六日目 出会い

『おはようございます! 島の資材がリセットされましたよ!』


「……ふぁ……うん、おはよう……うん?」


いつもの声で目が覚めたと思ったんだけど、なんかちょっと挨拶が変わってなかった?


とはいえ、声を出して聞いても、返事は相変わらず帰って来ない一方通行なんだよね。


「うーん? 気のせいかな?」


寝ぼけていたから、聞き間違いだって事もあるかもしれないしね。


うーんと背伸びをしてから、家を出て外を確認する。

ブロックにして無くしたはずの砂浜と、いつもの椰子の木が復活しているのを確認して一安心。


「とりあえず椰子の木の解体と、砂浜の【分解】をしておこう」


椰子の木はいつものように角材と葉っぱ、椰子の実に分けておく。

ちなみに椰子の木には年輪が無いんだよ。

種族の分別的には「樹木」でも「草」でもないって知ってた?

他にも「竹」がこの分別なんだって、師匠が教えてくれたよ。


「まぁ、こんな小ネタを知っていても、お腹が脹れるわけじゃないけど……」


お腹を鳴らしながら、砂地も昨日と同じように、鉄と石英、砂のブロックにして積んでおく。

石英は窓にはめ込んでおいた。お陰で半分だけガラスの窓になったよ。

あと二日で窓が完成するけど……気の長い話だなぁ。

鉄は釣り針に加工しておこう。昨日結構減っちゃったからね。


「……今日は深場の方で釣りをしようかな」


椰子の実ジュースを飲んで一息ついてから、干し魚と釣道具、まな板とナイフを抱えて深場に移動。

釣り餌兼非常食の干し魚も減ってきたし、あの銀色のお魚も食べたい!

深場なら多少海藻も採れるし、そろそろ色々食べないと栄養の問題が出てくるしね。

海水から無理やりサプリを作ってもいいんだけど……まぁ、それは最終手段かな。

師匠にも「それは人前でやるな!」と念を押されているしね。なんでだろ?


「とりあえず海藻を回収したいんだけど……どうやって採ろう?」


錬金術で【錬成】しちゃえば、素材として引き寄せられるんだけど。

丸々回収するなら採集しないといけないんだよね。

でもちょっと離れた所にはいつものフカヒレが回遊しているし、僕が海に入ったら絶好の朝ごはんだよね。


鉤棹かぎさおでも作って持ってこようかなぁ」


鈎棹って言うのは、海底の昆布をひっかっけて採るための細長い道具だよ。

幸い鉄も増えてきてるし、鉄製品も作れる事は作れるんだけど、まずは調理用品が先! フライパンが欲しい!

純椰子の木製で作ってみてもいいんだけど、先っぽが浮きそう……僕の力で沈められるかなぁ。

かぎ爪の部分を思いっきり圧縮して重くすれば平気かな?

そうしたら重くて持てなくなりそうだけど……。


「ブルースライムと腕相撲したら負けるって師匠も言ってたしなぁ……うぅ、僕だって男の子なのに」


嘆きつつも、釣りは止めないよ。

いつもみたいに、あっと言う間に銀色のお魚が沢山釣れた。

まぁ、ぶよぶよしたお魚も同じくらい釣れるんだけどね……。

この子、可愛いけど食べられないんだよね。……いやでも、【錬金術】で毒を抜いたら食べられるのかな?

抜いた毒を仕舞っておくガラス容器が無いし、そのまま海に毒を垂れ流すのはちょっと嫌なので、それをやるのは食べ物が無くなった時の最終手段だけどね……。

とりあえず、いつものようにぶよぶよしたお魚を海にポイ。


「あいた!」

「あ。ごめん!」


お魚を海に不法投棄したら、誰かに当たっちゃったみたい。

ベチョっていう音と共に、吃驚びっくりしたような声が上がったので、慌てて謝って……え? 声?


逆に僕が吃驚して海を見たら、そこにはなんかふくれっ面の女の子が、海から顔だけ出してこっちを見ていた。


「もう! 顔を出した瞬間にフグなんか投げないでよ!」


頭の上で脹れて大きくなっているフグを乗せたまま、女の子がプンスカ怒っている。


「……ええと、君は誰? というか君も遭難したの!? 早く海から上がって! 鮫がいるんだよここ!?」

「ああ、「ミニメガロドン」はあたしに気付かないから平気よ平気ー」


海岸線で何もできなくて右往左往する僕に向かって、女の子があっけらかんと笑う。


「あのサメ、そんな物騒な名前なの!?」

「うん。あの子達はメガロドンの幼体よ。沖に行けば30mくらいの親がいるわ」

「それは大きすぎるね!」


僕の心の中に、この海で泳ぐという選択肢が今消滅したよ!


