第8話 いざ、実戦訓練

森の中の静かで広い空間は、カエデとダリルの訓練の舞台となるには最適だった。木漏れ日がほのかに差し込み、その光が二人の影を柔らかく映し出していた。カエデの手には、彼女の体格に合わせて作られた木製の剣がしっかりと握られ、決意に満ちた瞳がダリルを見据えている。


一方で、ダリルもまた木製の剣を手に持っていた。


「さあ、準備はいいか?」とダリルが声をかけると、カエデは深呼吸して頷いた。彼女は素早く構えを取り、一瞬のためらいもなくダリルに向かって走り出した。


カエデの攻撃は、軽やかでしかも鋭かった。彼女の木剣はダリルに向かって幾度も振り下ろされるが、ダリルはその度に体を柔軟に動かして攻撃をかわした。彼はまるで風のように軽やかで、彼女の剣の攻撃をかわすことが造作もないように見えた。


しかし、ここからが本番だった。ダリルは、自身の能力である重力操作を使い始めた。地面の小さな石や土の塊が、彼の意のままに浮き上がり、カエデの邪魔をするように動き出す。一度、カエデが足を踏み出した瞬間を見計らい、小石を巧妙に弾き飛ばすことで、彼女の歩みを止め、バランスを崩させた。


投射物をよける訓練は何度も行った。カエデも躱すことに自信がついてきたころだったが、いざ実戦をしてみるとその様相は大きく変わっていた。


カエデは一瞬立ち止まるが、すぐに持ち直し、再びダリルに向かっていく。

訓練でしてきたことを思い出すように、飛んでくるものをよく見ながら最小限の動きでかわしていく。

しかし、見なければいけないのは、飛んでくるものだけではない。

彼は向かってくるカエデの足元にある小さなくぼみを重力で操作し、地面をわずかに凹ませた。

カエデはその影響でふらつき、前につんのめるとそこを迎えるように、容赦なくダリルが剣を振りぬく。

腹部に痛みが走り後方に吹き飛ばされる。


再び体制を立て直し、カエデは攻撃を続ける。


ダリルはさらに次の手を打つ。カエデが大きく剣を振り下ろした瞬間、彼女が振り下ろす手の真下にある地面がソフトボール大にくり抜かれ跳ね上がった。

カエデの腕は大きく上にはじかれ、剣を手放してしまう。

まずいと思い距離を離そうと後ろに飛び去ろうと足に力を入れた時、背中に鉛のようなものがぶつかった感覚がし、地面に倒された。

先ほど跳ね上がった地面をうまく使われたようだ。


手足はかろうじて動くものの起き上がることができない。


ダリルは静かに動けない彼女に近づくと彼の木剣がするりと彼女の首に優しく「こつん」と当たった。


戦いは、その瞬間に終わった。背中に感じた重みは消え、やっとカエデは立ち上がれた。

ダリルは優しく微笑んで彼女の肩を叩いた。「今日はここまで、まあ最初はこんなもんだ、カエデ。」


ただ---とダリルの表情が厳しくなる。


「コアがないものがあるものと戦うということは、これ以上に難しいことなんだ。もうあきらめるか?」


彼女は首を横に振ると、一瞬彼は少しうれしそうな表情をしたように感じた。


彼女は少しの悔しさと、同時に学べたことの多さを実感しながら、深く息をついた。まだまだ道のりは長い。


でも一つだけダリルが言ったことに反論したいことがあった。

それを彼女は心の中で唱える。


私にコアがない?ううん、私のコアはあきらめない心だ。

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