五日目 実績解除
『デイリーボーナス! 島の資材がリセットされました!』
「……うん。おはようございます」
朝。いつもの声で目が覚める。
人と話す事が無い生活だからだろうか。この声を聞くだけでもちょっと嬉しいな。
とりあえず、柱に貝のナイフで線を一本刻んでおく。
今日で「正」の文字ができた。この島に流れ着いて、もう五日経ったって事だね。
今の所、元気に動き回れているけど、そろそろ脱出の事も考えて行動しないといけないなぁ。病気になったらそこでおしまいだしね。
椰子の繊維で作った歯ブラシで歯を磨き、海水から水を抽出して、新しい物に入れ替え、溜めておく。
「貴重な椰子の実ジュースで、うがいする訳にもいかないしね」
家から外に出て、いつものようにそびえたつ椰子の木を解体する。
朝食はいつものように椰子の木ジュース。
朝からお魚を釣ってもいいんだけど、魔力の自然回復を考えると、解体は早めにやっておきたいんだよね。
「せっかくだし、ついでに扉を作っておこうかな」
ちょっと思い立ったので、角材を【錬成】し直して、四角い厚めの板にする。
取っ手の部分は凹ませるだけにする。
そして扉の上下に同じく凹凸をつけ、横スライド式の扉にしてみた。
扉をはめ込む部分にも凹凸を付けた板を通して、噛み合わせて外れないように、スムーズに動くようにしてみたよ。
そのまま錬金術できっちりはめ込む。
ちょっと揺らして確かめてみたけど、いい感じではめ込めたみたい。
外から見ると貧相な小屋そのものだけど、一応扉ができて中が見えなくなったし、風も防げるようになったよ。
何度も横スライドの具合を確かめて満足していたら、また頭の中に声が響いた。
『実績が解除されました! 「実績:ボロ小屋設置」 ボーナス報酬を選択してください!』
「余計なお世話です!」
ついついむきになって反論しちゃったけど、別に返事が返ってくるわけでもなし。
確かにボロだけど、これでも頑張ったんだよ、僕……。
なんか悲しくなってきたけど、目の前に表示されたウィンドウに釘付けになった。
・植物の設置
・鉱石の設置
「え? じ、実績が解除されると、報酬が貰えるの!?」
植物ってなんだろ? と思って注釈したら、「サボテン」って出た。
サボテンかぁ……。
食べ物になるし、水も回収できるし、お酒も造れるし、カイガラムシも飼育できるね!
ちなみにカイガラムシって言うのは、コチニールって言う別名を持つ、赤い染料が獲れる小さな虫の事だよ。染料の名前もコチニールだね。
赤い染料として超優秀で、食品にも使えるから、赤い色の食品の成分表に「コチニール」って書いてあったら、それは虫が原料の赤色染料って事だね。
服とか化粧品にも使えるけどね。
まぁ、サボテンがあってもカイガラムシはいないだろうし、ちょっと悩むなぁ。
サボテンを焼いて食べると結構おいしんだけどね。
もうひとつの鉱石の方は……「砂浜の設置」らしい。
幅は1a(1アール)。10
岩とかじゃなくて砂なんだね。
でも砂からは鉱石由来の成分が色々取れるし、なんなら砂鉄や金属、ガラスの主成分である珪砂やレアメタルだって取れちゃうからね。
どれだけの物が抽出できるかは分からないけど、今回は「鉱石」にしよう。
……と思って選択したら『選ばれなかった方は二度と設置できません、よろしいですか? Y/N』って出て、ちょっと腰が引けちゃった。
「意地悪な選択肢だなぁ……どうせなら両方くれたらいいのに」
とりあえず「Y」を押して確定。
そうしたら、家の近くの珊瑚砂が、一瞬で鼠色の砂浜に変わった。
海に面していない部分がいきなり四角く色が変わった感じだね。
「よかった、波に攫われる場所だったらどうしようかと思ったよ!」
とりあえず砂浜の主成分を抜き出すために【抽出】を試してみる。
「……結構砂鉄が混じってる! あと念願の石英(珪砂)だ!」
あとは金とかも混じってたけど、ほんのちょっとだね。
一応、主成分ごとに分けてみたけど、採れたのは小石程度の砂鉄と、同じくらいの石英。小さな砂金も採れたけど……少なすぎて何もできないね、これ。
「まぁ、せっかくだし取っておこうかな」
角材を【錬成】して、小さな箱を作って仕舞って、大きな木箱の隅に置いておく。
「鉄は釣り針が無くなった時に使えるかな。もうちょっとあれば鉄のナイフが作れるんだけど……」
そんな事を考えたら、貝のナイフがなんか寂しそうに光った気がした。
君はちゃんと【錬成】で混ぜて、ずっと使い続けるから大丈夫だよ!
