第16話 アルカディア王国

カエデたちを乗せた馬車は、ついに王国の大門へと到着した。

王国はその偉大さを誇るように、どこまでも高い城壁を果てしなく続け、青空に向かってそびえ立っていた。

カエデは馬車から降りると、目の前に広がる賑やかな王国の景色に思わず目を見張った。


通りは色とりどりの衣服をまとった人々で賑わい、様々な商人たちが露店を開いていた。

行き交う人々の笑い声や、商人が客を呼び込む声があちこちから聞こえてくる。

その活気に、カエデの心は冒険の予感でいっぱいになった。


「それじゃ、私はここで」と、クリームは短く言うと、特に挨拶もせずにさっさと足早に離れていった。


一方、マーカスはダリルと談笑した後、「じゃあ、またどこかで会おう」と、和やかに別れの挨拶を交わした。


彼が去る直前に、マーカスはカエデに向かってウィンクをしながら微笑み、「ダリルの言うことは"ちゃんと聞くように"ね」と言った。

その一言に、カエデはハッと息を飲んだ。

怪我していた理由が魔物と戦ってしまったことだということがバレてしてしまったのかと内心ドキドキした。


「気をつけるよ」と言いながら、カエデは目が泳がないよう、慌てて精一杯の笑顔を作った。


その後、ダリルとカエデは宿泊手続きを済ませるために宿へ向かった。

宿は古いがしっかりした作りで、王国の中心地に位置していた。

受付で手続きを終えると、ダリルは安心した顔を見せた。


「よし、じゃあ早速、部屋に荷物おいてきな! 選手登録の会場へ行こうか」とダリルは提案したが、カエデは首を小さく横に振った。

「一人で行くから大丈夫。ダリルは疲れているだろうし、ここで休んでて。」


「いや...」とダリルはついていこうと思ったが、彼女の目に宿る決意に気づいて、静かに頷いた。

「わかった。でも途中で迷わないようにな。」

「そんな遠くないし大丈夫だよ!じゃあ行ってくる」


カエデが宿を出ると、ダリルはすぐに彼女の後をつけ始めた。

遠くから彼女の後ろを追い、登録会場に無事向かえているかを確認するためだった。


彼女は問題なく向かえているようだった。

ダリルは会場を遠目で見ていると、会場の入り口の近くの彼の顔馴染みの兵士と目が合った。

ダリルは身振り手振りで彼に合図を送り、カエデを見守るように頼んだ。

兵士は微笑んで同意した。


無事に会場に着くことが分かればすぐ帰ろう。

ついてきたことがカエデにバレてしまうと怒られるからな。




一方、カエデは選手登録の会場へと歩みを進めていた。

その道中、彼女はふと立ち止まった。

近くからざわめきが聞こえ、視線を向けると、混雑した人だかりが見えてきた。


彼女の心の中で冒険心が再びむずむずと騒ぎ出した。「何だろう?」と小さくつぶやき、カエデはその群集に惹かれるように足を向けた。


人だかりは大変な賑わいを見せており、通りを埋め尽くしていた。カエデは慎重に人々の間をすり抜けようと考えた。

彼女の小さな体は、こうした群衆の中でも器用に進むことができる。


「すみません、通してください!」とカエデは丁寧に言いながら、人々の間を慎重に進んでいく。

子供らしい柔らかい声と、真剣な眼差しが、周囲の大人たちをほんの一瞬和ませながら、彼女は少しずつその先へと進んだ。


やがて彼女は人ごみの先にたどり着いた。彼女の目は、一瞬の驚きと興奮で大きく開かれた。

人々の熱気に包まれたその場所で、彼女はこれからの冒険の目標となる人物を見つけることになる。

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