一日目 流れ着いたのは
『隠された神の島に到着、おめでとうございます!』
頭の中に、誰かの声が響く。
『この島の所有権は貴方に指定されました!』
かつて経験した、全身を執拗に鞭で打たれたように痛み、軋んでいる。
『あなたに与えられた島の資材は、1日ごとにリスポーンします! 有効活用してください!』
痛みがあるって事は、僕はまだ生きているようだ。
『島に対して、一定のリアクションが認められるたびに、島レベルが上がります!』
なんとか眼を開けようと努力をするけど、魔力欠乏酔い特有の頭痛がひどくて、身体がいう事を聞いてくれない。
『島レベルが上がれば、島が成長します!』
頭の中で、知らない人の声が何度も何か言ってるけど、それに反応してる余裕はないよ?
『島の成長、神と共に期待していますね! グッドラック!』
だから余裕はないというのに……。
『デイリーボーナス! 島の資材がリセットされました! 初回特典で、所有者「アルトリウス・マギス」の状態と魔力を回復します!』
「ああもう! もうちょっと寝かせてよ!」
全身の痛みと頭痛に加えて、頭の中でがなり立てる不思議な声に溜まらず、僕は飛び起きた。
ざざ~ん。
「……ここは?」
なんとか起きられたようだ。
いつの間にか頭痛が収まっていたけど、その時の僕は全然気づかなかった。
「僕は船で嵐に遭って……そうか、海に飲み込まれたんだ」
船員さんが必死に手を伸ばしてくれて、それを掴もうとしていた事までは覚えている。
でも、そこまでは覚えているけど……その先は何も覚えていない。気付いたらここにいた。
「ここは海岸……じゃないな、砂浜が海に出ている、狭い砂州かなにかかな? それにしても陸地が見えないけど……」
周囲をぐるっと見まわしてみたけど、周囲は全部海。
海のど真ん中になぜかある、小さな砂浜に流れ着いたみたい。
大きさ的には10
それ以外は海と砂浜のみ。視界全部海。
「生きていたのはいいけど……どこだろ、ここ……救援は期待できないよなぁ……」
何しろ周りは全部海。
水も食べ物も、荷物として持ち込んだ着替えや、錬金術に使う触媒や道具も何もない。
このまま何もしなかったら、三日も経たずに死んじゃうかなぁ。
「水は海水から生成するばなんとかなりそうだけど……容器も何もないんだよね」
そしてふと、先程まで頭の中に響いていた声の事を思い出す。
「なんか僕がここの島?の所有者になったかなんとか言ってたな?」
そう呟いたら、突然目の前に、文字列が浮かんだ。
「名称未設定の神の島」島レベル1。
資材「椰子の木:1 リセットまで23:47」
「なんだろ、これ……数字が次第に減ってるけど」
そして思い出す。資材は1日ごとにリスポーンするとか言ってた気が?
もしかして、この数字が0になったら、椰子の木が元に戻るのかな?
「この椰子の木を使ってなんとかしろって事?」
確か声が「神の島」とか言ってたよね? 僕は神様に助けられたのかな?
「椰子の木を切り倒して資材にして……戻らなかったら詰んじゃうよね」
どちらにしても、椰子の実が大きくなるまで僕がもつとも思えないし、今生っている、4つの椰子の実は回収しちゃおう。
椰子の実のジュースを飲めば、喉の渇きは潤うだろうし、実の繊維は色々使える。油も採れるし、砂糖も作れる。
たわしとかも作れるよね。頑張れば楽器にもなる。今作っても全く役に立たないけど。
葉っぱも屋根にできるし、繊維も採れる。お皿代わりにもなるかな?
幹は木材として有用だしね。船を作れるほどの量じゃないけど、木材は確保しておきたいな。
椰子の木は結構な有用素材なんだよね。
まぁ、言葉通りにリスポーンされなきゃ詰むわけだけど。
いくら錬金術とはいえ、無から有はできないし、等価交換の法則に縛られているので、使えば使うほど素材を消費する。
それに僕は見習いだし、大規模な錬金術なんて知らない。
黄金を生み出したり、賢者の石の生成なんて、夢のまた夢のペーペーだからね。
「とりあえずは【錬成】して分解しよう」
錬金術の基本は【分解】【抽出】【錬成】。
先生に散々叩き込まれた、基礎中の基礎だね。
【分解】で素材をバラバラにして、【抽出】で素材を分け、【錬成】でイメージに沿ったものに形作る。錬金術の基本にして奥義。深い知識と創造力が試される、奥の深い職業だって先生は言っていた。
まずは目の前の椰子の木を「木材」に【錬成】する。
これくらいは簡単。目を瞑っていてもできるよ。
大きな椰子の木は、丸太と葉の束、椰子の実に分けられ、砂浜に並べられた。
【錬成】して気付いたけど、枯渇したはずの魔力はなぜか戻っていたみたいだ。
そう言えば魔力欠乏症の頭痛も、いつの間にか消えていたみたい。
「これも神様の恩恵かな? 不思議だけど助かるなぁ」
もうちょっといい場所に流れ着かせてくれてもよかったとは思うけど、贅沢は言えないよね。
人間生きていればなんとかなると言うのが、先生の口癖だったし。
「とりあえず、太陽の光を遮れるようにしないと消耗しちゃうよね」
丸太を【分解】して【錬成】し、角材に変える。
結構な数ができたけど、地面に立てて天井部分は葉っぱで覆えば少しはましになるかな?
