第2話

 翌日になり僕はお爺さんとお婆さんと一緒に車に乗ってどこへやらと連れていかれた。しばらく町の景色を車窓から見ていると、季節はすっかり春だなぁという印象を僕は受けた。街路樹も色が付きはじめ、陽気も暖かくなっている。しばらく車に揺られながら町の中を進むと、白い建物の駐車場に車は入っていった。建物の看板には「メンタルクリニック」と書かれていた。僕はメンタルクリニック? なんだそれは? と思いながら駐車場に停められた車から降りて建物の中に入っていく。建物の中は待合室と受付があり、受付には若い女性が二人座っていた。お婆さんが受付で済ませると、僕たち三人は待合室のソファーに座ることになった。目の前には本棚があり、絵本が並んでいる。その中に「憂鬱」という本があった。僕はその本を本棚から取り出すと、ペラペラと中身を読んでいく。

 しばらくすると受付の女性が「桃吉さん」と名前を呼んだ。僕は三人で待合室の廊下を通って部屋の中に入っていく。すると年のころは四十代ぐらいであろう白衣の医者が机を隔てて座っていた。

「キジ沢です。どうされました?」

 白衣の医者が僕たちに聞く。

「実は……」

 お婆さんが僕の守護霊について話し始めた。すると医者は興味深そうに聞いている。守護霊様は「おいおい、ここは病院みたいだぞ」ときょろきょろしている。

「桃吉くん、守護霊はいつからいるんだい?」

 医者が僕に聞いてくる。

「昔からです。たぶん生まれたころから」

「なるほど。昔からなんだね」

 医者は机の上のパソコンに何かを打ちこむと続けた。

「守護霊はどんなことを言ってるの?」

「いやー、どんなことって……。お腹減ったとかそんなようなことです。あまり大した話はしません」

「なんだと」

 守護霊様がかちんと来たみたいで僕の目の前に仁王立ちになった。

「ちょっと、邪魔です」

「邪魔? 邪魔と言うと?」

「いえ、今守護霊様が目の前にいて、それが邪魔なんです」

「なるほど。守護霊が見えているんだね?」

「はい」

「どんな風に見えるの?」

「足元がぼやけてて、体は半透明。色は灰色」

「守護霊に何か命令されたりとかはある?」

「昨日、鬼退治に行くなって言われました」

「鬼退治って?」

「鬼退治は鬼退治ですよ。先生」

「なるほど」

 それからしばらくしてお爺さんとお婆さんが色々質問して医者が答えていた。僕はやれやれ、面倒なことになったとうんざり気味であった。守護霊様は部屋の中をうろうろしながら、ぶつぶつと独り言を言っている。

 ほどなくして僕らは解放になった。また来週、ここに来るように言われたが、正直僕はもう来たくなかった。

 帰りの車中ではお爺さんとお婆さんが色々話し合っていた。僕は窓の外の景色を眺めている。春の陽気が頭を麻痺させるような、そんな錯覚に陥っていた。

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