四日目 建物を仕上げよう

『デイリーボーナス! 島の資材がリセットされました!』


目覚まし代わりのいつもの声のお陰で、いつもの時間に目が覚める。

大陸で仕事をしていた頃なら、寝坊防止に非常に有り難いんだけど……正直、この島にいる限りは、もっと寝かせてよとかちょっと思う。


「でもまぁ、ずっと寝てても暑いだけだしね……とりあえず【浄化】っと」


お風呂は割に全身を綺麗にして、ふぁーっと背伸びをする。


いつものように椰子の木を解体し、椰子の実ジュースを飲んで、なにをしようか考える。


「船を作るか、せめて壁を作るかしたいなぁ。今の所天気がいいから問題はないけど、天気が崩れたらびしょ濡れになっちゃう」


こんな所で病気になったら、何もできなくて死んじゃうしね……。

とりあえず、積んでおいた角材を眺めてちょっと考える。


「角材を板に変えて、壁にしてみようかな?」


屋根の周囲に、角材を追加で立てて、その間に細長く加工した板をくっつけていく。

板一枚一枚がペラペラだから脆いんだけど、風や太陽光は防げるから、ちょっと快適になった気がする。


「でもこれじゃあ、雨は防げないよねぇ……」


もうちょっと丈夫な壁にしたいんだけど……うーん?

現在使えるのは海水と、珊瑚砂と、木材と椰子の実と……石灰ブロック。


あの石灰ブロックの主成分は「酸化カルシウム」」。

貝殻やサンゴの主成分である「炭酸カルシウム」、は加熱することで「酸化カルシウム」、いわゆる「生石灰」を作る事ができる。

でも生成時に調子に乗って酸素と結合させて「酸化カルシウム」にしちゃったんだよね。

普通は窯で焼かないといけないんだけど、そこは錬金術。

「脱水」「分解」「合成」なんて錬金術の基本だからね。

元々建材にしようと思って「生石灰」にしたんだけど、砂がないからブロックのまんま放置しておいたんだよね。砂があるならモルタルとか作れるんだけど……。

でもこのままだと、雨が降ったら熱が発生して地獄絵図になっちゃうし、なにしろ勿体ない。

お魚も焼けないしね……。

もしかしたら、その辺の珊瑚砂でも建材にできるかもしれないし、そうでなくても消石灰なら作れる。ペラペラなべニア板では強風で割れちゃうだろうし、試しに漆喰にしてみようかな?


漆喰に必要なのは「消石灰」と植物性の繊維質。ここだと海藻とか椰子の葉っぱが使えるかな。

椰子の葉は余り始めたので、服や綱、網に使う繊維を作ろうと思っていたんだけど、まずは衣食住の住に使う事にしよう。衣は今の所【浄化じょうか】で代用できてるしね。

多少破れても錬金術で直せるし。その分どっかが短くなっちゃうけど……。


まずは石灰ブックを分解して、海水から水を抽出、混ぜて「消石灰」に変える。

ついでに塩も取り出して溜めておく。同時タスクは基本中の基本だからね!


水を混ぜた石灰が、物凄い高温を発し沸騰し始めたので、錬金術の効果範囲ギリギリまで離れて作業する。さすがにあの蒸気を浴びたら大火傷だよ!


錬金術の目で「水酸化カルシウム」になったところで粒状にして「消石灰」と言われる素材に変え、海中から海藻を引っこ抜いて、繊維に分解しつつ「消石灰」に練り込んでいく。

この練り込んだものが「漆喰」になるよ。色々混ぜるだけなのに錬金術の目で見ると名前が変わるのが面白いよね。

海藻はあまり量がないし、食料にできるから使いたくなかったんだけど……この際しょうがないよね。


この「漆喰」を、建物の薄板の壁に塗り込んでいく。

もちろん、外も中も綺麗に塗り込んじゃうよ。窓っぽい明り取りも作っちゃおう。

道具も何もなしで、綺麗にぴっちり塗れるのが錬金術のいい所だね。

僕の手作業だったら、絶対ボコボコの壁になっちゃう。


「ま、魔力がヤバい……間に合うかな……?」


壁を仕上げる途中に、魔力不足の兆候が出てきて少し焦る。

でもここで諦めたら、手作業の地獄が待っている。頑張れ僕! 肉体作業は自身ないぞ!


