第二話 やっぱりテンプレは好きじゃない


ガードマンは目をやられたのか分からんが目を抑えている。

今なら門を開けられるか。

「ラァァァ!!」

俺はその門を開けようと声を荒げる。

普通に女の子の声が俺の声帯から出ていることは違和感だったが。

門は思ったより普通に開いた。鍵がかかってないのか?

「な、なんだよ……もう」

そう落胆しながら俺は広い庭を走る。その先の大きい豪華な扉を目掛けて。

その時だった。

庭が揺れる様な爆発音が響く。窓が割れる様な音も同時にする。


「な、なんだよ!」

俺は震える声を上げながらそう叫んだ。

その後に女の子特有のキンキンする叫び声が聞こえて俺は驚く。

「キャアアアアアアア!!」

その声の方向を見ると火事が起きている。

いや……火事にしては炎が異質で黒い炎だった。

「な、なんだありゃ空間が捻じ曲がってる……」

俺はその光景を見て呟く。

そしてその黒い炎から顔を出す女の子が見えた。白いボブヘアーの女の子だ。俺と同じ学生服を着ていた。

「ペスカ!た、助けて!」

「今行く!」

俺は悟る。この子が例のユキって子だと。

豪邸の中央にある大きくて豪華な扉を俺は開ける。

中には広い豪華な装飾がされた空間が見えた。

そしてさっきユキって子の叫び声があった窓の方向の階段を登る。

明らかに何者かに壊された空間がそこにはあった。


そして俺はそのユキちゃん(そう呼ぶ事に決めた)がいるであろう部屋のドアを開ける。開けるというかボロボロすぎて最早押すの方が近かったが。


「助けて……」

そこにあったのは衝撃の光景。

ユキちゃんは制服が虫穴のようにボロボロに破けていて肌は露出している。

そしてユキちゃんの後ろにいたのは魔物だった。

その姿はスライム状で紫色の生命体だった。

「す、スライム!?」

俺は思わずそう反応する。

「さっきからこの魔物が私の服を……いやそれだけじゃない黒炎こくえんを放ってきてもう火事になりそうなの……!」

「ど、どうすりゃいい?消火器とかねーのか!」

俺は焦って質問する。よく考えれば異世界に消火器なんて無いが。

「消火器?よく分からないけど!しずく魔法をお願い〜!」

「し、雫魔法?それってどうやれば……」

なんだよ……消火器もないし俺に魔法なんて使えねぇ……

「忘れたの!?昨日学校で復習したじゃん!もう私のマナはないの!」

そのセリフの後だった。煙混じりの窓からスライムが十体ほど入ってきているのに気付いたのは。

「復習も何もそんなの知らないし、スライムが後ろからめっちゃ来てるし。もう終わりだ……」

その時だった。

何か男の声が天井から聞こえた。

その声は呪文を詠唱し始める。

「冥界の影より……現世に甦る漆黒の雫……降り注げ!シャドウレイン!!」

その次の瞬間だった。

床が振動し始める。

その次にユキちゃんの一言。

「この声は……黒影先生!」

言葉の後、天井から黒い雨の様な波動が降り注いだ。俺はもう何が何だか分からず叫ぶ。

「うああああああああああ!!」


「……きて」

ん?