「でも危ないよ! 早く上がってきて!」

「まぁ、大丈夫なんだけどねぇ……よっと」


そう言って、女の子がぴょんと跳ねて、海から上がってきた。

みどりの長い髪をぶるぶるふるい、海水を飛ばしたので、ちょっと離れて避難する僕。

上半身は、水着みたいな頼りない布地で、申し訳程度に隠した姿だ。

遭難中に溺れないため服を脱いだのかな。でもちょっと目の毒だなぁ……。

そしてその視線を地面に向けたら……なんか大きなお魚のヒレのようなものがパタパタしてた。

慌てて視線を上げて、女の子を全体的に見たら……。


「え、き、君……お魚なの!?」

「なんでよ! せめて人魚でしょそこは!!」


驚きの声をあげた僕に負けないくらいの大きな声で、女の子が不満そうに声を荒げる。


「も、もしかして遭難してんじゃないのかな?」

「もちろんそうよ。あたしはマーメイルのシイラ。そんでアンタ、なんでこの島にいるのよ?」

「なんでも何も、乗ってた船が嵐に遭って、海に流されちゃったんだ。それで気付いたらここに流れ着いたんだよ」

「船ねぇ……こんな場所に船なんてくるのかしら?」


人魚さんがシイラと名乗り、僕の説明にしきりに首を傾げている。


「ねぇ、君? この場所の事が分かるの?」

「分かるも何も、あたしのこの辺に住んでるし。知りたいのはこの島の事? それともこの海域の事?」

「できれば全部知りたいかなぁ。いつまでもここにいるわけにもいかないし、大陸に戻りたいんだ」

「無理ね!」

「え……」


シイラちゃん? ちゃんでいいんだよね? なんか僕より若そうだし。

シイラちゃんがきっぱりそう言って、なぜかふんぞり返った。


「まずこの島の事ね。ここは「海の神獣アーケロンの浮島」っていうの。島に見えるけど、おっきな神獣の背中の上にあるのよ」

「そうなの!?」


僕が流れ着いたのは、島どころじゃなくて、大きな神獣様の背中の上だったらしい。

せ、背中の上で生活していたんだけど怒られないのかな!?

なんなら椰子の木とか毎日伐採してるけど!?


「で、この海域の事なんだけど。スキュラのおばばが言うには「到達不能極とうたつふのうきょく」っていう、人族が到底訪れることができない、大陸から一番離れた海域らしいわ」

「なんで僕、そんな所に流れ着いたの!?」

「そんなの、あたしの方が知りたいわよ」


僕が乗っていた船は、いくら海上とはいえ、少なくとも大陸間の航路上にいたはず。

そこは数日あれば大陸を縦断できるくらいの距離で、少なくとも「到達不能」ではないよ?


「こ、ここから一番近い大陸には、船でどれくらいかかるのかな?」

「来られないわよ?」

「え?」

「まずどっちの方角でもいいんだけど、10日ほどまっすぐ行くと、海流が大暴れしている海域に着くの。そこから外には出られないわ」

「か、海上は? 海底が暴れていても、海の上なら……」

「海流の関係で、大きな渦潮がかき混ぜてるの。そこに入ったら、人族の大きな船でも、あっという間に粉微塵よ」

「…………」

「だからこの海は「到達不能極」なんだって。たまに空からが降ってくるんだけど、そのせいでこの辺の海は、神により古くから封印されてるっておばばが言ってたわ」

「ホントになんでそんな場所に僕流れ着いたの!?」

「だから知らないわよ!」


そのおばばさんが言うには、海上で何もないなら、40日くらい北上すれば人が住む大陸があるらしい。名前は知らないって言われちゃったけど。


「脱出なんて無理じゃん……」

「まぁ、無理でしょうねぇ。私達マーメイルでも、あの海域を抜けるのは無理。いくら【深海耐性】があっても絶対無理。海流の中には、人族の船の残骸や鋭い岩の破片が飛び回ってて、危険極まりないの。海の中に入れないみたいなアンタは近づく事すら無理よ」