石英も、もうちょっとあれば容器が作れるね。
あのお魚の毒とかも、仕舞っておけるようになるよ。
何に使うかなんて想像もつかないけど。……最後に命を終わらせる用かな?
ま、まぁ、もうちょっと頑張るつもりだし、それは最終手段だね、うんうん。
あまり量のない石英だけど、小さな窓くらいにはなるかな?
せっかくだから、光取りに壁に開けた窓にはめ込んでみよう。
【錬成】で薄く延ばしてみたけど……やっぱり足りないな。
仕方がないので、木枠を作って、そこにはめ込んでみた。
「田」の字の隙間の一か所が埋まったくらいだね。
残りの砂の成分は、ブロックにして積んでおいた。
多分この砂も、デイリーなんとかでリセットされる気がするし。
その他の砂の成分はコンクリ壁に使えるから勿体ないもんね。
ぐー。
なんて色々やっていたら、お腹の虫が鳴いた。
気が付くと結構な時間が経ってたよ。
「それじゃお魚釣って、ついでに海藻も採って、焼いて食べよう!」
いつもの釣りセットとまな板セットをもって、深場の方に行く。
「うん、今日も鮫さんが元気だね!」
深さの関係か、こっちにまで来ないみたいだから、陸地にいる限りは大丈夫かなーとは思うんだけど、内臓を投げたら寄ってくる気もするから、お魚を捌くのはやっぱり反対側でやろうかな……。
しょうがないよね、師匠に「ブルースライムより体力ないな、お前」って言われるくらいだし、僕。
あんなのが飛び掛かってきたら、何もできずに、あっと言う間にご飯にされちゃうもん。
「……ん~? 今日はあまり釣れないなぁというか、ぶよぶよしたお魚ばっかり釣れるなぁ」
フグを釣っては海に投げ返す作業を続けているけど、何度釣り糸を垂らしても、フグばかり釣れる。
なんなら同じお魚が、何度もかかってるんじゃないかってくらい釣れる。
「せっかくだから、浅瀬の方で釣ってみようかな……」
10回ほどフグを海に投げて観念したので、一度小屋の方に戻って釣りを再開。
「こっちはお魚の気配が分からないんだよねぇ……」
海が綺麗だから、お魚がいたら見えるはずなんだけど……うん、全然見えないね。
でも昨日、お魚の内蔵を投げたら反応があったし、いる事はいると思うんだけど。
……と思ったら、なんかすごい引きで釣竿が折れそうになった。
「わわ。や、やばい! 折れちゃう! 糸も切れちゃう!?」
慌てて【錬成】で、小屋に備蓄していた糸と角材を使って釣竿を強化して、倍くらいの釣り竿と糸に変えて対処!
「「クソザコナメクジ」の僕にはきついよ、これ……!」
どれだけ奮闘していただろうか、もうゴールしてもいいよね……とか思い始めた頃、やっと抵抗が無くなって、魚影が見えてきた。
「なんだろ、この平べったいの? うわ、でっかい!」
ひーひー言いながら砂浜まで揚げたお魚は、両目が片側に寄っている、平べったいお魚だった。しかも40㎝くらいの大物だよ。
深場で釣れるお魚なら、丸呑みできそうなくらい大きいお魚。
「なんていうお魚だろ……?」
貝のナイフで止め刺しして、血を抜く。
【錬成】すれば名前は分かるんだけど、ちょっともったいないよね……。
「捌き方も分からないよ! どうすのこれ!?」
余りに変な形をしているので、唯一知っていた三枚おろしの方法も分からない。
「……まぁ、適当に切って焼いて食べればいいか」
平べったいお魚でも、お魚はお魚。焼けば食べる事ができる!