「……起きて」

何か声が聞こえ……

「ペスカ!起きて!!」

俺はその必死な声に目を開ける。

そこには心配そうな顔をしたユキちゃんの顔があった。白銀に艶を放つ髪が少し乱れていた。

「お、おう。ユキちゃん。無事か?俺って気絶してたのか」

「無事だよ……!よかった……っていうか俺?」

ユキちゃんは安心した様な顔で俺を見ている。

っていうか俺って言ってしまった。

すかさず訂正する。

「いや"私"だよね。ハハハ何言ってんだろ」

「へ、変なの……」

そんな会話の後、ユキちゃんの後ろにいる一人の男に気づく。

黒縁メガネで黒いボブヘアー。

赤黒い手袋を片手にしていて、黒い制服を着ている。

側から見ると執事の様に見えた。

その男は赤黒い手袋が緩んだのか紐を調整しながら話し出す。

「ペスカさんもユキさんの元にきてくれたのですね。その必要はなかったのですが……」

「……」

状況が飲み込めず俺は黙り込む。それはユキちゃんも同じ様な感じらしく黙り込んでいた。

「私の"シャドウレイン"で火とスライムを同時に消滅させました……しかし威力が強すぎて……」


俺は周りを見渡すとそこら中に散らばる破片、汚く落ちている絵画があった。

そして今ボロボロになった家の中央の空間にいる事に気づいた。

「こ、この有様……一体」

俺はそれを驚くように見る。

その俺に説明する様にその男は答える。

「そうですね……私の魔法シャドウレインのせいです。急いでいたので、スライムと燃える炎だけを消すつもりがユキさんの部屋ごと破壊してしまいました……申し訳ありません」

部屋ごとって……すごいな。

俺はそう感心する。

そしてその言葉にユキちゃんが反応する。

「そう言う事だったんですね。それより助けてくれてありがとうございます」

「本当に申し訳ないです。あとで修復の魔法を使いますので部屋は元通りにはなるとは言え……このやり方はなかった」

「全然大丈夫です!それより今のスライムの襲撃は一体……」

ユキちゃんとその男の会話は続く。俺はそれを傍目に聞く。ってか俺のきた意味って一体……

「実は……今起きた事故は最近噂の謎組織"ダクトス"の仕業なんです。あんなに強いスライムはあり得ませんからね。にしても……まさかもう被害が現れるとは……」

「ダクトス……?初耳ですね……」

ユキがそう反応する。

「ええ……まだ最近現れた組織ですから分からなくても無理はないでしょう。それよりペスカさんとユキさんはいつも通り登校して下さい。残りのことは私が後始末しておきます」

そう言ってメガネをクイっとする。

登校って学校でもあるのかこの世界……

そう思った俺の後にその男は忘れていた事に気づいた様に話す。


「あ、それとユキさんの服が色々と大変な事になっているので……修復します」

ユキちゃんは男の方を振り返る。

「あ、本当だ……お願いします先生」

「えぇ……」

その後よく分からない詠唱を始める。

「大地の加護より、生命の祝福を歓迎せよ……"ホーリーキュアー"!」

その詠唱のあと、ユキちゃんの周りに黄緑色の無数の小さな光の珠が集まる。

すると、みるみるうちにユキちゃんの破けた服、身体の傷が癒やされる。

その後、ユキちゃんは礼を言った。

「あ、ありがとうございます!」

「さっきのままだと大変ですからね……」

そう言って男はハハっと軽く笑う。

俺は大歓迎だったけどな。

そう俺はニヤニヤと笑みを浮かべた。

その次にユキちゃんはまさかのまさかで俺の手を繋いでくる。


「それじゃ行こっか、ペスカ。学校」

俺はその突然の行動に驚く。

「べ、別に手は繋がなくてもいいだ……違う……いいよね?」

「どうしたの?いつもやってるじゃない」

俺の転生先どんな女だよ……

俺はそう思いながら答える。

「今日はそういう気分じゃないんだ」

「そっか。それより黒影先生ってほんと凄いよね〜。流石」

「黒影先生?」

俺はその聞きなれない名前に反応する。いや……そう言えばさっきユキちゃんがスライムに襲われてた時に言ってた様な……

俺はさっきの一部始終を思い出した。

その次にユキちゃんは驚いた顔をしながら俺に言った。

「わ、忘れたの!?私達の担任でしょ!」

「そ、そうだったね!ハハハ」

俺は頑張ってユキちゃんの話に合わせることにした。

黒影って言うのかさっきの先生。

「もう……それよりさっきのスライム怖かった〜。黒影先生が居たとはいえ、ペスカ来てくれてありがとう」

ユキちゃんはそう言って笑みを浮かべた。

そのユキちゃんに俺はちょっとウルっときた。良かった……やっぱり良い事はするもんだな。

そして俺は返答する。

「と、友達だし当たり前だろ?じゃなかった当たり前でしょ!」

本当は初対面なんだけどね……

「うん。そう言えばそうだね」


そんな会話をしながら俺はこの慣れない世界の慣れない学校に行く事になるのであった……

というかこの世界の学校、いわゆる魔法学校なんだろうけどこええ……


〜第三話に続く〜

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