七日目 島の発展計画

『おはようございます! 島の資材がリセットされましたよ!』


「んん? なぁに今の声?」


僕の横で眠っていたシイラちゃんが、目をこしこししながらむくりと起きてきた。

んーと伸びをして、はふっと欠伸をしてるんだけど……なんかもう、おっぱいが凄い主張している。


「お、おはよう。今の声は、椰子の木と砂浜がリセットされた合図だよ」

「なんで照れてるのよぉ?」


僕に纏わりつきながら、僕の頬を指でぐりぐりするシイラちゃん。


「だ、だっては、裸だし……」

「何よぉ、あれだけ愛し合ったのに。おっぱいだってすごい勢いで吸ったり揉んでたじゃない?」

「ああああ、そ、それはそのぉ……ごめん!」

「あ、謝らないでよ! 恥ずかしくなるじゃない、もう!」


僕に纏わりついたままのシイラさんが、なんか照れてプイっと横を向く。


「と、とりあえず椰子の木と砂浜を【錬成】するから、外に出るね」

「ああん、もう、朝からもいいのよ?」

「ま、魔力がもったいないから朝一番で仕事しないといけないんだよー」


正直昨日の夜の事を思い出すと、ものすごい誘惑にかられるんだけど……。


「魔力の回復を考えると、朝いちでやっておきたいんだよ」

「ぶぅー」


シイラちゃんを背負ったまま、家から外に出る。


「……ホントだ。木が生えてる。不思議ねぇ」

「本当に不思議だよねぇ。それじゃ、ちゃちゃっと解体しちゃうから、そこで見てて」

「はーい」


人魚の姿に戻り、胸に布を巻いたシイラちゃんを観客にして、もうルーティンになりかけている椰子の木の解体と、新たなルーティンになりそうな砂浜の【分解】と【錬成】を終わらせる。


「ふぁあ、すっごいわねぇ……」

「そう? 【錬金術師】ならこれくらい普通だけど?」


【分解】の過程で空を舞う椰子の木と砂を見て、シイラちゃんが驚いているけど、これくらい誰でもできるよ?

僕のお師匠様なら、これくらいで完了しちゃうしね。

ボクはまだまだ見習いだから、【分解】や【抽出】に時間がかかる分、もたもた感が凄いんだよね。


というわけで、いつものように角材と砂鉄を固めた小さな鉄塊、砂のブロックと砂金に分けて、そのへんに積んだり箱に仕舞ったりしておく。

珪砂を固めて作った石英は、そのまま窓にガラスにしてはめ込む。

これで窓の「田」が3カ所埋まった。あと一回分で、窓ガラスが完成だね!

