第9話 アーサーとの修行

その夜、カエデは森の中に足を運び、親友であるアーサーの元に向かった。暗くなった森には月明かりが差し込み、静寂が広がっていた。

いつもの秘密の場所にたどり着くと、彼が小さな体を揺らしながらすでに待っていた。


「アーサー。今日はね――――――」カエデは今日の出来事を興奮気味に語り始めた。

彼女が語るダリルとの訓練の話に、アーサーの目は好奇心に輝いた。

「ぼくもやる!」

ならばとすぐに実戦を想定した訓練を始めた。




二人は木の上を縦横無尽に飛び回りながら並走する。


先に仕掛けたのはカエデだ。

アーサーが木から木に飛び移ろうと空中にいる瞬間にあわせてカエデは飛びつきながら木剣を振る。

体の小さいアーサーは、空中で身動きが取れないながらも体をひねって紙一重でよける。


カエデは空振りをしバランスを崩す。


アーサーはさらに体をひねりカエデの方に向きなおす。

木の幹に足がつくと同時に強く蹴りつけカエデに突進していく。


カエデは空中で避けることができずその顔にアーサーの頭突きがもろにあたる、

アーサーはカエデをさらに蹴りつけ近くの木に着地をし、カエデは暗く先が見えない木のふもとへと落ちていく。


さらに追撃しようとアーサーは木を飛び降りる。


カエデはうまく着地をしており、飛び降りて来たアーサーを木剣で迎える。

予想外の攻撃にアーサーは反応する間もなく当たり吹き飛ぶ


―――――――――――――――――――――――――――――


夜の訓練は30分ほどで終わり二人とも傷だらけでへとへとで地面に倒れこんでいた。


休んだのちに食事をとることにした。


「そういえばアーサーは普段何を食べているの?」

カエデは前から気になっていた疑問をぶつけた。


「町のお皿に乗っているのを食べてる」


「え!町に降りてるの!?」


「大丈夫!ばれてないから!」


最近町を歩いていると、飲食店で材料の値段がの影響からか、量が少ないともめているのを横目で見ていたが

もしかして原因この子では?と気づいてしまった。


「だめだよ人のものとっちゃ!」


「でもアーサーほかに食べるものない。。カエデは何食べてるの?」


「わたしはね―――――」

と慣れた手つきで木に登ると、木の実や果物をとってきた。

「こういうのをたべているよ!」


「それ食べれるの?」

アーサーはカエデと一緒にいないときにたまに町の様子を見ていた。

町の人たちは「食用の魔物」を調理したものを食べているところしか見たことがない。

たしかに、このような木に生えているものは、付け合わせとして皿に盛られているが

誰も手を付けないしいつも捨てられている。


「食べれるよ!それにね―――」

と続けて勇者の口調をマネしてカエデは続ける。

「さっきまで動いてたものだぜ?気持ち悪くないか?」


アーサーも知っているセリフに目をキラキラと輝かせる。


「じゃあ僕も食べない!」

とアーサーはむしゃむしゃと木の実を食べ始めた。


「そう?無理せずに普通のものが食べたかったら毎朝持っていくようにするよ?」

カエデの言葉も聞かずに夢中で食べていた。案外口に合ったようだった。


彼女が魔物を食べないのは勇者が食べないからという理由ももちろんあるが、

単純に小さいころからずっと食べれず、一回も呑み込めたことがないくらい嫌いということはかっこ悪いからアーサーには内緒だ。




次の日からの生活は、さらに厳しいものになった。朝はアーサーと一緒に森の奥で基礎訓練を行い、その後昼頃からはダリルと共に実戦訓練に励む。そして、夜が訪れると再びアーサーと実戦を想定した特訓を行った。


この生活が一ヶ月ほど続いた後、彼女の成長が鮮明に現れた。


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