第五話 生徒達……


「それより残りの生徒達は!?」

俺の声が教室に響く。

グリシャンレインという存在の衝撃によって大事な事を忘れていた。生徒達の生死だ。

俺は思い立ってそう二人に聞いていた。

黒影先生が答えた。

「その心配は無用です。先程廊下の見回りをしていたら残りの生徒達はホールに隠れていたみたいです」

「そうなんですね。良かった……それよりホールって何ですか?」

俺は気になって聞いてみた。

その質問にはユキちゃんが驚いた様に答える。

「忘れたの!?教室から廊下に出て右のちょっと先にある広場だよ。先生すみませんペスカ最近ボケてて……」

「いえ……問題ありません。やはり今日のペスカさんちょっとおかしいですね。レインのテストもまさかの放棄しましたし」

「えぇ!!そうなんですか?」

ユキちゃんが驚いた顔でそう言って俺を見る。俺はそれに反応する。

「うん……ちょっと自信無くしちゃって」

「そうなんだ……」

ユキちゃんはガッカリしながらそう呟く。

すると黒影先生が答える。

「しかし、今のペスカさんなら出来るかもしれません。初級雫魔法のレインよりグリシャンレインの方がよほど難しい魔法だと思いますよ。もう一度テストやりませんか?」

まさかの黒影先生の提案に俺は少し驚く。

不安だけど確かにもしかしたら出来るかもしれない。

そして数秒後快諾する事に決める。

「はい!お願いします。正直悔しかったんです」

俺は素直に自分の胸の思いを語る。

「それじゃあ、私は教室の修復をしますのでホールに避難した生徒達を呼び戻してくれませんか?ユキさん、ペスカさん」

「はい!承知しました先生。ペスカ行くよ」

そのユキちゃんの掛け声に返事をする。

「うん」

その後、ユキちゃんと俺は教室から出て、廊下に出ると右の方に一緒に歩く。

そして、どうやらホールに着いたみたいだ。

そのホールは縦と横、三十メートルくらいの空間で大きな窓が付いていて外が見える様な造形だ。

開放感がある。

熱帯魚の様な小魚が泳ぐ水槽が壁際に設置されている憩いの空間だった。

中央には白黒のソファと机があり、そのソファに生徒達は座っていた。立っている人も数人いる。

合計で三十人ほどだ。


「みんなー!魔物は消えたよ。今黒影先生が教室を修復してくれてる。教室に戻ろうか」

ユキちゃんの呼び掛けにクラスメイトは理解を示す。

「そっか良かった」

「テスト再開かな?」

などの話し声と共に教室に向かい歩き出した。

その群れの中から赤髪のマッシュヘアーの男の子がこちらに歩いてくるのが見える。

そうアイツだ。

「お前ら無事で良かったぜ!まさかの事態になったなこりゃ。俺まだテスト呼ばれてねぇし」

「スキップ君、生徒をホールに集めてくれてありがとう。それと、残った私はあの魔物と戦ったけど死にかけて……ペスカがグリシャンレインって聞いたこともない魔法で助けてくれたんだ」

スキップ君?

それを聞いて俺は考察を始める。

十中八九この赤髪の男の子の名前だろう……

そんな事を考えていたらスキップが俺に話しかけてくる。

「ペスカお前すげぇな。どうやるんだよ俺にも教えてくれ」

「え……いやえっと……」

俺は困惑して言葉に詰まる。教えるって言ってもアレは恐らく特殊過ぎる例だろうしなぁ……

そもそも初級魔法すらできない俺に魔法を教えるなんて豚が空を飛ぶくらい難しい話だ。

「ちょっとペスカ困ってるし!もう行くよテスト再開すると思うし!」

ユキちゃんは困惑する俺に気遣ってくれたのかそう言った。やはり天使なのか……?マイエンジェル?


その後、俺達はユキちゃんと赤髪の男、ステッキと共に教室に移動する。

俺はさっき黒影先生と約束した通り、もう一度"レイン"の魔法のテストをする事になると予想して教科書二一ページを予習していた。すると扉が開き黒影先生が入ってきて教壇に立つ。


「では、皆さん席に着いたみたいですね。先程の襲撃はダクトスというテロ組織の仕業なんです」

黒影先生の言葉に教室内はざわめく。

ってかテロ組織なんて言ってたっけ?俺が聞いた時は謎組織って聞いたが……

どうやらテロ組織だと判明したのか?

