第四話 勇者の力


教室の透明な扉の前まで行くとその扉は自動で静かに開く。開くというのは少し違うかもしれない。

中央から扉の枠の両幅に吸収される様にそのガラス製の面が瞬時に消えたの方が的確だった。

俺はその近未来的な扉に思わず感心しながらも校庭まで歩く。

青く透き通る階段を降りる途中、俺は自分が緊張していることに気づいた。

「おかしいな……別に俺とは関係ないはずなのに」

思わずそう独り言を呟く。

そして最後の段を降り終え、靴箱で靴を外用に入れ替える。一応運動用の靴があるみたいだ。しかし、デザインは学校のそれではなく黒いブーツの様なデザインになっている。


外を見ると遠くの校庭に黒影先生が待っているのが見える。

俺は急いで黒影先生の元へ駆けつけた。

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。焦らずゆっくりでもOKです」

黒影先生はその焦った俺をなだめてくれる。

俺はそれに少し照れながら返事をする。

何で俺照れてんだよホモか?

「あ、すみません……ありがとうございます」

「えぇ……焦っていては確実な記録は取れませんからね。それじゃあそこにある円形のマーク内でお願いします」

俺は黒影先生の視線の先にある青く光る円形のマークを見る。

やべぇ……何もわかんねぇ。

確か教科書には魔法陣を足元に作るとか……呪文名なんだっけ?天界の何たら……だったような。

俺は少し頑張って考えたが遂に諦めることに決める。今思えばそうだった。俺は何もかもすぐ諦めて俺にはどうせ出来ないって決めつける奴だったろ。

そうだよな俺が何者かに転生したところで人生の結果は同じなんだ。

「すみません。分かりません。不合格でいいです……」

「!!」

黒影先生は驚いた顔をする。

「そうですか……では不合格に」

黒影先生の話途中。

その時だった。地面が揺れ始め、その数秒後爆発音が校庭内に響く。 

「これは一体……」

黒影先生が驚愕の顔をして学校側を見つめる。

それに釣られて俺も後ろを振り返る。

そこには前にも見た似たような光景があった。その前というのはユキちゃんの豪邸の時のことを指している。

黒い炎。黒炎が教室の窓から吹き出しているのだ。

そして生徒の悲鳴も聞こえる。

あそこは……

「2-A教室……生徒達が危ない。ペスカさんテストは一旦中止です。私は2-A教室に戻ります。ペスカさんは待機して下さい」

「そ、そんな……私も行きます!」

「ダメですよ!レインも使用できない状態の貴方が行って何になるんです!」

それは思いっきり正論だった。言われてみればそうである。でも……俺はここで立ち尽くしてる訳にも行かない事くらいバカじゃないからわかる。

このまま一人突っ立って、2-A教室を放っておいたら、あのユキちゃんと赤髪二人に後からどう顔向けできるってんだ。

「分かってますよ!でも……それでも行かなきゃ!」

俺は気付けばそう思いっきり反論していた。

その直後俺の胸辺りが光る。

またこれか……!あのユキちゃんの豪邸に居たガードマン達の前でも起きたあの光が黒影先生を包み込む。

すると光を帯びた黒影先生は落ち着いた感じで言った。

「分かりました。何故か貴方を行かせなきゃいけない気がしてきました」

絶対説得なんて出来ないと思ったけど案外簡単に言ったな……

この光の仕業か?

これは一体なんなんだろうか……

そして、黒影先生は俺を見たあと、目を瞑り何やら呪文を唱え始める。

うごめく影よ……瞬身の如く闇の道筋を照らせ!アークホール!」

その呪文の後、黒影先生と俺の真ん中丁度に黒く禍々しい闇の穴が空いていた。

長さは一メートルぐらい。

「この穴は2-A教室に繋がっているんです。こんな非常事態もあろうかと用意しておいて正解でした。行きましょうペスカさん!」

「はい!」

俺は意気込んで返事をした後、黒影先生の落ちた穴へ勇気を持って落ちる。

中は生暖かく、少し安心する雰囲気を纏っていた。

そんな事を思っていたらどうやら出口に着いたのか移動が止まる。上を見ると穴が空いていてそこから外の光が注いでいる。ここから出ろってことか。

そう思っていたら身体はフワッと浮上する。


「ここは……」

それは俺が教室に着いた事を悟った次に放った言葉だった。

思わずそう言わずにはいられなかった。

その教室の光景は先程の平和な待ち時間ではなく魔物達に荒らされる場所と化していた。

生徒達の魔法と骸骨姿の魔物達の戦いが繰り広げられ、教室内は黒炎と凸凹になった床があるだけだ。

ふと黒影先生も戦っていることに気づく。

魔物達を一網打尽に倒している。倒される骸骨達は粉々になって消えていく。

クソ……俺も加勢したいのに!!

