第29話 『融合』
「よし、まだまだ『気』の取得は不十分じゃが『融合』するには十分じゃろう――」
その言葉にアーサーとカエデはその瞳をキラキラと輝かせながら頷く。
アレクは説明を続ける。
「融合というのは、二人の『気』を一つに束ね、新たな力を生み出すことじゃ。お互いの力を掛け合わせて、君たちにも未知の力が備わるかもしれんぞ。」
「それをやってみたい!」カエデが声を上げると、アーサーも「僕も!やってみたい!」と続く。
アレクは微笑み、「よかろう。では、その方法を教えよう」と言いながら、ゆっくりとステップを示し始めた。
「まずは、体全体に『気』を流す。これは体内のエネルギーを意識してコントロールすることじゃ。全身を巡るその力を感じるんだ。」彼は両目を閉じ、軽く呼吸しながら内なる気を整える様子を実演して見せた。体に黄色のオーラをまとい始めたかと思うと、緑、赤とオーラの色が変わっていった。
カエデとアーサーもそれにならって、両腕を軽く広げ、深呼吸を始めた。しばらくして、二人も何かが体を流れる感覚を掴み始めたように見えた。
「次に、各々が拍手のような形で両手を打ち付け手を、合掌の形になるように合わせる。互いの『気』を感じながらこれをするのじゃ。」アレクは自分の手を優雅に叩き合わせ、一瞬の静寂を作り出した。
カエデとアーサーは顔を見合わせ、「せーの」と声を合わせて同じ動作を試みた。
「最後に、その手を離して広げるのじゃ。手を肩幅に広げることで、新しい力が生まれる道を作る。」アレクは両手をゆっくりと横に開き、まるで目には見えない糸が彼の手を引いているかのようだった。
カエデとアーサーは一息に動作を繰り返した。しかし、何も起きなかった。手を離しても、空気には何の変化もなく、新たな力がそこに現れることもなかった。
「うーん、何も起きないね」とカエデは少し残念そうに言った。「どうしてだろう?」
「それは2人の『気』のバランスが取れてないからだな」とアレクはにこやかに答えた。
「『気』のバランスが取るだけでできるの?」とカエデは疑問を投げかける。
「いやそれだけじゃなダメなんじゃが、これは感覚の話だからやっていってつかむしかないな。
とはいえまずは、融合が成功するためには、互いの『気』をより深く感じ取ることが必要じゃな。」
アーサーは首をかしげながら「どんなことをするの?」と尋ねた。
アレクは笑みを浮かべ、「これを使ってもらう」
その手には見慣れない道具が握られていた。それは、木製の三角形のピラミッドのようなものだった。底面の各角には取っ手が1つずつついており、取っ手とピラミッドの接点から頂点にかけて金属製の合計4本の溝がついている。アレクはその道具を地面に置き、指で撫でながら説明を始めた。
「この道具は、二人の『気』のバランス感覚を得るために使うものじゃ。向かい合ってそれぞれ取っ手を握ってみなさい」と彼は説明をした。
カエデとアーサーは向き合って取っ手を手に取る。金属の冷たい感触が手の中でしっかりと伝わってくる。
「さて、この金属の玉を坂の頂点に置く。そしてその玉が坂を転がり落ちないよう、お互いの手から『気』を流しいれ、バランスをとるんじゃ」とアレクは実演するように、玉をそっと溝の頂点に乗せた。
カエデとアーサーは息を合わせ、必死に気の流れを意識し始めた。だが、玉はすぐに坂を転げ落ち、金属のカランという音を立てた。「ああ…」とカエデが悔しそうに声を漏らす。彼女の手元を見て、アーサーも少し落胆した顔を見せる。
「大丈夫、最初は皆こんなものじゃ。」アレクは柔らかく笑いかけた。
「最初は『気』を調整しながらやるといい、だが『気』が小さすぎると球を押し上げきれずおちてしまうからそこはうまく調整するんだな」
再び挑戦する度に、カエデとアーサーは少しずつコツを掴んでいく。何度も失敗を重ね、玉がまたもや転げ落ちる度に二人は笑い、互いの失敗を補い合った。彼らの心が次第に一つになり、自然と呼吸を合わせるようになっていく。
時間が経つにつれ、カエデとアーサーは玉を支える感覚を少しずつ手にするようになった。指先に集中を込め、アーサーの気を手繰り寄せる感覚を覚えた。彼女の手元から、わずかに柔らかな白い光が透けた。
気を集中させる。金属の取手がうっすらと白く発色し始めた。その光は、アーサーとカエデの諦めなかった努力の証だ。
「できた!」とアーサーが声を弾ませ、玉が静かにその場を保つ。数秒保ったかと思うと、鉄球は坂を転げ落ちてしまった。
その成功に二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
アレクは微笑んで頷いた。「やるじゃないか、それを長時間続けれるようになればぐっと『融合』の成功につながるぞ。じゃあ引き続きやっといてくれ、俺は別にやることがあるんでな」といいアレクは森の中に消えていった。
こうして新たな気づきを得たカエデとアーサーは、もう一度『融合』を試みようとする。
カエデとアーサーは顔を見合わせ、「せーの」と声を合わせて各々両掌を打ち付けて合掌の形を作る。
そして同時に手を広げると、二人とも左右の手のひらをつなぐように、白い光がふわっと現れた。
しかし一瞬見えたのちに消えてしまった。
「ねえアーサー!みえた!?」
「ぼくも見えたよ!」
カエデとアーサーは修行の成果が少し出たことを喜びあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます