第40話 開会宣言

次の日の朝、アルカディアの空は澄み渡り、太陽の光が街並みに優しく降り注いでいた。

今日は選抜戦の一次予選の日。カエデとダリルは朝食を終えると、満ちあふれるエネルギーを胸に、活気に溢れるアルカディアの街へと向かった。

道行く人々もまた、選抜戦会場へと向かう姿が目立ち、街全体が興奮と期待で包まれている。


カエデとダリルは街の大通りを歩きながら、会場となる巨大な建物が彼らの前に徐々に姿を現すのを見た。

それはまるで大きなドームのように、青空を背景に壮大にそびえ立っている。

その大きな円形の建物は、何万人もの観客を迎え入れるために建設され、内部のガラス構造が朝日を反射して虹色に輝いている。


ドームの外観は、メタリックシルバーの骨組みで支えられ、その表面はガラスパネルで覆われている。

ところどころに緑の蔦が絡まり、自然の美しさをも感じさせるその姿は、アルカディアの誇りとして町の人々から愛されている。


カエデは興奮を隠せず、「すごい、おっきいね!」とダリルに言った。

彼もまた、「これほど大きいとは思わなかったよ」と驚きを隠せない様子だった。


カエデとダリルは他の来場者たちと共に長蛇の列に並んで客席入り口へ向かう。

様々な国から来た観客や参加者たちが会場の周りを埋め尽くし、微かなざわめきが通りを満たしている。

客席入り口にたどり着くと、二人は列に並びながら時間を過ごした。


来場者たちは笑顔で談笑し、時折興奮した声が人混みに響く。

少しずつ列が進む中、係員が来場者たちのチケットを確認し、入場させていた。


いよいよ自分たちの番が来た。係員にチケットを見せたカエデとダリルは、入場口で一瞬互いに見つめ合う。

係員は「お二人は別々の入り口になります」と告げた。


ダリルは微笑み、カエデの頭を軽くポンと叩きながら「また後で会おうね」と声をかけた。


「うん、またね!」とカエデも元気よく返事をする。


ダリルが列に加わり、姿が人混みに紛れて見えなくなったのを確認すると、カエデは心の中に漂う少しの緊張と共に、すぐに行動に移った。彼女は人混みを逆行し、選手入り口を目指す。


観客としてではなく、選手としてこの大舞台に立つため、カエデはドームの陰の側へと回り込み、選手用入り口に向かって足を速めた。




観客たちの歓声が高まる中、カエデは選手入り口へと急いだ。

人混みを逆行する中で、彼女の心臓は激しく鼓動していた。

緊張と期待が入り交じり、まるで冒険の物語の中に飛び込んだような感覚が彼女を包んでいた。


選手入り口にたどり着くと、カエデの視線は自然と視界の端に立っている人物に向けられた。

淡い緑色のローブを身にまとったアレクが、人気のない場所で静かに待っているのを見つける。

カエデは彼のもとに駆け寄ると、アレクは微笑を浮かべながら「嬢ちゃん、準備はいいか?」と声をかけた。


彼女は小さく頷き、その場で心を落ち着かせる。「うん、大丈夫だよ。」




選手入り口に進むと、周囲の選手たちはどよめきの声を上げ始めた。「あれが獣人のコアを持つ獅子王アーサーか…」「初めて見たよ、噂通りの強そうだな」という声が漏れ聞こえてくる。獅子王は内心、そんな囁きを聞いて嬉しさを感じつつ、その表情には出さず、立場にふさわしい堂々とした態度を保つ。


彼はスムーズに受付を済ませ、次々と通過する選手たちの流れに乗って開会会場へと通された。そこで彼を迎えたのは、満員の観客席から溢れる歓声の波だった。数多くの希望と期待に満ちた視線が輝き、そこには様々な人種が入り混じって熱気で満ちている。


ドーム全体に響く拍手や応援の声が、獅子王の心を一層熱くさせた。「この舞台で、勝利を掴む」。強い決意と共に、彼—つまりカエデの新たな物語が今、幕を開けたのだった。


獅子王はステージの中央に立ち、広場を見渡す。その堂々たる姿に、観客たちからさらに大きな歓声が湧き起こった。観客席にはきっとダリルもいるのだろう。その思いがカエデの心に安心と力を与える。




少しすると、観客たちの注目を集めるように、選手たちが並ぶ壇上に一人の男が立ち上がった。

彼の姿は圧倒的な存在感で、誰もが自然と彼を見やる。

陽光を浴びてサングラスと褐色の肌がきらりと輝き、筋肉質な身体を際立たせている。

彼は顔に爽やかな笑みを浮かべながら直立し、その大柄な体躯に鮮やかな服装をまとっていた。

深い緑のジャケットに、ビビッドな色彩で描かれた模様が印象的で、その色合いは彼の明るい個性を物語っている。

彼の目には、陽気さと共に何か安心感を与える少年のような輝きがあった。


彼がかぶっている帽子の下からは、ブロンドの髪がこぼれ落ち、風が吹くたびに揺れ動く。

そこから伸ばされた手で、彼は壇上の中央にあるスタンドマイクを握り締め、ゆっくりと目の前に引き寄せた。


「どーもー!」と声を出してみると、その音が会場いっぱいに響き渡る。

この短い一言がきっかけとなり、会場は静寂に包まれる。観客たちの期待と興奮が、彼の一言でピークに達したのだ。


彼は一瞬間を置いて、スタンドからマイクを軽やかに手に取ると、再び整った声で話し始めた。「レディースアンドジェントルマン!」その声が会場全体に響き、彼の明朗なトーンが空間を包み込む。

「私は今年の選抜戦実況を担当するマイクです。今日は皆さんと共にこの素晴らしい大会を楽しむべく、全力を尽くします」


その言葉に会場の一人ひとりが熱狂の表情を浮かべた。「さて、選ばれし出場者たちの活躍を目の当たりにしようではありませんか。その力と技に、敬意を込めて声援を送ってください!」彼の声は次第に高まっていき、聴衆の心を揺さぶった。


「それでは皆様、準備は整いましたか?」と問いかけ、観客から賛同の声が沸き起こる。

マイクは微笑を浮かべ、小さく頷くと、視線を一度回して観客席と壇上の選手たちを見渡した。


最後に彼はマイクを高々と掲げ、「ただいまより、選抜戦を開会します!」と力強く宣言した。

彼の声と同時に、観客は大きな歓声を上げ、拍手の音がまるで雷鳴のようにドーム全体に響き渡った。


獅子王アーサーは、マイクの言葉を胸に刻み込み、その目に強い決意を浮かべて再び舞台に目を向けた。新たな冒険が、今まさに始まろうとしている。勇者となるための試練が、彼女を待ち受けているのだ。

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