「上に乗せただけじゃ、風で飛んじゃうかな?」
葉っぱの半分を【錬成】して、繊維に変えて紐に変える。
「これで縛れば多少はましになると思うけど、屋根がスッカスカになっちゃうなぁ」
大きな椰子の木とは言え、葉っぱの量は大した量じゃなったしね。
なんとか頑張って角材を砂浜に突き立て、梁を組んで【錬成】で融合させる。
「ひ、ひぃひぃ……ち、力仕事は専門外なんだけどなぁ……」
角材を一本、スコップに変えてがっしがし地面を掘る。
日陰すらない炎天下の元の作業で、汗が凄い。
「や、椰子の実つかっちゃおうかな……」
転がしていた椰子の実を拾い上げ、軽く振ってみる。
「うん。ちゃんと中にジュースが入ってるみたい」
【分解】で椰子の実に穴を空け、スコップを作った残りの角材でストローを作って突っ込む。
「甘い、美味しい、ああ、生き返る……!」
話には知っていたけど、椰子の実のジュースを飲んだのは初めてだ。喉が渇いていたのもあるけど、こんなに甘くて美味しい物だとは思わなかった。
この液体から砂糖とかも【抽出】できるみたいだけど、正直今は飲み干したいよ!
椰子の実一個分、一気に飲んじゃったけど……作業に没頭していたのかな。
飲み終わって一息ついたら、一気に疲れが出てきた。
「とはいえ、ベースは作っておかないと大変だし、頑張らなきゃ……」
食べ物の事も考えないといけないし、拠点はさっさと作っておきたい。
太陽の位置的に、そろそろ昼になるくらいかな?
太陽の位置を見る限り、大陸よりずいぶん南の方に流されている気がする。
どっちにしろ、目視できる物がなにも無いので、詳細は分からないけどね。
「夜になったら星の位置でなんとなくわかる気もするけど……とにかく屋根は葺いちゃおう」
その後頑張って、不格好ながらも、四角いベースキャンプが完成した。
四方はふきっ晒しだし、中で寝転がって見上げると隙間だらけだけどね。
それでも、直射日光を受け続けるよりはましだと思う。
僕が錬金術を習っていなかったら、あっと言う間に死んで終わってたと思う。
「……もしかしたら、それを踏まえて僕を助けてくれたのかな」
そんな疑問も浮かぶけど……神様の考えなんて僕には及ばないから、考えるだけ無駄か。
「さて、次は食料だけど……その前に」
残った角材を【錬成】して、細い木の棒と、大きめの木箱と、木のコップを作る。
これで木材はすべて無くなった。
僕の手元にあるのは、この木箱とスコップとコップ。
そして命を繋ぐために必須になるだろう木の棒。
この棒は釣り竿だよ。先端を細くしているわけじゃないから、本当にただの棒だけどね。
「細い紐が欲しいんだけど……葉っぱはもう使えないから、椰子の実を使おうかな?」
椰子の実を覆う繊維質をかき集め、【分解】して細い紐に【錬成】する。
何度か引っ張って切れないか試してみたけど、うん。大丈夫そう。
よっぽど強い力が掛からない限り、紐は切れないと思う。その前に棒が折れる気がするけど。
「強度は何とかなるかな? あとは鉄なんだけど……砂浜から採れるかなぁ」
目の前に沢山ある砂浜を試しに【分解】で物質毎に分けてみる。
「ほとんど砕かれた珊瑚だなぁ……サンゴからは「石灰」が取れるけど、今は「砂鉄」の方が大事」
大量の砂を錬成して、なんとか小指先の「砂鉄」をかき集める事が出来た。
その際に大量にできた「石灰」はブロックにしてその辺に積んである。
壁にできるんじゃないかってくらいの量だけど、並べる位しかできないし、壁にしても、寝ている時に崩れたら危ないから、今は放っておこう。
「さすがに鉄は少ないなぁ……大切に使わないと」
「砂鉄」を【錬成】して、釣り針をいくつか作る。
それを細い紐に結わえ、棒につなげて釣竿が完成。
餌はその辺を掘ったら出てきた二枚貝の中身で何とか試してみよう。
これを食べたほうがいい気もするけど、砂鉄の【錬成】中に探してみた結果、あまり数が取れなかったから、餌にした方がいいという判断だよ。
島の周囲を眺めて見て、一部深くなっていた海に釣り糸を投入。
釣れなかったらどうしようと不安に思っていたけど、それは杞憂だったようだ。
魚影が濃いのか、警戒心がないのか、面白いように釣れる。
夢中になって釣っていたら、餌の貝が無くなる頃には、20匹くらい釣れた。
「釣れたはいいけど……これどうして食べよう?」
錬金術とはいえ、さすがに火は起こせない。
正確に言うと起こせるけど、触媒になるものが何もないからね。現状は無理。
「燃やすものも何もないし……どうしよう?」