ギリギリ魔力欠乏寸前で何とか作業は完了。

一応明り取りの窓もあるし、普通の家っぽくはできた気がする。

屋根は椰子の葉っぱだし、壁はなんか海藻の色が混じって薄緑だし、扉もないけどね。

色は後で抜けるし、扉と屋根は今度考えよう……今日はもう何もできないや……。

残った椰子の実ジュースを飲んで息を吐く。

日陰が増えたお陰で、多少快適になったけど……乾く前に触ったら手形が付いちゃう。

なるべく壁に近づかないように、部屋の中央でごろりと横になる。


「しまったなぁ……お魚釣って火を熾してから作業をすればよかった……」


今日はもう、なにもやる気が起きない。

干したお魚はあるけど、これそのまま食べても大丈夫なのかな?

ぱさぱさになってるし、ビーフジャーキーみたいな感じで、お腹に溜まる気が全くしない。


「煮ないと無理かなぁ、これ……お魚釣るのは……ちょっと寝てからにしよ……」


太陽の位置を見る限り、まだ昼にもなっていないけど……まぁいいや、寝ちゃおう。

なんだかひんやりするようになったお家の中で、椰子の実を枕にして眠る。


……目が覚めたらもうすぐ夕暮れくらいの時間だった。


慌てて飛び起きて、体調の確認をする。

魔力は3割くらい回復したかな? 頭痛はないし、身体も動く。

慌てて釣竿と干し魚を掴んで、深場になっている海岸へ向かう。


「まぁ、すぐに釣れるんだけどね」


今の時間…夕まずめは、お魚がよく釣れるって漁師の人に聞いた事があるんだけど……ここではあまり関係ないみたい。

釣り糸を垂れるとすぐに魚がかかる。

とりあえず5匹ほど釣ったところで、鮫の姿がない事を確認し、内臓を抜いて不法投棄しておく。

そしてすぐに、内臓にバシャバシャ飛びつくお魚達。

なんか餌付けしてるみたいでちょっと面白い。傍から見たら、ただの共食いだけどね……。


お魚を海水で洗って、ついでにまな板も洗って、その場を後にする。

お家に戻って、必死に火を熾して、夜空の下、お魚を焼いて食べる。

朝から何も食べてないから、すきっ腹に響くなぁ。お塩味だけだと味気ないから、煮たりもしたいなぁ。

でも鉄がねぇ……どっかに鉄板とか落ちてないかなぁ。落ちてないよなぁ。


星空に流れ星が見える。


「銅貨無事に救助されますように……なんて願っても無駄かなぁ」


なんて思いながら、星に願いを……していたら……。


「あ、あれ……?」


なんか思ったより近い所に流星が……落ちる……?


流星が水平線の向こうに落ち、閃光が走り、一瞬物凄い衝撃が耳に届いた。


津波が来て流されるかもと身を固くしていた僕だったけど、衝撃しか届いてこなかったみたい。

多少は波が高くなった気がするけど、そもそもこの島に打ち寄せる波は穏やかだから、全然怖いとは思えない。


それにあの感じだと、結構遠い場所に落ちたから、その間に高波が落ち着いたのかもしれない。

それにしても星が落ちてくるってすごいなぁ。

隕鉄とか非常に珍しい素材だし、錬金術の目で見てみたい気もするんだけど……。

この広大な海のどこかに落ちた物なんて、回収は無理だよね。


「隕鉄のお鍋とか……浪漫しかないよね。素材からして高級すぎて買えないと思うけど」


隕鉄は普通に「聖剣」とかの材料になるしね。

そんな凄い物じゃなくてもいい。普通の鉄くずでいいから手に入らないかなぁ。

そうすれば、お魚を焼いたり煮たりできるし、刃物も強化できるんだけどね。


そんな事を思ったら、貝殻のナイフがなんか寂しそうに僕を見ているような気がしてきた。


「だ、大丈夫! 鉄が手に入っても、君はずっと合成し続けるからね!」


貝殻から生成した石灰は、製鋼の時の材料にできるしね。無駄にはしないよ。


お腹がいっぱいになった僕は、そのままうとうとし始め、砂浜で眠ってしまった。

椅子代わりの椰子の実が、そのまま枕に早変わり。

寝具も作りたいけど、生活環境の向上はまたあとでもいいかな。

昼はちょっと暑いけど、夜は寒くもないし、暑くもない。

虫もいないから快適なんだよね、ここ。


「壁も明日になったら乾いてるだろうし……おやすみなさい……」


そしてそんな僕をじっと見つめていた視線に、その時の僕は全く気付いていなかった。

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