第13話 王国へ
「ぼくもいく!」
その言葉にカエデは複雑な気持ちになった。
王国へ行くのはカエデにとって冒険だ。
だからアーサーにも来てほしい。
でもばれてしまったらアーサーが危険な目にあってしまう。
カエデはアーサーに正直な気持ちを言った。
「アーサーが来てくれるのはうれしいけど。バレたらアーサーが退治されちゃう。」
「それでもアーサーは行きたい。」
アーサーはどうしても行きたいようだ。
カエデは考えたが、冒険には危険がつきものだ。
何かあったときに対処すればいいかと、アーサーと一緒に行くことを決めた。
「よし!じゃあ行こう。でも絶対に見つかったらいけないよ!」
そうと決まれば、リュックに入れていた本を数冊取り出し中身を空けると、そこにアーサーを詰め込んだ。
両手に本を抱えながらカエデとアーサーは帰路についた。
夜の冷たい空気を背負って、カエデは静かに家に戻った。その姿を見るなり、ダリルの目には驚きと心配の色が浮かんだ。カエデの服はボロボロで、身体には小さな傷が見え隠れしていた。
「カエデ、大丈夫か?」ダリルはすぐに駆け寄り、カエデの様子を確かめるために身を屈めた。
カエデは慌てて微笑みを作り、「あ、うん、大丈夫!森の中で転んじゃっただけだから」と答えた。それは、彼女が日常的に森で過ごしていることを知っているダリルに対する常套句だった。
「本当にそれだけか?」とダリルはさらに問いかけたが、カエデはすばやく言葉を継いだ。
「うん、森で転んだときに気を取られて、ちょっといろんなところにぶつかったみたい。
ほら、森の中って色々と引っかかるものも多いから…」彼女は笑いながら、いたずらっぽい表情を見せた。
ダリルは心配そうにしながらも、カエデの顔に影がないのを見て、少しほっとした様子だった。「いや引っかかったって程度の傷じゃないだろ!気をつけろよ。森は慣れていても危険がいっぱいだからな。」
「うん、ごめんね、心配かけちゃって。次からはもっと気をつけるから。」とカエデは約束した。
ダリルは医療箱を取り出し、手際よくカエデの傷の手当を始めた。「一旦処置したが、ちゃんとあとで医者に見せるからな。あと明日は家で待ってろ」
「いやなんでよ行きたい!」
「そんな傷で無理に行くこともないだろう。明日はただ一泊して帰るだけだぞ」
「絶対大人しくするから!」
「"絶対"だな。」
カエデはその言葉に何度もうなずきました。何とか明日は行けそうだ。安心の中でダリルの優しさに感謝した
「もう明日朝から出発するんだからさっさとしたく済ませて寝なよ」
カエデに早く寝るように促す。
「うん!」
カエデは階段を上がり自分の部屋へ向かう。
部屋の前に着くとカエデはダリルに
「絶対私の部屋空けちゃだめだからね!」
と念を押すとばたんとドアを閉じた。
―――――――――――――――――――
朝の柔らかな光が部屋に差し込む中、アーサーはゆっくりと目を覚ました。
オレンジ色の毛に反射する光が暖かい。
横で寝るカエデを見て、ぼんやりとした意識の中で彼は、ここがカエデの家だということを思い出した。
しかしその安堵も束の間、ギシギシと階段を上がってくる足音に、アーサーの体は一気に緊張感に包まれた。
カエデから「絶対に見つかってはいけない」と言われていたアーサーは、まだしっかり開いていない目を擦りながら、急いでリュックに隠れようとした。しかし、彼の鋭い爪がリュックに深く引っかかり、思うように開けることができない。「やばい、早くしないと…」と、心の中で焦りの声がこだました。
部屋のドアがノックされると、アーサーの胸はさらに高鳴った。「カエデ、起きているか?」というダリルの落ち着いた声がドア越しに響く。
「おーい入るぞー」一呼吸開いた後にドアノブが回り、ドアが開かれる音が重たく響いた。
ドアの開く音でカエデは目を覚ました。
「お、やっと起きたか。もうそろそろ出発するから早く準備しろよー」
「うん・・・」
カエデは少し寝ぼけながら返事をする。
数秒したのちに頭がさえてくる。
まずい、アーサーが、、、
「なんで勝手に開けるのさ!」
「いやいや開けるよって言ったぞ!」
そんなやり取りをしながらカエデは部屋を見回す。
彼女の視線がドアの裏、ダリルの死角にあるリュックに向けられ、アーサーが今まさにリュックに入るところだった。
無事に隠れたことを確認すると、小さく安心の息をつく。
「もーやめてよね」
「すまんすまん、ただもう馬車が出発しちゃうぞ!登録だけなら俺でもできるし一人で行こうか?」
「すぐいく!」
そんなこといいわけがない
カエデは急いで支度を終わらせる。
彼女は、ダリルと共に待っている馬車へと向かい、王国への新たな冒険へと出発した。アーサーはリュックの中で、これからの冒険を思い描き、密かに期待に胸を膨らませていた。
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