第12話 戦闘開始

月明かりが薄く森を照らしている夜、鈍い音が森に響く。

カエデは驚愕した。その魔物は植物のような見た目とは裏腹に鋼鉄のような硬さを持っていた。

先制攻撃は失敗。魔物はカエデに向き直り、威嚇するかのようにうなり声を上げた。


カエデは恐れることなく木製の剣を構えた。

彼女の背丈は年相応のものだが、心の中には勇者の物語に触発された果敢な意志が燃えていた。


魔物は、一瞬の間を置くことなく、蔓を激しく振り回し始めた。


その動きは予測不能で、カエデはうまく防御ができず、傷は浅いものの体のいたるところから出血する。

何度も攻撃にさらされ、その度に防戦に追われた。蔓はまるで生き物のように自在に動き、彼女を捕えようと狙ってくる。


しかし少しするとカエデは蔓の動きに目が慣れてきた。

素早い動きで蔓の攻撃をかわし始めた。

何度か蔓に攻撃を試みたが、体が硬く攻撃がなかなか通らない。


何か糸口はないか魔物を注意深く観察する。

すると魔物が大きな蔓を振りかざした瞬間、その奥にきらりと光る宝石のようなものがあることに気付いた。

カエデはそれが魔物の力の源、あるいは弱点であると直感する。

彼女は剣を握り直し、次の隙をついてその宝石に攻撃を加えようと決意した。


魔物はこちらの狙いに気付いたかのように、近づかせまいと攻撃は激しさを増した。

持久戦ではこちらが不利だと、多少の傷を承知で突っ込む。


蔓をかわしながら接近し、ついに魔物の目の前にたどり着いた。

カエデを振り払おうと魔物が蔓を出した瞬間、その奥に光る宝石に一撃を食らわせようとした。


宝石に向かって木剣が振り下ろされる。

剣を振りながらカエデが勝利を確信した瞬間、背後にあった木が突然動き出し、その枝をカエデに向かってたたきつけた。

強烈に地面に打ち付けられ意識が飛びそうになる。


何とか意識を保ちすぐ立ち上がろうとすると、足を蔓につかまれた。

世界は反転し、ぐるぐる振り回され放り投げられた。

木に背中をぶつけ激痛が走る。

足は蔓のとげが深く刺さり出血している。


追い詰められた魔物は、周囲の植物を操り始めたのだ。

休ませまいとカエデの足元草木が急成長し、彼女を絡め取ろうと動き出す。

捕まらないように素早く離れるが、迫りくる魔物の蔓への注意を怠ってしまった。

蔓に激しく打ち付けられ、吹き飛ばされた。激痛にうめき声をあげる。


アーサーが駆け寄りカエデを助けようとする。

「カエデ、一緒に…!」と声をかけられたが、彼女は顔を上げて勇敢に応える。「大丈夫、まだやれるから!」


立ち上がったカエデは、再び戦いの場に戻る。

いったん倒すことは後回しにし、とにかく避けることに全神経を集中した。

避けるだけであれば、ダリルとの訓練を考えるとさほど難しいことではなかった。


するとカエデは植物を操作する能力について気付いたことがあった。


魔物の周り数メートルの植物しか動かないこと。

植物は枝をふるったりすることはできるものの移動はできないこと。


ならばとカエデは迫りくる木々たちを身のこなしでかわし、縦横無尽に動きながら

攻撃のタイミングをうかがっていた。


しばらくたつと魔物は能力の行使のし過ぎたせいか、攻撃の手が緩んだ。

カエデはその瞬間を見逃さず、迫りくる木を足場にして魔物に接近しようと、

思い切り踏みつけた。その木は、酷使しすぎたせいか、踏みつけたと同時にバきりと音を立てて大きく折れる。


予想外の出来事にカエデは対応できず。

つんのめりながら魔物の目の前に着地する。


カエデは攻撃に備えて即座に防御の構えを取ろうとした。

が、魔物はカエデが瞬時に接近したことに驚いたのか攻撃の手を止めてしまっていた。

カエデはすぐに宝石へと狙いを定め、渾身の力を込めて木剣を叩きつけた。


宝石が砕け散ると同時に、植物魔物は力を失い、繰り広げていた蔓やからだは灰になったかのように粉々に消え、

魔物に操作されていた植物たちは、まるで何もなかったかのようにそこにたたずんでいた。

この景色を見てこれらの植物が動いていたなんて言われても、まともな人ならだれも信じないだろう。


カエデはついに初めての勝利を手にした。

その場でしばし息を整えながら、アーサーにピースサインをする。


「みた!?アーサーすごいでしょ!」


「かっこよかった!」


アーサーは目を輝かせてこくこくと頷く。



――――――――――――――――――――――


カエデが家に帰る時間になるまでの間、

二人は森の中でのんびりとしていた。


あっそうそう、とカエデは明日の朝から選抜戦の登録のために王国に行くことをアーサーに話し始めた。

ダリルから聞いていた王国の大きさやこの町から王国までは馬車で移動するということなど。

それを聞くとアーサーは元気よく言いました。


「ぼくもいく! 」

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