ヨウジウオがどんなお魚か分からないけど、きっとひょろっとしたお魚なんだろうなぁ。


「詰んだ……僕の人生ここで終わるんだ、うぅ……」

「人族じゃ無理でしょうねぇ」


嘆く僕に追い打ちをスマッシュヒットさせてくるシイラちゃん。


「この島、あたしのお昼寝ポイントだったのに、アンタが何日か前からいたから近づけなかったのよねぇ」

「ごめんなさい……」


完全に落ち込んだ僕を見て、少しばつが悪そうに頭を掻くシーラちゃん。


「まぁ、いいけど。アンタなんか無害そうだから、声かけようとはしてたんだし」

「そうだね、たぶんすぐいなくなると思うから、その時は好きにお昼寝すればいいと思うよ……」

「な、なによ辛気臭いわね!」

「だって、絶望しかないもん……僕この島で一人孤独に生きて、近いうちに死んでいくんだ……」

「それは大丈夫じゃない?」


嘆く僕を見て、シイラちゃんがあっけらかんと言う。


「普通のマーメイルや船じゃ無理だけど。アーケロン様なら超えられると思うわよ」

「アーケロンって……この島の真下にいる神獣様?」

「うん。だってアーケロン様、はるか昔にこの海を何度も出たり入ったりしていたって伝説があるし」

「ホントに!?」

「でも、長らくお眠りになってて、全然お目覚めないらしいのよねぇ。この島に定期的に見に来てるのも、おばばに言われて、起きていらっしゃるか見に来てるってのもあるし。……お昼寝はついでなのよ。ホントよ?」

「そ、そうなんだ……じゃあ、起きてくれたら、大陸まで送ってくれるのかなぁ」

「そこまでは分かんないけどね。ああそう言えば、アンタの事を報告した時おばばが言ってたんだけど、アーケロン様の背中の上が大きく発展したら、お目覚めになるらしいわよ?」

「なんで?」

「そ、そんなの、あたしが知るわけないでしょ?」


なんかふんわりした理由しか分からないけど、要はアーケロン様の背中の上に街を作ればいいって事かな?