そしてそんなガラスを、シイラちゃんが興味津々の表情で突いている。


「なにこれ? 透明で綺麗ねぇ」

「石英…水晶って言う鉱物だよ。透明の容器とか、こういう感じで光取りの壁みたいなのが作れるんだ」

「へぇ、面白いのねぇ」


透明なガラスに興味津々のシイラちゃん。

こんなに気になるなら、水晶でなにか作ってあげたいなぁ。

装飾品とか、飾り物も作れるしね。


「まぁ、それは次に考えるとして……まずはご飯にしようか」

「あ、それじゃあたしがなんか獲ってくるわ! 美味しく焼いて頂戴!」


ご飯の単語に反応したシーラちゃんがそう言うと、砂浜を滑って海に飛び込んでいった。


「ぶよぶよしたお魚は要らないからねー?」

「いくらあたし達でも、フグなんて食べないわよ! ちょっと大きなエビとか獲ってくるわー」


可愛く手を振って、砂浜から沖に潜っていっちゃった。

ちょっと寂しいと思ったのはなんでだろうね。


とりあえず火を熾し、鉄板ならぬ石板を掃除して、料理の準備は完了。

椰子の実も二人分穴を空けて、ストローを刺しておいたよ。

あとはシーラちゃんが戻ってくるまで待つだけなんだけど……。

その前に、やってきたいことがあるんだよね。

シイラちゃんが人間の姿になると、その……下半身が丸だしなのが気になって気になって。

いやまぁ、そういうコトをするためだからいいと言えばいいのかもしれないけど。

年中発情してるわけにもいかないしね。この島を発展させなきゃいけないし。


「と、とにかく、椰子の実の繊維と、葉っぱを纏めて【分解】……」


家の裏で余り気味になっていた葉っぱと、椰子の実の周りを使って「繊維」を作る。


「そして【抽出】から……【錬成】!」


イメージは、王都で見たオシャレなお洋服。

ふんわりした白いスカートが可愛いなぁと思っていたんだよね。

あとは下着……なんて女の子が穿いている実物は見た事はないけど、一応知ってるんだよね。

お師匠様がその辺に脱ぎ散らかしてるのを洗濯してたし。


まぁ、染料も何もないし、素材の色そのまんまなんだけど。

一応葉っぱの色素から、薄い緑には仕上げられるから、そうしてみようかな。

シーラちゃんの髪色も緑だし、合わせる感じで。


「デザインセンスに関しては許して欲しいなぁ……っと、集中集中!!」


危なくステテコパンツみたいなになりかけたけど、なんとか持ち直して、女の子っぽいパンツを数枚【錬成】する。

服はスカートを3枚と、ワンピースを1枚作ったところで素材が足りなくなりました。

葉っぱもいっぱいあったんだけどなぁ。やっぱり繊維だけ抽出すると目減りするね。

椰子の実も事故は全部つるつるになっちゃったよ。


「まぁ、枕にはいいよね。チクチクしないし」


ついでにジュースを飲んだ身から石鹸を【錬成】しておく。


「それとアレだよね。小屋の床を作ろう」

昨日色々いたしてる間、床が砂だと色々問題があったんだよね……。

敢えて何が問題だったとは言わないけど……お互いを何回水で洗った事か。


「角材は結構あるし、床くらいなら敷けるよね」


【錬金術】で角材と砂ブロックを固めた石を運び、床に土台を作ってから、角材を板にして敷き詰める。


「この辺は簡単だよね。サクッと完了っと」


床を敷き詰めたので、寝ると身体が痛くなる可能性もあるけど……。


「その場合は砂地で寝ればいいかな。寒くないし」


一応思いついて、家具らしきものも作ってみた。


テーブルと椅子はいいけど、ベッドは布が無いとただの板だなぁ。

あと一人サイズだとちょっと小さいかなぁ……なんてエッチな事を考えて、大きめなものに変更しておいた。


「服を作らなければ、シーツくらいは作れたかも? ま、後悔はしてないけど!」


とりあえず今日できる事はこれくらいかな。

材料もないし、魔力もだいぶ使っちゃったし。


「ただいまー!」


とか言ってたら、シーラちゃんが戻ってきたよ。

なんか網みたいなもので、大きな魚介類を持ってきてくれた。


「おかえりー。網なんてあったんだ?」

「ああこれ? 随分前に難破船から拾ってきたのよ。便利でしょ」


とても古いもので、穴あきまくりだけど、網は網。

手でいちいち持ってきたら大変だしね。シーラちゃんは賢いね!


「それで、なにを獲ってきたの?」

「イーセエビっていう大きなエビよ! あと美味しいって噂のお魚を獲ってきた!」

「おー! エビ! おっきい!」


シーラちゃんが持ってきてくれたエビはとっても大きい! それも二匹も!

まな板からはみ出る位のサイズのエビが、なんか僕を威嚇してくる。

お魚はなんだろう? 深場で獲れるお魚みたいな銀色のお魚だけど、大きさが段違いだ。エビよりもおっきい。


「でも、大きすぎて貝殻のナイフじゃ捌けないなぁ、これ」


びちびち跳ねてる魚と僕を威嚇してくるエビを見ながら、ちょっと途方に暮れる。

手にした貝殻のナイフ君が、なんだか寂しそうだ。


「あー……大きすぎると料理できないんだ?」


それを見て、シーラちゃんが調子に乗ったとしょぼんとしてるけど。


「でも、大丈夫。ちゃんと考えてあるから」


こうなったら、集めた鉄の出番だよね。

小屋に戻って鉄塊を回収して来て、まな板の上の貝殻のナイフ君の横に置く。


「何をする気なの?」

「貝殻のナイフと鉄を【錬成】して、鋼のナイフにするんだ」


厚みを押さえれば、この鉄材でも結構大きいのが作れるはず!


「というわけで【分解】!」


貝殻の成分を混ぜ込む事で、鉄を強力な鋼にできるんだよね。

本来は焼き入れしないといけないんだけど、それは【錬金術】のチートな所。

過程をすっ飛ばして完成させることができるんだ。

ただ、本物の職人の品質には到底及ばないし、そこまでできるとも思えない。

【錬金術】でできるのは【分解】と【抽出】して【錬成】する事だけ。

聖剣を鉱石から作れる職人さんは本当にすごいと思うよ。


「でもこの島で使える位のナイフなら、僕にだって作れるよ!」


貝殻のナイフと鉄、笠間仕様にその辺の珊瑚砂を集めて【分解】し、素材として【抽出】、そのまま分子を混ぜ込んで……。


「いくよ、【錬成】!」

「おー!」


空中で【分解】された素材がまとまって、二回りほど大きなナイフに形が変わる。

鉄の刃と、貝殻の持ち手が結構かっこいい。


「【錬金術】ってすごいわねぇ」

「僕もそう思う。僕に適性があってよかったと思うよ」

「すごいのはアンタだと思うけど……」

「いや、【錬金術】の方だよ?」


出来立てほやほやの貝殻のナイフ改め、鋼鉄のナイフを手に取り具合を確かめる。


「うん、これならエビさんも真っ二つだね!」


ボクを威嚇しているエビさんが、心なしかびくついてる様に見えるね!

