第22話 謎の老人

ユグドラシルの広大な森の中、カエデとアーサーは静かに進んでいった。

そして彼らは、開けた場所でキャンプをしている老人を発見した。

焚き火がぱちぱちと音を立て、穏やかな炎が揺らめいている。




好奇心に満ちたカエデは、老人に近づき、問いかけた。「ここで何をしているの?」


老人は火のそばに腰を下ろし、白髪をオールバックに整えた姿が堂々として見えた。

その目は柔らかく微笑みを湛え、知識と経験が宿っていた。

「おや、こんにちは。俺はこの辺りの生態系の確認と、門の外側にある安全区域に紛れ込んでいないか魔物のパトロールをしているんだ。」彼の声は優しく、どこか楽しげだった。


「生態系の確認?」カエデは頭を傾げ、小さな顔に疑問が浮かんだ。


「うむ。ユグドラシルの森は不明なところが多くてな。ここはもともとあった巨大な森を無理やり外側から国境の壁で囲んでるんじゃ。だから大きな木々もなんでこうなっているか全くわかっておらん。そんな自然の動向を観察しているんじゃ。ただ、正直門よりこちら側に魔物が紛れ込むことはほぼないから、ほとんどキャンプを楽しんでいるようなもんだな。」


その説明にカエデは納得し、周囲の景色を見渡した。

アーサーは、ばれないように完全に身を隠しながら話に耳を傾ける。


「そうなんだ!ところで、じいちゃんのお名前は?」カエデは改めて問いかけた。


少し間をおいて、老人は答えた。「俺の名前はアレクだ。王立研究所で研究員をしているよ。」


ふとカエデは、アレクのローブ越しに見える厚い筋肉に気付く。

研究者でもここまで鍛えているのか。




アレクのキャンプの周囲には、彼が集めたのか、写真や何かをスケッチしたもの、

不思議な形をした石片、など様々なものが無造作に並べられていた。

これら全てが、この広大な森を解明する手掛かりなのだろうと思った。


「アレクさんこれなに?」カエデは興味津々で話を続けた。


「うーんまあ、これはまだ嬢ちゃんにはまだ難しいかな」


カエデは子ども扱いされ少しむくれる。


「まあまあ、これは俺も調査中で詳しくはわかっとらんから正直正しく説明はできんのだ、そうむくれるな。

この森は門さえくぐらなければ安全じゃから楽しんでおいで、――あー突然戦い挑んでくる輩もいるが戦う意志さえ見せなければ、見逃してくれるじゃろうから気を付けてな。」


アレクは話もそこそこに、再び手掛かりの解明に戻ろうとする。

――しかし、少女はまだ話したそうに、この場にとどまっていたため話を続ける。




「一人でここまで来たのか?」アレクはおもむろにカエデに尋ねた。


カエデは自分の胸に手を当て、小さな声で頷いた。「はい、一人で来ました。」


老人は静かに「ふーん」と返事をした。


カエデは、この謎めいた老人が王立研究所の研究員であることから、何か強くなるための手がかりを知っているのではないかという期待が膨らんでいた。

彼女は思い切って、聞いてみることにした。


「実は、私はどうしても冒険がしたいの。」カエデは勇気を振り絞って話し始めた。

「でも、そのためには選抜戦で勝ち抜いてバッチを取らないといけない。でも、私にはコアが発現していないんです。だから選抜戦でもたたくことができないの…。」彼女は何かにすがるような声で話した。


アレクはカエデの言葉を静かに聴いていた。


「ほーコアが発現しとらんのか」


「はい。。」


「その様子だともう知ってるじゃろうがコアは遅くとも5歳までには発現するものだ。――じゃが稀に大人になってから発現することがあるぞ」


「ほんと!」カエデはその言葉に希望が持てた


「ちょっと見せてもらってよいか、背中をこちらに向けてみせてくれ」そうアレクが言うと

すぐに見てほしいとカエデは素直に言うことを聞いた。


アレクはカエデの左の肩甲骨の右下、心臓のあたりをさすりながら真剣な顔をする。


彼は難しい顔をしながら

「――言いにくいんじゃが、コアのが発現することは今後もなさそうじゃな」


カエデはあからさまに落胆する。


「ただ――」

彼はカエデをじっと見て、

「まあコアがなくても、戦う方法は2つある。」彼はカエデをまっすぐに見つめ、希望を示すように微笑んだ。


「本当!?」

カエデはその言葉に目を輝かせた。


「1つ目は鍛錬さえすれば誰でもできることじゃ。2つ目は嬢ちゃんだからできる方法がある。まあでもこれは嬢ちゃん一人じゃ、ダメな話なんじゃがな。この2つを両方を極めればコア持ちとも互角以上に戦えるはずじゃ――」

アレクはカエデを見たまま不意に「――まあその話はいったん置いといて――」と一言をつぶやく。

すると突然木の上で息を潜めているアーサーを見上げる。

「さっきからそんなとこに隠れて何やってんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る