ただ、毒が心配だから、【錬成】して、成分を見ておかないと。
……身はちょっともったいないから、食べない頭を錬成してみよう。
というわけで【錬成】してみたら「ヒラメ」というお魚だった。
毒もないし、なんか子持ちで美味しそう。
これ甘辛く煮たら、美味しい予感がするなぁ……。
次は鉄を貯めてフライパンを作ろう、今決めた。
とりあえず、今日の所は塩を振って焼いて食べるだけだけどね。
「あ、そうだ。砂があるから竈っぽい物が作れるな!」
さっき積んでおいた砂を使って、竈を構築する。
カマクラ型の小さな竈だけどね。
上の部分に、砂を固めて石状にして平たい場所を作っておいた。
「鉄板ならぬ、石板だけど……上手く行くかな?」
いつものように苦労して、なんとか火を熾して竈にくべる。
石が熱を帯びてきたので、ジュースを飲んだ空の実から、ココナッツ油を【抽出】して、石の上にちょっとかけて、様子を見る。
「なんかいい感じで熱くなってきてる!」
その上にヒラメの切り身を直置き! 椰子の葉っぱで包んで蒸し焼きでも良かったかもしれないけど、今はこれでいいや!
かたずをのんで見守っていたら、やがて、ジュウジュウいい音を立てて焼けてきた。
「火加減が調節できないから、焼くのがちょっと難しいなぁ……」
角材から木べらを【錬成】して、焦げ付かないようにひっくり返したりしながら、木のコップに溜めておいたココナッツ油を回しかける。
やがて、大きなヒラメがこんがり焼けて、辺りが美味しそうな匂いに包まれた。
「こ、これはおいしそうだなぁ……いただきます!」
木のお皿に切り身を乗せて、ぱくりとかぶりつく。
「……ん~! 美味しい!」
深場で釣れる銀色のお魚と違って、すごく淡白なんだけど、実がしっかりしていてとても美味しい!
ちょっと周囲に骨が多いけど、その辺りも美味しい!
思わずチュウチュウ吸っちゃうくらい美味しい!
「こ、これはすごいや、こんなお魚もいるんだなぁ……」
気が付いたら、丸々一匹平らげて、お腹いっぱいの満足になったよ。
残った骨と内臓を海に不法投棄したら……ヒラメっぽい魚が、砂の中から現れて、バクっと食べていた。
「ああ、あの形は砂の中に隠れるための構造なんだねぇ」
骨とかは、なんかカニっぽいのが砂から姿を現して、掴んで潜っていった。
「カニも食べたいなぁ……休んだらちょっと釣ってみようかな?」
その日は浅瀬でずっと釣りをして過ごした。
何度か針を持っていかれちゃったけど、30㎝くらいのヒラメと、「ガザミ」というカニが4匹ほど採れたので、夕食のおかずにしたよ。
砂で無理やり浅い鍋を作って、塩水で茹でただけだけど、美味しかった!
ヒラメは内臓を取ってから、塩とココナッツ油をかけて、椰子の葉で包んで蒸し焼にしてみたよ。こっちも美味しかった。
ココナッツ油が甘いからかな? 風味が変わってとてもよかったよ!
ただ、ヒラメの牙が割と鋭くて、何度も糸を切られて釣り針が減っちゃったので、毎日試すのはちょっと勇気がいるなぁ。
「まぁ、砂鉄の集まり具合で考えようかなぁ……ふぁ~……久しぶりにお腹おっぱいになった気分……」
ヒラメの蒸し焼きがまだ残ってるし、明日の朝ごはんにしようと心に決めながら、5日目の夜を過ごした。
そして翌日。
僕は思わぬ事態に遭遇する事になる。
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