頭からスパッと真っ二つにして、そのまま石の上で姿焼きです!


お魚も頭を落として、頑張って三枚おろしにしたよ。

半身の半分は焼いて、もう半分は汁物の具材行き。


頭と骨は直火で焼いて、汁の中に投入。今回はお魚の汁物だね。

お魚は骨の一部を【錬成】してみたら「ブリ」っていう名前が分かった。

なぜか煮物にしたら美味しそうなお魚だなぁって思ったよ。


「本格的に糖分を錬成して方がいいかなぁ」

「糖分ってなぁに?」


石の上で焼けていくエビを、涎を流す勢いで見つめていたシイラちゃんが、首を傾げて尋ねてきた。


「椰子の実ジュースって甘いでしょ? あの成分を抽出して作る調味料だよ。とっても甘いんだ」

「甘いの! いいわね!」


甘いと聞いて、シーラちゃんがなんか喜んでる。

塩と砂糖があれば、それなりにいろんな味付けになるしね。


「椰子の実も毎日溜まるし、明日試してみようか」

「うん!」


今日の所は焼きエビとお魚の汁ものだね。

まだお昼前だけど、今日は豪勢だ。シーラちゃんに感謝だね。


「うん、焼けたよ。熱いから気を付けて」


木の器に汁物を、急遽作った木の大皿にエビの半身を乗せて、シーラちゃんに渡す。


「はーい! って、あっつい!」

「だから熱いって言ったのに……」


ちょっと長めの木のフォークを渡して、直接触らないように忠告する。


「はふはふ、でもおいしい! 焼くとこんな触感に味になるのねぇ」


エビの身をフォークで突きながら、口に運んだシーラちゃんの笑顔がいい感じ。


「こっちの汁物も美味しいね! このお魚の焼き身も美味しい!」

「脂が乗ってて美味しいわねぇ! 普段は大きすぎてあまり獲らないんだけど、料理できるならって思ったのよ、正解だったわぁ!」


味付けが塩だけなのが本当にもったいない美味しさだよ。

まだ半身が残ってるから、夜ご飯に使おう!


二人で夢中になって食べていたら、あっと言う間に無くなっちゃった。

というか僕の3倍はシイラちゃんが食べてたけどね。

エビなんて、僕が半身で、シイラちゃんが1匹と半分食べてたよ。


残った殻は、錬金術で【分解】して、「ゼラチン」というシートに変えておいた。

これがあると色々便利だからね。お菓子作りとかもできるね。

まぁ、そんなの当分先の話だけどね……。


「はぁ……お腹いっぱいー」


砂浜に寝転がり、満足そうにお腹をさするシーラちゃん。

凄いよね、あんなに食べたのに、全然お腹がポッコリしてない。

むしろおっぱいが主張しててそっちに視線が行っちゃう……。


「そういえば、シーラちゃんはお家に帰らなくていいの? ご家族とか心配してない?」

「ん~? 家族なんていないわよ? この海域は、おばばとあたしくらいしか、人魚族マーメイルはいないし」

「そうなの?」

「ここからだいぶ離れた所に集落はあるけどね。ここからだと、あたしの速度でも1日かかるわ」

「ふぅん?」


そうか、それなら特に海に帰らなくてもいいんだなーなんて心の中で思ったら、シーラちゃんがなんかにやりと笑って、僕の近くに滑ってきた。


「なぁに? あたしを追い返したいわけぇ?」


そして僕の胸を指でツンツン突く。


「ち、違うよ? ご家族がいるなら心配してるんじゃないかなあって思っただけ!」

「それって、あたしと一緒にいたいって事?」


しどろもどろになる僕に対照的に、シイラちゃんの顔が笑顔に変わっていく。


「え、ええと……どうだろ?」

「そこはきちんと口にしなさいよ!」


誤魔化したら怒られた。そしてくっつくくらいずいっと僕に迫ってきた。

シイラちゃんの肌の温もりが、触れそうで降れない距離から感じられる。

女の子特有の甘い匂い……は感じないな。普通に海の匂いだけど。

それでも僕の心臓は、バクバクと跳ね上がるように煩く暴れている。


「はい! 一緒にいたいです! ひとりは寂しいです!」


観念して大声でそう言ったら、シーラちゃんの笑顔がはじけて僕に飛びついた。


「へぇ、そうなんだぁ、うっふふふ。まぁ、そうよねぇ、アンタみたいなヨウジウオみたいなの、一人じゃのたれ死んじゃうしね!」


なんかおっぱいの感触が! じゃなくて!