その時だった。

魔物に襲われているユキちゃんの姿に気づいた。

骸骨の魔物は持っている長剣をユキちゃんに突き立てているところだった。

黒影先生は気付いてない!危ない!


「黒影先生!ユキちゃんが!」

「くっ……!間に合いません!!」

俺の伝えは無意味と化し、遂に骸骨は長剣を振りかざそうと構えを取っている。もうあと二秒後にはユキちゃんに刺さる……

「やめろォォォォ!!」

俺は咄嗟に叫ぶ。あの光……助けて。

俺は切実に心でそう願っていた。

すると俺の胸は光を放ち始める。その瞬間、大きな波動の光が教室全体を覆う。

俺はその眩しさに思わず目を瞑る。

そして数秒後、光が消えた事を悟り目を開け、ユキちゃんがいた方角を向く。ユキちゃんを襲う骸骨は痛そうに目を覆っている。

今しかない倒すなら今だ!!

そう思って黒影先生にそれを伝えようとしたがそんな暇はなさそうだ。

クソッ俺が魔法を使えれば……!!

思い出せ、魔法陣を足元に……

俺は気付けば復習したあの教科書の内容を振り返っていた。

すると魔法陣が本当に足元にあることに気付く。そして悟る。

「行ける……!マナを手に集中!」

俺は身体が勝手に動くようなしかし自分の意思でも動いているようなそんな不思議な感覚になっていた。

「龍より生まれし星の力よ……今こそ魔の者を焼き払いその意味を示せ……」

俺はそう呪文を唱え始め、最後に手を骸骨達に向け言い放つ。

「グリシャンレイン!!」

その瞬間、手から強烈な波動が出ているのを感じる。


その波動は赤と黄色の禍々しいオーラを纏い教室中の骸骨に向かって放たれた。

まるで降り注ぐ雨のように。


骸骨は骨が擦れるような悲鳴を上げて五体程の数倒れ込む。

俺の魔法で教室にいた骸骨は全て消えたようだ。

っていうか本当に俺が魔法を使った……?

まるで嘘みたいだ。


「今のは……」

黒影先生は魔法を放つ手を止め、俺の方を見ていた。

「先生……!ユキちゃん!大丈夫ですか!」

俺は咄嗟に二人に呼びかける。

「えぇ……」

と黒影先生の返事とその次にユキちゃんの声が教室に響く。

「うん!ペスカの魔法で魔物は消えたみたい……今の凄かったねペスカあんな魔法使えたんだ……」

その声の後黒影先生が話し出す。

「まだ魔物が隠れているかもしれません……廊下の方も見てきます」

そう言って黒影先生は教室を出て行った。

教室には生徒は少数しかいない状態だった。一緒にレインの復習をした赤髪の男の子は居なそうだ。

俺は話し出す。

「今のは、お……私でもよく分からない。いきなり……できるようになってて」

自分でも状況に混乱して上手く言葉が出ない。 

ユキちゃんがその俺に言葉を返す。

「そうなんだ……不思議だね。あとで黒影先生に聞いてみようか」

そのユキちゃんの言葉のあと、黒影先生が帰ってきた。

「どうやら魔物は消えたようです」

「本当ですか!良かった…………それより先生!ペスカのさっきの魔法見てましたよね?」

ユキちゃんが黒影先生に質問してくれた。

「えぇ……グリシャンレインと言ってましたが……正直私でも見た事ない魔法です。レインと名のつく魔法ですし水の効果があるのか黒炎は消えた様ですが……ペスカさんあれは一体……?」

黒影先生は俺を見てそう質問する。

「それが自分でもよく分からなくて……ユキちゃんを助けたいと強く願ったら胸の辺りが光ってそしたら身体が半分勝手に動いて気付けばああなっていました」

俺は素直にそれを伝える。

「それは不思議ですねぇ……もし新魔法とでも言うのなら王立図書に登録しなくてはいけません。そういう法律があるので……知ってると思いますが一応」

「そうなんですか!?」

「えぇ……それでもここ五年は新魔法なんてこの国では出ていないのでこれは凄い事態ですよ」

なんかとんでもない事を起こしたかもしれんな俺……


〜第五話に続く〜

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