とりあえず視界の先にあるぼろい小屋を見る。


「……アレをもっと立派にすればいいって事かな?」

「よくわかんないけど、そういう事じゃない? おばばにもうちょっと詳しい話を聞いてきてあげるわよ」

「うん。お願いします。という事は、椰子の木や砂が復活するのは、神獣様のお力なのかな?」


朝の謎の声とか、毎日元に戻る椰子の木とか、砂の報酬とかもそうだよね。


「え? 木なんてあったの?」


僕の言葉に、シイラちゃんが驚いた顔になった。


「うん。僕が流れ着いた時に、椰子の木が一本だけ生えていたんだ。それを素材に使って、あの小屋を作ったんだよ」

「椰子の木? 木なんてこの島に生えてなかったけど?」

「でも生えていたよ? あそこの角材が証拠。しかもなぜか、伐採しても毎日元に戻るんだ」

「なによそれ……全然知らないんだけど……」

「神獣様のお力なのかなぁ」

「うーん……それも込みでおばばに聞いてあげるわ」

「うん。お願いします」


とにかくこの島が不思議な島だという事だけは分かったよ。

あと久しぶりに誰かと話して、独り言ばかりだった僕はちょっと嬉しい。


ぐー。


そしてそれに呼応するかのように、僕のお腹の虫が鳴った。


「……お魚焼いて食べよう」


とり合えず10匹くらい釣ったお魚を捌いて、内臓を海に投げる。


「ああ、もったいない……苦くて美味しいのに……」


海の中でほかのお坂に突かれている内臓を見て、シーラちゃんが指を咥えている。


「でも生で食べると僕は病気になっちゃうよ」

「え? 魚ってこうやって頭からかぶりつくものでしょ?」

「違うよ? 焼いて食べるんだ」

「焼くってなぁに?」

「えぇ?」


聞けばシイラちゃんは、に会うのは僕が初めてらしい。

人間の習慣なんて全然知らないし、なんなら料理なんてした事もないらしいよ。


「海の中じゃ焼けないしね……ということは、火も見た事ないのかな?」

「ないわよ。ちょっと見せてみなさいよ?」

「いいけど……それなら焼いたお魚食べてみる?」

「食べるわ!」


そう聞いてみたら、なんか興味津々と言った感じで尻尾をびったんびったんしてる。


「それじゃ、もうちょっと獲ってくるわ。あっちの浅瀬で集合ね!」


そう言って、ぴょんと飛び跳ねて海に戻っていった。


「あ、せっかくだから海藻も採ってきてよ!」

「海の中で揺れてる、あのひょろ長い奴?」

「うん! お願い!」

「分かったわ!」


そう言い残し、ぽちゃんと海の中に消えていった。


「思わぬ話をも聞けたし、絶望と希望が同時に来た感じだけど……まずはご飯だね。食べないと気分も落ち込んじゃう」


慌てて道具を洗ってから、小屋の前に戻る。

火を付けるのにちょっと手間取っていたら、シイラちゃんがすでに砂浜に待機して、こっちを興味深そうに見つめていた。


「捕って来たわよー。あたし、内蔵ありのが好きだから、これを焼いてちょうだい」

「分かったよー」


なんか大量にこっちにお魚を投げてきたので、慌てて受け取ってまな板の上に積み上げておく。


「ひ?ってそうやってつけるの?」

「他にも色々やり方があるけど、今の所、これしか方法が無いんだ」

「ふーん?」


弓上の火付け木をぐるぐる回す僕を、海の中から興味深そうに、変な人を見るように見つめている。

やがて煙が上がり、着火用に椰子の繊維を足したら火がついて燃え上がった。


「何、なにそのチョウチンアンコウより眩しい光!」

「これが「火」だよ。ああ駄目! 指を入れたら火傷しちゃう!」


驚きつつ、砂浜を滑って近づいてきたシイラちゃんが、火に指を突っ込もうとしたので慌てて止める。


「海の中でも、熱泉とか沸いてる所があるでしょ? そこに近づくと火傷すると思うけど……」

「え? こ、この「火」も海底火山と同じで熱いの!?」

「そうだよ。触らないようにね」

「わ、わかったわ……」


そう説明したら、スンとなって大人しく火を見つめている。

それをちょっと面白いと思いながら、内臓を抜いたお魚と、シイラちゃんが獲ってきたお魚を一応水で洗い、塩をまぶしてから串に刺して、焚き木の周りに刺して並べる。


「シイラちゃん、昆布は?」

「これ?」


シイラちゃんが腰に巻いていた昆布を受け取って、洗ってぬめりを取ってから、細かく刻んで石の鍋に入れる。

ついでにお魚の頭や、身も刻んで入れて煮込んでいく。

味付けは塩だけだけど、ちょっとはが出ると思うしね。


「その石の容器でなに作ってるの?」

「汁物って言う料理だよ。色々調味料があればいいんだけど、残念ながら、お塩しかないんだよね」


椰子の実油はあるけど、これは他に使いたいしね。石鹸にもなるし。

焚き木の火で焼いているお魚が、ぱちぱち音を立てながら、何とも言えない、いい匂いを上げていく。


「……も、もう食べられるんじゃない?」

「まだ半分しか焼けてないよ。これをひっくり返して反対側も焼くんだ」

「も、もういいじゃない! 食べたいんだけど!」

「せっかくだから、半焼けじゃない、ちゃんとしたお魚を手べてみてよ」

「うー! この匂い、ヤバいんだけど!」


シイラちゃんがなんか身悶えながら、焼けていくお魚を凝視している。

焼き魚の匂いってホントに耐えられないくらい、いい匂いだよねぇ。

そんな事を思いながら、シイラちゃんの為に木の器を【錬成】する。


「あ、アンタそんな事できるの!?」

「錬金術も始めて見たの?」

「おばばの【薬師】なら見た事あるけど、そんなすごいの初めて見たわ!」

「すごいのは錬金術で、僕じゃないけどね」


ついでにスプーンも作り、汁物を注いで渡してあげる。


「これもいい匂いがするわね……」

「塩味だけど、昆布の出汁が出てるはず!」


昆布からうま味成分を抽出すれば、うま味調味料も作れるんだけど、今回は昆布自体も食べたかったからね。久しぶりに魚介類以外のモノを食べるよ!