とりあえず知識にあるように、おっかなびっくり、魚を処理する事にする。
鉄はもうないから、貝殻を再錬成して作った、石灰の石ナイフで魚を捌いてみたんだけど……。
「グロい……」
箱の上で解体をやったら後々後悔しそうだったので、石灰のブロックを持ってきて、その上で処理していたんだけど……慣れるまで大変かも。
魚を捌いたのは実は初めてなんだけど、慣れるかちょっと自信がない。
内陸に住んでいたのもあって、野菜と加工肉くらいしか、触れる機会はなかったからなぁ。
「もしも明日、椰子の木が復活したら、絶対薪を作るぞ……」
捌いた魚を海水で洗い、内臓はそのまま海に不法投棄。
なんか魚が群がってきて内臓を食べてたけど……魚って共食いとか気にしないんだね。
ああでも、
沖の方を回遊してるけど……明らかにデカいフカヒレが3.4つ見える。
「海に入ったら襲い掛かってくるかなぁ……来るだろうなぁ……」
幸い島の反対側は浅瀬で、大きな鮫は入って来られないだろうけど……深場のこっちはあまり近づかないようにしよう。
いきなり海に引きずり込まれたら、僕じゃ何もできないまま、餌になるしかないからね。
捌いた魚は、一応【
遠い国ではそういう習慣があるらしいから、大丈夫だとは思うけど。
今回は、毒魚が混じっていたら困るので、変な形と色模様の魚はリリースした。
次は試しに、【分解】して成分を見てみようかな?
【鑑定】が使えれば楽なんだけど、僕にそんな素敵なスキルはないからね。
僕にできるのは【分解】した物質の成分を把握する事と、【抽出】で物質毎に仕分ける事、【錬成】で形を変える事だけ。多彩な人が羨ましいくらい、僕は錬金術しかできないんだよね。
一応【生活魔法】だけは必死に覚えて、基礎の基礎はできるようになったけど……。
だって【生活魔法】がないと、生活力が壊滅しているあの先生の元で、普通の生活なんて無理だったんだもの。
あの先生、酒があれば生きていけると思っている節があったからね……。
料理も焼いて煮るくらいはできるようになった。
よく「いいお嫁さんになれる」って先生に揶揄われたけど、素人に毛が生えたくらいの料理しかできないよ。
まぁ、焼いて煮るとか、今はそんな事を言ってる余裕はないし、お腹が空きすぎて、不細工に切った切り身を見るだけでも涎が垂れそう。
「い、頂きます……」
海水で洗って、皮を剝がしただけの魚だったけど……うん。
美味しいね。お腹が空いてるってのもあるけど、生魚でも、結構美味しく食べられるんだなぁ。
結局3匹ほど食べて、残りは梁に引っかけて、干しておくことにする。
食べるにもいいし、釣り餌としても使えるし、干した魚は今後重宝すると思うなぁ。
「厄介な虫がいないのは有難いよ」
風に揺れる切り身を見ながら、なんとなく呟く。
こんなの街で干していたら、一瞬で蠅が集って真っ黒になっちゃう。
自分がそうなる姿が一瞬頭に
腐敗した死体とかは貧民街でよく見るけど、酷い有様だもんね。
まぁ、その前に誰かに持っていかれちゃうと思うけどね。貧民街は酷いからなぁ。
次第に暮れ行く太陽を見ながら、はぁっとため息をつく。
「先生とか錬金術ギルドの人達、心配してくれてるかなぁ……なんて。僕みたいな見習いなんて、心配なんかするわけないか……」
先生は、口が悪くて、がさつで、割と人でなしだけど、僕の事はそれなりに可愛がってくれていた……気がする。ちょっと自信ないけど。
錬金術ギルドに入る際に、手続きで対応してくれた美人さんは、ちょっとは心配してくれるかもしれない。すごく優しくて美人だったし。してくれたら嬉しいなぁ。
星が天に煌めく頃には、疲れもあってか、僕は完全に眠りに落ちていた。
星を見て場所を推測したいとは思っていたけど、そんな考えは完全に吹き飛んでいたみたい。
砂浜に転がっていた椰子の実を枕にして、僕は深く深く眠っていた。
疲れのせいか場所のせいか……なぜか久しぶりに、いつもの悪夢は見なかった。
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無人島?脱出劇です。あまり長くならない話の予定です。
こういうゲームありますよね。自分が状況になったら、秒で死ぬ自信があります。
不定期連載のつもりですけど、余裕があったら更新しようかな?くらいで考えておいてくださると助かります。
もう一本書いているのは毎日更新しているので、よかったら見てください。
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