第23話 バレる
「そんなとこに隠れて何やってんだ。」静かな森に響いた。
彼は立ち上がり、どこからか気配を感じ取ったかのようにしっかりと木の上を見据えた。
その言葉に、カエデは思わず驚きこえをあげそうになる。
アーサーは完全に身を隠し、葉陰に身を潜めていて、身動きすらしていない。
逆を向いていたはずのアレクが気付くはずがない。
アーサー自身も、アレクが自分に対して声をかけたとは信じがたい思いだった。
「いや、彼が見ているのはきっと僕じゃない…。」心の中でそうつぶやく。
緊張が走る中、小さな体は張り詰めて動かなかった。
アレクは何かを察知したかのように自信を持って続けた。
「来ないならこちらから行くぞ。」彼は拳を握りしめる。
長髪が一瞬揺れ、その筋肉質な体が、やはりただ者ではないことを強く物語っていた。
アレクが臨戦態勢を取ると、その場の空気に一瞬、静寂と緊張が漂った。
アーサーはその感覚を敏感に感じ取り、このまま隠れていてはまずいと、
敵意がないことを示すためにゆっくりと木を降りてきた。
彼のオレンジ色の毛は、陽光を反射して煌めきながら慎重に地面に着地した。アーサーは両手を広げ、鋭い爪を収めていることを見せつつ、アレクに向かって穏やかな声で話しかけた。「僕は敵じゃありません。」
しかし、アーサーの一声にアレクはさらにその警戒心を強めた。
「喋るとは…なかなか興味深いが、尚更警戒せざるを得まい。」
アレクは一歩アーサーに近づき、その鋭い視線を投げかけた。
カエデは、これ以上の誤解を生まぬよう、迷うことなくアレクとアーサーの間に飛び込んだ。
そして必死にアレクの目を見て、声を張り上げた。「アーサーは私の友達なの!悪い魔物なんかじゃありません!」
しかし、アレクは両腕にさらに力を込め、怒りをその声に滲ませた。「なんじゃと? 君も、そいつとグルなのか?」
カエデはその圧倒的な威圧感に立ち尽くし、一瞬にして動きを止めてしまった。
アレクから放たれる力を肌で感じ取り、もしその力の矛先が向いてしまえば命の保障はない――彼女の心は無意識にそう思ってしまった。
重たく押し寄せるプレッシャーの中で、二人は息を潜めて身動き一つとれなかった。
カエデもアーサーも、ただそこに立ち尽くすことしかできなかったのだ。
――アレクは突然、豪快な声で笑い出した。
それと共に、彼の体から発せられていた圧力は一気に解消された。
「脅かしてしまってすまんかったな。」アレクが腕を解き、緊張していたカエデとアーサーににこやかに言った。
カエデは息を整え、思わず質問を投げかけた。「信じてくれたの?」
アレクは柔和な目を向けて答えた。「信じるも何も、嬢ちゃんがわしに話しかける前から、そのちび助がおることは感じとったし、悪いものではないとわかっとったよ。ただ、嬢ちゃんがわしと話しているときに、あまりにも心配そうにしとったから面白くなっちゃってな。」アレクはウインクする。
冗談じゃないと腹が立ちながらも彼の言葉に胸をなで下ろしていると、アレクは付け加えるようにして言った。
「それに、たとえ襲われたとしても消滅させればいいしな。」にこやかに言うその言葉が、冗談なのか本気なのかわからず、カエデは苦笑いした。
ピリピリとした空気から解放されたアーサーとカエデはその場にへたり込んだ。
キャンプ地ではまだ、カエデ、アーサー、アレクが話していた。
カエデの夢、アーサーもカエデの夢を一緒にかなえたいと思っていることなど、
冒険への熱意、2人とも強くなりたいという話をアレクにする。
アレクは2人の話をうんうんと言いながら話を聞いてあげていた。
その中でふとアレクにアーサーの存在を許されたので
「アーサーと一緒に街を歩いたりしても大丈夫かな?」
カエデはアレクに問いかける。
「うーん。まー結構そういうのに敏感な奴もおるからバレたらまずいじゃろうなー」
「そっか。。アレクはこのことみんなに言うの?」
カエデは不安そうに問いかける。
するとそんな不安を振り払うかのようにアレクは笑う。
「んなこと言わんよ。ちび助には個人的に気になることも多いしな。ちなみに嬢ちゃんちび助とはどこで会ったんじゃ?」
「私が住んでる街の森でばったり会ったよ。」
「嬢ちゃんはどこに住んでるんじゃ?」
「オークウッド街ってところだよ」
「ほーオークウッドねぇ――」
アレクは少し考えるような顔をする。
「――まあええか、強くなりたい君たち二人にいい知らせがある。」
アーサーとカエデは興味津々にアレクの言葉に耳を傾ける。
「ちび助と嬢ちゃんが一緒に戦う方法があるぞ」
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