第28話 謎の老人

翌朝、森に透き通るような光が差し込む頃、カエデとアーサーは早くから目を覚ました。

鳥たちのさえずりが心地よい目覚ましとなり、彼らの新たな一日が静かに始まった。


「おはよう。今日はさらに長い時間、石を持ち続けるんじゃぞ」とアレクは、森の小道に立って二人に声をかけた。

「さぁ、まずは朝食じゃが、もちろん石は手放すんじゃないぞ。」


カエデとアーサーは頷き、白く輝く石をしっかり手に握りしめた。その目は昨日よりも確信に満ちていた。


朝食の支度は、森の中にある小さな広場で行われた。

アレクが手際よく薪に火を灯し、簡単な草木の葉と果物、そして干し肉を用意した中、

カエデとアーサーは片手を使わずに食事をするという指示に戸惑いながらも挑戦を始めた。


「片手に集中しながら、食べるのは難しいね」とカエデは笑いながら口に葉を運び込んだ。

アーサーも同様に、果物を舌で器用に転がしながら食べているが、時折石に集中が削がれて果物が転げ落ちてしまう。


「うーん、難しいなぁカエデ。でも、面白い!」とアーサーはニッコリと笑った。

その小さな声は森の静寂に溶け込むように響いた。


カエデも同様に、時折顔を赤くしながら一生懸命に食事を進めた。

二人とも石を持ち続けながら食べるという慣れない状況に何度か失敗を重ねていた。


すると、その時、カエデは一瞬気を抜いてしまった。

手からポンと石が弾かれ、地面を転がっていく。「あっ!」驚きが声となって漏れた。


アーサーもその音に気を取られ、自分の石を手から離してしまった。「あぁ…」と申し訳なさそうに頭をかく。


「まぁ、最初はそんなものじゃろう。」アレクは微笑を浮かべながら二人を励ました。

「気を抜かずに持ち続ければ、やがてそれが自然とできるようになる。」


日が昇るにつれ、二人は再び訓練に専念した。気が散らないよう、

自分たちで食事の時刻や休憩を決めるようになり、次第に石との付き合い方が分かってきた。


数日が過ぎ、カエデとアーサーは食事中も石の光を絶やすことなく持ち続けることに成功するまでになった。

夜は満天の星空の元、石の光がまるでもう一つの星のように瞬いているのを眺めながら二人は眠りについた。

その手はしっかりと石を握りしめ、夢の中でもその光を感じていた。




ある晴れた朝、アレクは彼らの成長を温かい眼差しで見ていた。

「さて、嬢ちゃん、ちび助。次のステップに進む時が来たようじゃな。」


カエデとアーサーは期待と不安が入り混じった表情を浮かべ、緊張しながら彼の言葉を待った。


「よし、まだまだ『気』の取得は不十分じゃが『融合』するには十分じゃろう――




―――――――――――――――――――



ダリルは軽い装備を整え、小さな革鞄を肩に掛けて街を出発した。今日は昼過ぎまでにオークウッドに戻る馬車に乗らなければならない。彼の頭の中では、カエデがアレクの元で泊まり込みで修行をしていることが心に引っかかっていた。


「手土産はもっていかんとなぁ」と独りごとを言いながら、ダリルは王国の商店街をぶらつくことにした。


商店街は、活気に満ちている。通りに並ぶ店はどこも色とりどりの商品を並べ、旅人や地元の人々を迎えていた。

ダリルはオークウッド街で有名な食べ物のお土産を探し、いくつかの食品店を見て回ることに決めた。


そこで目を引いたのは、ほのかに香ばしい匂いを漂わせる焼き菓子だった。

地元特産の甘い木の実をたっぷりと練り込んだパイは、サクサクとした触感と豊かな風味で人気の品。

「これなら、ちょうどいいか」とダリルは思い、そのパイを一つ購入した。




焼き菓子を手に、ダリルは王立研究所へ向かった。

研究所は、遠くからでもその白亜の優美な佇まいが目を引き、まるで雪の中に佇む壮麗な建造物のようである。

築年数こそ経っているものの、その輝きはまるで新築同様で、国家が惜しむことなく資金を注いでいることが窺えた。


入口をくぐると、中は外観に劣らず清潔で明るく、白を基調とした内装が広がっている。ダリルを迎えたのは受付に立つ女性、マキスだった。彼女は親しみやすい笑顔でダリルを見つめ、受付カウンターから話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」と、柔らかい口調で問うた。


「アレクという者に会いたいのですが、彼はここにいますか?」とダリルは丁寧に尋ねた。


しかし、マキスは申し訳なさそうに首を横に振った。

「残念ですが、アレクさんは在籍しているものの、今日はここにはいないんです。」


ダリルは少し困ったが、諦めたくなかった。「どうしても今日、あいたいのです。何とかならないでしょうか?」

彼の声には焦りが混じっていた。


そこで、マキスは事情を聞くことにした。「どうしてもというのには、何か特別な理由が?」


ダリルはカエデがアレクの下で修行をしていることを説明し、彼の教えに感謝していることを伝えた。

それを聞くと、マキスの目は興味深げに輝いた。「あら、そうなの!アレクは研究所の中でも優秀ですからね!そのカエデちゃんって子も立派な研究者になるかもね!」


ダリルはうなずき、「はい、アレクさんには本当に様々なことを教えてもらっているようです。知識だけでなく、戦闘技術についても教えているようでして――。なのでお礼にと土産も持ってきたのですが・・・」

ダリルは先ほど買った土産を見せる。


「そうなんですね。そうでしたら私の方から渡しておきますよ!ダリルさんの感謝の言葉も伝えておきます!」


「すみませんがよろしくお願いします。」


ダリルはふと、研究所にかかっている時計を見た。

想定よりも長居してしまったようだ。


「すみませんが、これで失礼します」


「はい、またこちらによることがあればいらしてください」




マキスは、先ほど話していた研究所の出口へと向かうダリルの後姿を見送りながらふと先ほどの会話で疑問に思ったことを口にする。


「アレクったらいつの間に戦闘技術なんて学んだのかしら」




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