの床を、収納の為に凹ませておく。
後で板を置いて蓋をすれば、多少は熱から守れるかな。
「この気温だと、長い間は持たないと思うしね……上手く行ったらちょっとずつ作って貯めれればいいか」
お魚を食べつつ、土台を完成させる。
「コンクリ部分は、あとで壁を作ろう。日の光に当てればすぐ乾くかな」
台所部分を後回しにして、生活スペースの壁と天井を仕上げていく。
キッチンに置く机と椅子。寝室のベッドは、壁を設置する前に先に置いておくよ。
一度素材に戻してから、再度家具として組み立てるから、持つ必要はないよ。あとで運ぶのは、僕の力じゃ無理だからね!
「屋根が無くなっちゃった分は、葉っぱじゃなくて板にしよう」
ベニヤを置いただけの簡素な天井だけどね。
「このままだと強度に問題が出るから、瓦とかを焼きたいんだけど、やっぱ火が足りないなぁ」
陶器窯だけなら造るのは簡単だけど、薪がもったいなさ過ぎて絶対無理。
雨が降ったり、強風が吹かない限りは今のままでもまぁいいかと思いつつ、なんとなく寝室とキッチンには窓を作っておく。
ガラスがはめ込めるのは、どっちか一か所だけだけどね。
気分の問題だけど、寝室の方にガラス窓を付けておこう。
色々改良点を弄りつつ、夕方までに何とか建物の外観が完成した。
屋根が無いけどね!
やっぱり木材が足りなかったよ!
壁は漆喰を追加してなんとか仕上げたけど、ない材料はどうにもならないよね。
明日の椰子の木で多分屋根ができると思うけど……。
「外観と家具だけじゃ、実績解除にならないみたいなんだよね」
台所はまだ竈とかを置いてないから、それが原因かもしれないけど。
一応キッチンと寝室は、小屋の時のをそのまま再配置しただけだから、条件は問題ないはず。
ヒントの方も……。
・2DKの解放まで
・2部屋
・台所の作成(達成!)
・寝室の作成(達成!)
ってなってるしね!
やっぱり屋根が無いと言えとして認めてもらえないみたい。
あとは出入り口の扉もかな。前回は玄関を作ったら実績解除したし。
「でも、今日はもう無理……魔力が足りない……お腹も空いたけど、動けない……」
砂浜で大の字になってひっくり返った僕は、そのまま動けなくなって、満天の星空を見上げる事になっちゃったよ。
「ずいぶん遅くなっちゃったけど……」
星の光に揺れる波間を見ても、あの綺麗な緑の髪は見えない。
「夜中か明日って言ってから……寝て起きれば……いる、かも……ね」
疲れ切った僕に訪れる、
昨日一昨日と隣に感じていた、シーラちゃんの温もりを思い出し、それがない事に寂しさを感じながら、僕の意識はゆっくりと闇に落ちていった。
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