第5話 町からの脱出

カエデとアーサーは、町をどうやって抜け出すかという作戦を練るため、森の奥の秘密基地で生き生きと話し合いました。その場所は、彼らにとって安心して自由に意見を交わすことができる特別な空間でした。森や町は、魔物からの襲撃を防ぐために高い壁で囲まれており、町を出るにはいくつかの主要な門を通らなければなりません。


「門のところを見に行こうよ」とカエデが提案し、二人はその大きな門を観察しました。門は馬車が二台並んでも余裕で通れるほど広く、高さも大人の背丈を大きく超えるもので、開閉は大人二人がかりで滑車を使って行うため、カエデたち子どもだけでは開けることのできないものでした。


「どうしようか…」とカエデが呟いた時、ちょうど町に商人の馬車が出入りする様子が目に入りました。「これだ!」と、カエデは嬉しそうに言います。「馬車に紛れ込むのはどう? 勇者の物語でも、馬車に紛れて敵陣に潜入するシーンがあったよ!」


アーサーもそのアイデアに賛成し、二人は商人の馬車が定期的に通る時間帯や、どこで荷台の検問を受け、どのタイミングで潜り込めばいいのかを幾度となく確認しました。アーサーはカエデのリュックにうまく収まることができるため、その作戦にも無理がありませんでした。


その後、ついに計画を実行する日が訪れました。ダリルには黙って出て行くので準備をしていたお別れの手紙を、脱出した後のお昼ごろに気付くように隠しました。朝から興奮と少しの不安でいっぱいになったカエデは、家でダリルの「今日は森に行くのか?」との問いかけに明るく答えました。「うん、また本を読むだけだよ!」と言い、アーサーをリュックに隠して出発します。ダリルにはアーサーの存在をまだ秘密にしています。


予定通り商人の馬車が門に向かう時間がやってきて、

計画通り、馬車は門の手前で一旦止まり、検問を受けました。検問官が振り返ったすきをついて、カエデは脇道から素早く近づき、荷台に忍び込みました。アーサーも物音を立てないように静かに身を潜めています。門が大きな音を立てて開き、馬車がゆっくりと動き出しました。冒険の始まりへの期待で心が弾んでいました。しかし、馬車がまさに門を通過しようとしたその時、後ろから声が響きました。


「おい、ちょっと待ってくれ!」


その声は彼女の知っているもので、カエデの心臓は一気に早鐘を打ち始めました。

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