第10話 修行の成果

森の訓練場、カエデは木製の剣を握り、ダリルと対峙していた。

何週間もの厳しい訓練を経て、ダリルは彼女の成長を感じ取っていた

彼女本人もまたそれを自覚していた。


「さて、今日はいつもより厳しく行くぞ」とダリルは微笑んだ。カエデは頷き、心を引き締めた。


カエデの攻撃はこれまでの訓練でますます鋭くなった。

木剣同士の打ち合いは激しく、そのたびに力強い音が森に響いた。

ダリルはカエデの成長に喜びを感じたが、それと同時に少し恐怖さえ感じていた。


「もっと本気で来てよ、ダリル!」元気いっぱいの声でカエデが挑発する。ダリルの攻撃を受け止める準備はできていた。


ダリルは微笑みつつ、一瞬視線を落とした。次の瞬間、彼のコアの力がほのかに発動する。カエデの視線の先、地面に置かれていた小さな石がふわりと浮き上がった。その石は彼の思惑通りにカエデの足元をめがけて飛んでくる。


しかし、その瞬間を待っていたかのように、カエデは素早く回避した。彼女の動きはしなやかで、まるで森の動物のよう。間髪入れずにいくつもの固めた土片や石を飛ばすが、カエデの動きは止まることなく流れるように続いていた。


「さすがだな。じゃあこれはどうだ?」ダリルはさらにもう一度、石を複数浮かせる。小さな石たちは束になり、カエデの周りを取り囲む。


初めて見た光景だったがカエデはすぐに対策を考え、素早く滑るように駆け始める。その動きは、まるで舞踊のようで、浮かぶ石たちの間をすり抜けていく。


ダリルはその成長に感心し、笑顔で頷いた。


カエデは素早く的確に攻撃を避けながらこちらに近づいてくると、投射物の隙間を縫って思い切り両手で木剣を振るった。ダリルはそれに対して木剣を片手で振り受け止めた。衝撃で片手がビリビリとしびれる。今まででは考えられないことだ。


次の一振りが来る。

両手で受けるか片手で受けながら能力を使うか一瞬迷った。その隙をカエデは見逃さなかった。彼女は瞬時に地面を蹴り飛び上がり、ダリルの剣を持つ手を強く蹴り上げた。

剣が宙を舞った。


まずい

ダリルは手がほんの少し動かしその瞬間、カエデの体全体に強い重力がかかった。


かつて彼女が経験したことのないような重さが瞬時に押し寄せ、カエデは驚きの声を上げる間もなく、その場に膝をついた。

ダリルがカエデに直接能力を行使したのはこれが初めてだった。

彼女は全力で抗おうとしたが、無情にも体は動かず、ついには剣を握る手も力尽き、倒れてしまった。


ダリルはすぐに重力操作を解き、立ち上がるカエデに手を差し伸べた。


カエデは少し悔しそうに微笑みながら、

「またまけたー!でも強くなれてる!」

「そうだな、そろそろ負けるのはおれかもしれんな」


ダリルはカエデの肩を叩き、次なる訓練への意欲を引き出した。

カエデは強くなっている。それは確かだ。

物心ついたころから森で鍛えた運動能力、それに加えて基礎訓練、実戦訓練、夜には自主練をへとへとになるまでやっているらしい。

訓練量は、町の戦士たちとは比べ物にならないぐらいやっているだろう。


基礎戦闘能力で言ったら年の近い子であれば全く相手にならないぐらい強くなっている。

だがそれは基礎能力においてのみだ。

それに、選抜戦ともなるとカエデの一回り上の青年たちの参加が大多数だ。


「ここからどうするかねぇ」


正直なところそもそも1次選考突破もほぼ不可能だ。

そうなった時にどう慰めようか。能力さえあれば引き続き鍛えれば可能性はまだあるんだけどな。

そんなことを考えながら、笑顔で別れの言葉を告げ訓練所を後にする無能力者の少女をダリルは見送った。

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