第15話 雪女
馬車はシルバーレイク街をぬけて、王国へ向けて再び出発した。
新たに乗車したのは、銀色の髪を持つ若い女性。
彼女は真っ白な肌とクールな佇まいが印象的で、背筋を伸ばして静かに座っていた。
車内は、新たな存在が加わり、緊張感と共に和やかさが漂っていた。
カエデは彼女の隣に座り、好奇心いっぱいの目で見つめながら話しかけた。
「こんにちは、私はカエデ!」笑顔で挨拶するカエデに、彼女は無表情のままだが、すぐに声を返した。
「クリームよ、よろしくね。」
その一言だけだったが、彼女の声には温かみが感じられ、カエデも少し安心した。
ダリルとマーカスも優しく話題を振り、会話は途切れずに続いた。
馬車が山道を進むうちに外の景色が変わり、遠くの森の陰に何かが蠢いていた。
カエデが窓の外をじっと見ていると、そこには獣の姿をした魔物達が殺し合い互いに食らいついている光景が広がっていた。
「あれは何をしてるの?」カエデの問いかけに、クリームがぽつりと「気持ち悪い…」と呟いた。
彼女の言葉にはわずかな感情が見え隠れした。
そんな中、突如としてブレイクがしゃべり始めた。
「まったく、おまえらもそれを食って生きているくせに、それを気持ち悪いだなんて言える立場かねぇ。」
クリームが急に杖が喋りだしたことにぎょっとすると同時に、大きな動きが見えた。
その中の十数匹の魔物が馬車を目指して動き出したのだ。
「あいつらここに来る!」ダリルが制止するようにカエデに言った。
「カエデ、絶対に馬車から出るなよ!」とダリルは短く言い放ち、即座に馬車のドアを開けて飛び出した。
御者は慌てて馬車の客室に避難し、そこで身を縮めて震えていた。
続いてマーカスも、悠然とした動きで馬車を降り、御者台に駆け上がった。
ダリルは馬車の前に立ち、マーカスは御者台の上、二人は息を合わせて魔物たちの群れに立ち向かう。
ダリルの手には、彼の体格に見合う剣が握られ、その刃が光を帯びていた。
向かってくる魔物をその刃で、いなし、突き刺し、刃が通らないものは突き飛ばす。
彼は、目の前で手を開き、小さな重力場を創り出しつつ、自信たっぷりにその魔物たちに向けて手を振り下ろす。
彼の攻撃により、魔物たちは重力の変動で宙に浮いたかと思うと、勢いよく地面に叩きつけられた。
カエデは胸の奥で心が躍るのを感じていたが、ダリルの言いつけを守り、馬車から出ることはできなかった。
そしてアーサーもまたその戦いを前に、心が躍るとともに、直接目で見ることができないもどかしさを感じていた。
マーカスは杖で指揮を取り、「ブレイク、行くよ!」と声を上げた。
「こんな小物共さっさと終わらすぞ」彼らは忠実にその力を発揮した。
杖を振ると無数の火の玉を飛ばし、魔物達をむやみに接近させないようにけん制する。
そのまま杖の先で御者台の床をカンっとたたいた。
すると地面にたたきつけられている魔物の真下から、いくつもの鋭い突起物が次々と生え、
剣の刃が全く通らなかった魔物たちの急所をもやすやすと的確に貫いた。
時折、マーカスはダリルにアイコンタクトを送り、重力操作で打ち落とされた魔物を次々と突き刺していく。
その連携はスムーズで、まるで前からこの動きが定型化されているかのように淡々と行っていた。
お互いをよく理解した動きから来るものだった。
しかし、群れの数が多く、ダリルもマーカスも力を集中させねばならない状況が続いていた。
それでも、彼らの連携は崩れることなく、魔物の数を着実に減らしていった。
その時、突然1匹の一回り大きな獣型の魔物が高く跳躍し、鋭い爪を繰り出しながら馬車の客席を狙った。
ダリルは声を上げる「マーカス頼む!」
焦ったダリルは重力操作で撃ち落とすことを試みるが、魔物は止まらない。
「くっやはり無理か、、」
マーカスも魔物の数が減り終わりが見えてきて油断をしていた。
一呼吸遅れて火の玉や剣山で妨害しようとするものの、魔物は紙一重でそれをすり抜け勢いよく馬車に向かって飛びかかってきた。
カエデは瞬時に身を固めるが、魔物の攻撃が届く寸前、カエデの目の前に突然、大きな氷のつららが現れた。
氷のつららは正確に魔物の急所を貫き、その瞬間に魔物はチリとなって消え去った。
「おいおい頼むぜご主人さんよお、この俺を使ってるんだからよお」
「うるさいなあ」
「にしてもなかなかやるんじゃねぇか?あの女」
クリームは、まだ席から動かずに窓の外を眺めながら淡々と言った。「…早くいきましょう。」
皆、彼女が魔物を忌み嫌っているものだと理解したが、ブレイクだけは違う印象を受けた。
するとブレイクはマーカスにしか聞こえないように小声で、
「おい、マーカス。どうやらあの女訳アリのようだぜ」
黙ったままのクリームは、そのまま窓の外を見続けた。
やがて、馬車は無事に王国――アルカディア――に到着した。カエデ、ダリル、マーカス、そしてクリームは静かに馬車から降り立ち、目の前に広がる壮大な王国の景色にそれぞれの思いを馳せていた。
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