第21話 大門

ユグドラシルの森をさらに奥へと進む。

カエデとアーサーは心に響く爽やかな風と、周囲の静かなざわめきを感じ取っていた。

道中で時折現れる珍しい植物や、鮮やかな色の鳥たちの姿は、森にいっそうの神秘を与えている。


しばらく歩き続けると、二人は小さな広場に出た。


「そろそろご飯にしよう!」


ここで少し休憩を取ろうとカエデは提案した。

アーサーは賛成し、軽く頷いた。




木々の間を縫って進む道はまるで迷路のようだったが、その先に、朝露を浴びて輝く果実が点々と実っているのを発見した。

カエデは軽やかにジャンプし、手の届く果実をいくつか採り取って、木陰に設けた即席のピクニック場へと戻った。


アーサーもその小さな手で小さな果実を集め、カエデの隣に腰を下ろした。

二人は静かに、そして愉快に食事を始めた。

甘い果実の濃厚な香りが口いっぱいに広がり、ひと時の休息を二人に与えてくれた。


食事の途中、カエデはふと思い出し、アーサーに昨日起こった出来事を話すことにした。

「昨日ね、サイっていう選抜戦の参加者に戦いを挑んだんだけど…、サイはコアを使っていないのにあっという間に負けちゃったの。」


アーサーは隣で頬張っていた果実を少し口から離し、小さく驚いた表情を見せた。

「でも、カエデ、勇気を出して挑んだことがすごいよ!」


カエデは少し複雑な笑みを見せ、「うん、でも悔しいな。。」と正直に打ち明けた。


アーサーはその言葉を受け止めながら、自分自身の無力さを感じていた。

もし自分も一緒に戦えたら、カエデを助けられたかもしれないと思うと、小さな爪をぎゅっと握りしめた。

「僕も役に立てるようになりたいな…」




食事を終えた二人は、果実の甘さをまだ唇に残しながら再び歩み始めた。

アーサーは木の上から飛び跳ねつつ周りの景色を楽しみます。

その時、視界の端に周りの巨大な木々よりも更に大きいものが遠くに見えました。


「向こうに何かある!行ってみよう、カエデ!」アーサーが興奮気味に言うと、カエデも頷き地を駆けていった。


音の発生源に向かって進んでいくと、彼らは森の奥深くにそびえ立つ巨大な門を見つけた。

その門は、まるでこちら側の森と、門の奥の森を隔離するようにそびえたっており、その両脇には巨大な柵が広がっている。


「すごい…こんなところにこんなものが…」


カエデとアーサーは息を潜め、門の様子を伺った。注意深く見ると、門のふもとにはいくつかの人影が見える。それは、二人の門番と、一人の白いローブをまとった人物だった。


門番の一人は長い茶髪を肩まで垂らし、背筋をピンと伸ばした大人の女性。その端正な姿勢からは、職務に対する自信と威厳が感じられた。もう一人の門番は、黒髪で少し天然パーマの入った背の低い少年。彼はどこかけだるげに立っており、時折それを隠し切れないように見えた。




カエデは遠くからその様子を見続けた。

すると、白ローブをまとった人物が長髪の女性に何か話しかけ、羊皮紙を見せている場面が目に入った。

彼の動作に注意を払いながらも、会話の内容までは全く聞き取れない。


白ローブの人物はさらに、自分の胸元を見せ、門番に示した。

カエデはアーサーに問いかける。

「よく見えないな。あれなんだろう」

「多分、あれはバッチだよ」とアーサーが答えた。

こんなところでも使うのかと、カエデはより一層バッチが欲しいと思ったが、

昨日のことを思い出し、気持ちが少し沈んだ。




やがて、女性の門番は門に備え付けられていた端末に手をかざした。

すると重々しい音を立てて、門がゆっくりと開き始めた。彼はそのまま中に消え、門は再び音を立てて閉じた。


カエデの好奇心は高まるが、同時に彼女は奇妙な感覚に苛まれていた。

先ほど気が付いたのだが、けだるそうにしていた門番の少年が、何故かこちらをじっと見ている気がしてならなかったのだ。

「まさかね…」と自身を納得させようとしたが、その視線は身に纏う不安感を否応なしに助長した。


「ここを離れよう、アーサー。」カエデは決断すると、アーサーも頷き、二人はその場からそっと遠ざかることにした。




森の深みへ向かい、カエデは地上を、アーサーは木の上から新たな道を探索し始めた。

すると、程なくしてどこからともなく漂ってくる香ばしい匂いと、小さな焚き火の炎が見え隠れしているのに気付いた。


そこにはキャンプをしている、一人の年老いた男性がいた。

彼は白髪で長髪をオールバックにまとめ、しわの刻まれた顔に温和な微笑を浮かべていた。

彼の淡い緑色のローブは、森の中で目立たないよう巧みにデザインされ、かつ壮麗でもあった。


カエデはその姿勢の中に、どこか威厳とともに暖かさを感じ、興味がわき話しかけることにした。


「すみません!ここで何してるの?」




――この老人がカエデの、そしてアーサーの未来を大きく変えることを二人はまだ知らないでいた。


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