第6話 最初の試練

背後から響いた声の主はダリルでした。カエデの心臓は一気に早鐘を打ち始めます。


ダリルは商人に向かって、「申し訳ないんだが、荷台の中身を確認させてくれないか?」と落ち着いた口調で頼みました。商人は嫌そうに


「こっちは急いでいるんだ、検問も問題なかったしもういいだろ」といった。


ダリルは「金貨二枚でどうだ」

というと商人はそういうことなら、とすぐに了承した。


商人がダリルが何か盗んだりしないか、監視している中


「さて、何が入っているのかな?」

とダリルは馬車の荷台に足を踏み入れました。カエデは緊張しながらアーサーをリュックに隠し、静かに息を潜めます。ダリルが丁寧に荷物を確認しながら少しずつ荷台の奥へと近づくにつれ、カエデの動揺は増していきました。


出入口はダリルが入ってきた方向しかない。袋小路だ。カエデは何かこの状況を打開する手段はないかと荷台の中を祈るように見回す。

荷台を覆う布に、彼女が抜け出せる小さな穴があることに気づきました。「これだ!」と、カエデは心の中で叫び、小さな穴から飛び出しました。

馬車馬の横を通り過ぎて、門を潜り抜けた。冒険の始まりだ!そう思ったその時、


「はい、そこまで。」


ダリルの静かな声とともに不意に足が鉛のように重くなり、彼女の動きは止まりました。


彼はカエデを優しく抱え上げ、門の中に戻っていく。夢にまで見ていた外の景色に手を伸ばすが、無情にも距離が開いていく。


ダリルは商人や門番、そして検問官に丁重に謝罪し、カエデを連れて家へと戻りました。


家に着くと、ダリルはカエデに向き合い、言いました。「外に出るのは危険なことは前にも何度も言ったろ、カエデ。しかも、最近ほんとかどうかは知らんが人間並に知能の高い個体も目撃されているって話もある。コアのないカエデが一人で出るには危なすぎる。」


「いや一人じゃ―――」


とカエデは言いかけて口をつぐんだ。


それでもカエデは目を輝かせたまま、


「私も勇者みたいに冒険したい、外に出たことだってダリルの付き添いで買い物に行ったぐらいしかじゃんか!」ダリルはしばらく黙ったまま考え込んでいましたが、やがて深いため息とともにこう言いました。「外に出る方法がなくはない」


カエデは期待に満ちた眼差しをダリルに向けました。「どうすればいいの?」


「教えてもいいが、これができるまでは一生一人で外には出ないし魔物とも戦わない、勇者にも誓えるか?」


「誓える!」


勇者に誓う約束なんて破れるわけがない。


なら、、とダリルはおもむろに立ち上がると、部屋にかけてある外套を持ってくると


「このバッチがどういうものか知ってるか」外套の胸元にきらりと光るバッチを指して言った。


そのバッチはほとんどの戦士が身に着けているということはカエデも知っていたが、

それが何を意味しているものなのかは知らなかった。


カエデが首を振るとダリルが話をつづけた。


「このバッチは要は外出許可証だな。これで一部の禁止区域を除いて外に出たりすることが許可される。まあ、禁止区域はあるが冒険をする分には困らないだろう。」


「それはどうやって手に入れるの?」


「いろいろ方法はあるが、一番今手ごろなのは王国で行われる選抜戦で優秀者になることだな。だが、今のカエデには相当きついぞ?コアなしで選ばれたものなんて何十年以上前に一人いた以来いないからな。」


コアなしでもチャンスがあるのか!カエデはがぜんやる気が出ました。勇者だって能力はなかったのです。この程度の試練クリアできないことには勇者になるなんて夢のまた夢です。


「やってみるか?」ダリルが問うと、

「もちろん」とカエデは大きくうなずいて答えた。


カエデは最初の試練に向けて強くなることを心の中で勇者に誓った。

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