「ダクトス……?」

「テロ組織だってヤバ〜」

などの教室の声が無数に騒めいていた。

そのまま黒影先生は続ける。

「そして、ダクトスから送られてきた魔物は全て倒せましたし、テストを再開したいと思います。No.85 ペスカさんもう一度やり直すので校庭まで来て下さい。」

「はい」


俺は速やかに返事をして教室の自動ドアの前に行く。

相変わらず静かに開く扉。

俺はまた青く透き通る階段を降りる。

数時間前の緊張感は流石になく、今の俺は落ち着いていた。

靴箱に着き、靴を運動用に履き替える。

黒影先生は前と同じく校庭で待っていた。

「先程の事件は一旦忘れて……始めましょう」

「その……先生、あのまたダクトスが来たらどうするんですか?」

俺は気になって黒影先生に聞いた。だってまたあの組織が襲ってきたらどうする。

その可能性が0というわけではないはず。

黒影先生は微笑みながら話す。

「いえその心配は要りませんね。ダクトスの極秘情報記によると魔物の強化には二四時間は掛かると記載がありましたし、襲ってくる事はないでしょう」

「そうなんですね良かった……というか極秘情報記?それは何ですか?」

「それは……ペスカさんには特別に教えます。本当はあまり知られては困るんですけど」

そう言ってメガネの位置を整え黒影先生は話を続ける。

「実は私はこのオケアノス王国の秘密組織と繋がっているんです……その組織の名は"アストラ"

極秘情報を沢山所有しているのでちょっとばかしダクトスのような連中に詳しいんですよ」

「!!」

俺は驚愕の顔になる。あの清潔な雰囲気の黒影先生が秘密組織なんて物に繋がっているのに驚いたからだ。そしてさらにアストラってこの俺の名前"ペスカトーレ・フォン・アストラ"の名前にもあるような……

そんな事を考えていたら黒影先生はハッと我に返ったように俺に言う。

「それよりテストを始めてもいいですか?早くしないと学校のお昼休みになってしまいますし」

「あ、すみません。変な事聞いちゃって……」

「いえいえ……」

俺はその言葉の後、青い円形のマークに立つ。

ここでレインを撃てばいいんだよな。


念じろ……魔法陣を足元に。

俺はそう念じる。すると浮上するかのような軽さを足元で感じた。

足元をふと見ると魔法陣が浮かび上がっている。

魔法陣は青白く光る無数の線で構成された円形で、輝いている。

よし……順調。順調。

さて、次は手にマナを集めるんだったな。

俺は両手を胸の前に添えてみる。

すると、白く光り輝く閃光の小さい珠が両手に集まるのを感じる。これがマナだな。

そして、教科書で復習したレインの呪文を唱える。

「天界の者よ我に自然の恵みをもたらさん……」

そして俺はそこで一旦気を溜め、言い放つ!

「レイン!」


沈黙が数秒続く。

あれ……?

「……」

俺は黙り込んでいた。

黒影先生の方を向くと何やら考え込んだ様子でこちらを見ていた。

そして俺の方に寄ってくる。

何だろう…………もう恥ずかしいし失格だろうな。

「ペスカさん……今のマナは一体……」

「へ?」

俺は思わずそう間の抜けた声を上げる。

「マナは通常、黄緑色のはずなんですが……今のペスカさんのマナは白色……こんなマナ見た事もない」

「そ、そうなんですか?俺……私はマナに意識なんてしてませんし……不合格だろうし……終わりだ」

「いえ、不合格にはしません。次のことが出来るならば……ですが。もう一度、今度はグリシャンレインの口上でさっきの事をやってみて下さい」

黒影先生は何やら察している様にそう言った。

俺はその言葉を半信半疑でもう一度魔法を使う形になる。

「えーと……」

青い円形のマークに立ち、俺は考え込む。

グリシャンレインの口上は……

あーそうそう思い出した。

俺は魔法陣を足元に再び呼び寄せ、マナを両手に集める。

そして呪文を唱え始める。

「龍より生まれし星の力よ……今こそ魔の者を焼き払いその意味を示せ……」

両手を胸の前に掲げ、最後の一言を言い放つ。

「グリシャンレイン!!!」

すると両手から前にも見た赤と黄色のオーラを放つ禍々しい波動が前方の何もない校庭の空間に解き放たれていく。

俺は驚く。本当に出来た……でもちょっと疲れる。

ふと黒影先生を見ると拍手をしている。

「これほどまでの魔法……レインよりも難しいでしょうし、強力な攻撃魔法となるでしょう。無論、合格です」

「ほ、ホントですか!?でも初級雫魔法"レイン"の授業だしレインを撃てなきゃ本当の意味で合格にならないんじゃ……」

俺は気に掛かった事を聞く。

黒影先生は答える。

「いえ、このテストは雨系魔法と呼ばれる水の効果を持ちつつ攻撃も出来る魔法のテストなんです。グリシャンレインはその点、初級雫魔法レインすらをも超えているので……合格でいいでしょう」

何やら分からないが合格の様だ……

「本当ですか?ありがとうございました!」

「はい、合格になります。では、次のNo.86の人を呼んできて下さい」

その後俺は教室に戻るべく靴箱まで行き、靴を履き替える。

黒影先生は何やら考え込んでいた様な気がしたが、気のせいかな……?


〜第六話に続く〜

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転生したら〇〇だった件というテンプレが嫌いな俺が異世界転生して魔法少女になった件 中村サンタロー @nakamuraeeeee

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