「お魚も焼けたよ。熱いから火傷に気を付けてね」

「う、うん……」


焼きたてほやほやのお魚の串を掴んで、ごくんと喉を鳴らすシイラちゃん。


そして口を付けて、しかめっ面になってフーフーし始めた。

熱いモノを食べるの初めてだし、熱かったんだね……。


そして豪快にかじりついて、ぱぁっと笑顔になった。


「なにこれ! 生で食べるより美味しい!」

「そうでしょう。ふっふっふ。いっぱい焼くから好きなだけ食べてね」

「20匹くらいよろしく!」

「え? う、うん……焼いとく」


20匹って、さっきシーラちゃんが投げてよこした魚全部じゃん。

そんなに食べられるの? お腹の辺りとかすっごい細いのに。


まぁ、言われたとおり串を刺した魚を追加して、焚き木の前に大量に並べておく。


「こっちのしるもの?も美味しいわ! こんなの海の中じゃ食べられないじゃない! ずるい!」

「ずるいと言われてもなぁ……」


お替わりをせがまれたので、器に注いであげる。

スプーンの使い方はたどたどしい、というか僕の見様見真似だけど、それなりに小器用に汁物を掻っ込むシイラちゃん。


「むぐ!? ごほ! ごほっ!?」


そして豪快にむせた。


「ああもう、慌てて食べ過ぎ! これ飲んで!」


慌ててストローを刺した椰子の実を渡して、飲むように促す。

当然ストローの使い方も分からなかったけど、僕に言われたままにずーっと吸って、なんとか詰まったものが喉を通り過ぎたようだ。


「あー苦しかった……あ、ありがと」


ちょっと照れ気味にぼそりと呟くシーラちゃん。


「いえいえ。どういたしまして」

「あとなんかこれ、甘くて美味しいわね……これはなにかしら?」

「これがさっき言ってた、椰子の木の実だよ。まだ沢山余ってるから、それは全部飲んでいいよ」

「そ、そう? それじゃ遠慮なく頂くわ」


今まで孤独だった食事が賑やかになって、やけに楽しい。

結局、汁物の7割くらいと、20本の焼き魚を平らげたシイラちゃんが、満足そうに砂浜にひっくり返った。

それにしてはお腹とかほとんど出てない。人魚さんの神秘か何かなのかな?


「あー! 美味しかった! 魚ってこんなに美味しく食べられるものなのね! 知らなかったわ!」

「お魚だけじゃなくて、お肉とか、お野菜があれば、もっと色々作れるんだけどね」

「野菜って、沈没船の積み荷でたまに見かける、海藻みたいな奴よね?」

「うん。さすがにここじゃ栽培できないと思うけど。あると色々作れるよ」

「そうなの!? ちょっとおばばに聞いてみる!」


上半身を起こして、嬉しそうに尻尾をビッタンビッタンするシイラちゃん。


そう言いながら、舌なめずりしつつ、なぜか僕ににじり寄ってきた。


「ど、どうしたの?」

「お腹いっぱいになったら、なんかムラムラしてきちゃった」

「そ、そう? おトイレはないから海の中で……」

「そういう事を言ってるんじゃないの、よ!」


そうって、僕に飛びついてきてシイラちゃんがのしかかってきた。


「え? ええと?」

「マーメイルはね、人間の男と交尾できるのよ?」

「こ、交尾!?」

「そうそう。例えばこうやって……【地上移動ランドムーブ】」


シイラちゃんが魔法を唱えると、魚の半身が……女性の脚に変化した。


「ちょっとシイラちゃん!?」

「アンタ、よく見ると可愛い顔してるのよねぇ。無害そうだし、あたし交尾の相手もいないし、こういうコト、興味あるのよねぇ」


そう言いながら、僕の下半身に手を添わせていく。


「ま、まって!? だめだよこんなの!」

「とか言ってる割には、もうギンギンだけど?」

「だってシーラちゃん、下半身裸じゃない!」

「当然でしょ、だって今からんだし」

「なにを!? むぐ!?」


慌てる僕の頬を掴んで、キスで黙らせるシイラちゃん。


「……男でしょ、据え膳食べなさいよ?」


唇の端から唾液の糸を引きつつ、妖艶に笑うシイラちゃん。


「ぼ、僕こんなの初めてなんだけど!」

「あら、あたしもよ?」


そうしてパサリと、胸の布地を外してその辺に投げ捨てる。

おっぱいが! おっぱいがなんかぶるんって!


「ふふふ……交尾ってどんな感じなのかしらねぇ?」


慌てて逃げようとしても、シイラちゃんにのしかかられて動けない上に、この子結構力強い。僕の腕力じゃびくともしない!


「ま、まだ夜になってないよ!?」

「今夜は長くなるわねぇ?」


駄目だこれ、僕食べられちゃうんだ!


そしてそのまま、されるがままになって……僕は……この日、男になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る