第7話 修行開始

朝になった。今日からダリルとの訓練が始まる。カエデは早々に支度をすまし、家を出る。これから始まる「修行」に期待を胸を膨らませ、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

「よし、行くぞ」

とはいえ訓練は昼からだ。開始時間にはまだまだ余裕はある。

準備運動がてら、はやる気持ちを抑えるように森に向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


昼前頃にカエデは訓練所についた

ダリルは、訓練場に到着したカエデを迎えいれた。

ここは遠征隊や町の憲兵である戦士たちの訓練場。

まだ、訓練がまだ続いている。


訓練場の中から戦士達を怒鳴りつける声がきこえる。

カエデは自分が怒られているわけでもないのに自然と背筋が伸びる。


その声の主は、隊長のアリスだ。

彼女は長い白髪をなびかせながら戦士たちに厳しい視線を向けている。

筋肉隆々で凛とした立ち姿を見るだけで、彼女が数多くの修羅場をくぐってきていることがわかるようだった。

多分ここにいる戦士全員が一斉に彼女に襲い掛かっても傷一つつけることもできずに全滅するだろう。

戦士達の戦いを見たことすらないカエデでもそう思うぐらいの覇気を放っていた。


カエデが来ることはアリスにも話が通っており、居るだけで怒られることは絶対ないのだが、

鬼隊長の視界に入らないようびくつきながら訓練場の外で少し隠れて戦士たちの訓練の時間が終わるのを待った。




訓練の時間が終わり、隊長がいなくなるとピリピリと張りつめていた空気が少しほぐれる。


「すまんすまん、お待たせ」


急に声を掛けられびくついたが、聞きなれた声であることに気付きすぐに平静をとりもどした。

「なんでそんなとこに隠れてんだ?」ダリルはいたずらぽく笑って見せた。

「隊長はおばあちゃんって聞いてたんだけど」カエデは少し怒って見せた。

「あの隊長もう60歳超えてるぞ」

「えっ」あの隊長がもう60歳を超えているなんて、出生記録を見せたって誰も信じないだろう。

とはいえ絶対こうなることわかったうえで「おばあちゃん」っていってただろ!とカエデは不満に思ったが、

こいつにまともに取り合ったらだめだと、これから始まる訓練に集中することにした。


訓練場に入ると、ちょうど出ようとしていた若い戦士にダリルが声を掛けられる。


「あれ、おっさん今日はこのちびちゃんに訓練してもらうの?」

その若者はへらへらとした態度でダリルに話しかける。


「んなわけないだろ」

ダリルはあきれながら答える。


へーと嫌な感じを出しながら若者は訓練所を後にする。


「さ、邪魔者もいなくなったし訓練を始めるぞ」


訓練が始まった。

まず最初に取り組んだのは筋力トレーニング。

丸太を持ち上げたり、押したりすることで腕と脚を鍛え上げた。

これらの訓練は、筋力だけではなく、何より彼女の心を強くした。

そして忘れてはいけないのは、素早さを高めるための反射神経訓練だ。

ダリルはカエデの足幅ほどの円を地面に描き、その中に入るようにカエデに指示を出す。


「絶対にそこから出るなよ」


というとカエデに向かって小石を勢いよく何度も投げ始めた。

そんなような基礎能力を鍛える訓練を数週間の間、毎日毎日、カエデはダリルの指導のもとで行った。


毎日増えて行っていた体の傷も、ある日を境に全く増えなくなっていった。


「よし、そろそろ実戦をはじめてもいいか」とダリルが言うと。

「えっもしかして基礎訓練はおわり!?」とカエデは退屈な基礎訓練が終わることを喜んだが、

「いや基礎訓練は引き続き一人の時に行うこと」カエデは落胆した。

だがこれから始まる「実戦」を言うものに期待を膨らませていた。


やがて実戦訓練の日が訪れた。それは森の中の静かで広い空間で行われた。ダリルが口を開いた。


「実戦だが――――」カエデは、魔物との模擬戦を想像してワクワクしていた。


「俺と戦ってもらう」

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