「そ、そうだ! 待ってる間にプレゼントを作ったんだ!」

「プレゼント?」


僕の背中にのしかかりながら、シイラちゃんが耳元で僕に聞く。


「う、うん。地上生活で必要かなーと思って」


背中に感じるおっぱいの感触にドモリながら、こっそり隠しておいた服をシーラちゃんに渡す。


「これ? アンタが履いてるのとちょっと違うわね?」

「女の子用の服だからね。こっちはパンツ。スカートの下に穿く下着っていう服だよ」

「わ、わざわざ、あたしのために作ってくれたの?」

「う、うん……目のやり場に困るし」


どもる僕とは対照的に、なんかキラキラした顔で僕を見つめるシイラちゃん。


「ありがと! とっても嬉しい!」

「むぐ!?」


そして僕の頭をぎゅっと胸に抱いて、嬉しそうに尻尾をフリフリしてる。


「シーラちゃん苦しい、窒息しちゃう!」

「どうしよ、こんない嬉しいの初めてなんだけど! 今から交尾する!?」

「その前に死んじゃう! 死んじゃうから!!」

「あ、ごめん!」


何度もタップしてギブしたら、やっと放してくれた。

でもあの感触ちょっと癖になる気がする……。たまにならやって欲しいかも。


そんな僕の前で、人間の脚に変わったシイラちゃんが、色っぽい仕草で下着を穿き、ワンピースをすぽっと着込んで、その場でくるりと回った。

それはまるで、伝説の美の精霊の様な、とっても不思議て綺麗な姿だった。


「どう? 似合うかしら?」

「うん、とってもかわいいよ」

「かわっ!? え、ええと、な、なんか照れるわね? ……でもありがと」


最後に僕に聞こえないくらいの小声で何かを言ってから、つつつと近寄ってきて、僕のほっぺにキスをしてくれた。


「えへへへ」

「あ、あはは……なんだか恥ずかしいけど、嬉しいよ」

「うん……」


そのままギュッと僕に抱き付いて、潤んだ瞳で見つめてきた。


「……んっ」


そのまま、僕にキスをする。

すごく長い時間、僕の舌と自身の舌を絡めて堪能するシーラちゃん。


キスが終わり、シーラちゃんが僕の手を取り小屋に誘う。


そうして……。


「なんで床ができてるの!? あと何この木枠! 硬くて寝れないでしょ!」


硬い木枠だけのベッドを見て、むちゃくちゃ怒られた。


その後、天井に使っていた葉っぱを全部流用して、ベッド用の布地を作る羽目になっちゃった。

それでも足りなかったから、砂を木枠に敷いて、綿の替わりに代用したけど……。

この作業のせいで、いい雰囲気がぶち壊しになって、結局何もしなかったよ!


この時の話し合いで、まずはこの小屋をまともに住めるようにしようという事になった。

木材以外の素材で必要そうなものは、シイラちゃんが海中から拾ってきてくれる事になったよ。それと近いうちにおばばさんの所に戻って、何か栽培できるものが無いか聞いてきてくれるらしい。

近いうちっていつだろう。少なくとも、今日は帰る気が無いとか鼻息荒く言ってた。


その後、もう一度海に戻ったシーラちゃんが、追加の食材を持ってきて、夕食時に調理したんだけど……。


「ねぇ、なんで貝ばっかりなの?」

「な、なんでって、そりゃそのぉ……ゴニョゴニョ……」


シーラちゃんが獲ってきたのは、貝だった。

カキって言う、岩みたいな二枚貝を大量に獲ってきてくれたよ。


「でもこのカキって言うの美味しいね! いくらでも食べられちゃう!」

「そ、そう? それは良かった。たくさん食べてね……夜の為に」

「え?」


カキを食べる僕をじーっと見つめながら、シイラちゃんが舌なめずりとかしてる。


「い、いいからいいから、沢山食べなさいよ!」

「う、うん?」


言われるがまま、お腹いっぱいカキを食べた僕は……その夜。

火照る身体が収まらなくて、そのまま、シーラちゃんに食べられちゃったのだった。

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