第3章:第2節|傀儡(かいらい)
瞬時に判別する。人数は1対7。
剣を抜きかけたが、直前に思いとどまる。団員の顔を見ると、困惑の方が強かった。互いに止まった姿勢のまま、相手の出方を伺う。
「……それは?」
意味は分かるが詳細を知るため、剣の柄を握ったまま尋ねる。その間もずっと、自分の腕から血が流れ出ているのを感じていた。
団員同士の視線が交わり、一番手前の騎士が言う。
「……今、師団の伝令師から渡されたものです」
「渡した者はなんと?」
「副団長が来たら、拘束し、連行と報告を、と」
「それでは……どうしますか?」
本来なら指示を出す側の副団長が、その動向を尋ねるという状況。
団員たちがどうするのか。
こんな状況でも先導者としての意識が出てしまう。何人かがフェリアルに倣い、剣に手をかけた。
だが、抜く者はいない。
フェリアルの背後にあるドア。先には棟の階層をつなぐ階段がある。ドア越しの奥から小さく響いてくる断続的な音。螺旋状の階段の空間はかなり響く設計になっており、音の小ささから判断するに、猶予はあと三十秒くらいか?
「副団長」
手前にいた者が、挙手する。
「はい?」
「指名手配されてます」
「はい」
「それはどうしてですか?」
「国のために必要なことをしていたら、です」
「それは……それは騎士として、誇らしいものですか?」
「……分かりません。ですがそれは、騎士としても、必要なことだと思ってます」
「そうですか……」
あと十……九……。
横をチラ見。目的は二つあった。
一つは団員たちの援護。本来なら頼りたかったが、手配書が出た今、その表情を察するに、あまり期待できそうにない。
もう一つは武具。壁に掛けてある簡易鎧の革当てと、修練用の一応の真剣。
ドアが開いた。
入って来たのは魔法師団。フェリアルは腰の剣を鞘ごと投げ付けると、壁際にある武具の一式を掴み、呆然とする団員たちを通り過ぎ、自分が開けた窓の穴に飛び込む。
向かいのバルコニーに着地。
「「
窓に突撃。半開きだったのか、今度は押された窓が割れずに開き、フェリアルはそのまま中へ。
五点着地。顔を上げる。見事に決まった。
腕から血が出ている。……嗚呼、これはさっきのだ。
部屋は空室だった。誰かの執務室だ。ドアが開かれており、トロフィーやメダルなど、分かりやすい古い飾り物ばかり。少なくとも
そういえば、この辺りの部屋にはあまり来たことがない。城の構造はなんとなく分かってはいるが、ひと部屋ひと部屋に入ったことまではなかった。フェリアルはいつも、騎士団棟か共用スペースばかりにいた。
一人になると、色々と考えが巡る。
誰の策略かは明白な気もしたが、目的までは分からない。
よく考えてみればトーウェンタリスはフェリアルが邪魔なようで、ヤンドールはフェリアルに調べて欲しがっている。
板挟みだ。
そしてペノンは可哀相に、そのどちらか、もしくはそれ以外の誰かに、利用された。嗚呼……腹立たしい。
ペノンは純心な友であり、昔からよく知った仲であり、軽く友人を売るような子ではない。フェリアルが、トーウェンタリスに怪しまれたのが今日の午前中であると仮定し、悪意ある誰かはこの数時間で、ペノンをフェリアルの友人として利用するまでに漕ぎ着けた。強迫か恫喝か。最近はそんなことばっかりだ。
その所業は騎士道に反する。ムカムカしてきた。
無意識に剣を握ると、意識しなければならないことを思い出す。
冷静に。
戒めよ。
まずは落ち着きたい。逃げてばかりでは、考えがまとまらない。
城からの脱出……は、不可能に近い。
国の命だ。城門の警備兵もとっくに知っていることだろう。第一騎士団員はかろうじて「なにもしない」ことにとどまれたが、関係性の強くない警備兵は助けてくれはしないだろう。
となると……潜るか。
……シンカルン王城に?
王国の城の内部に? 何時間? 何日?
気が散る。そこまでは考えなくて良い。
初めてのことすぎて、手段が思い浮かばない。
素直に捕まってみる? ……最終手段なら。即決で斬首とはならないはずだ。
では、それまでは……どうするか?
————あ。
そういえば、立ち入り制限のある部屋があった。
この部屋からは多少近いはず。
城内からは逃げられない。調べるついでに隠れるのも、ありかもしれない。
あの部屋には窓もあった。
外からなら入れるかもしれない。
バーラック・ビー・ベルテン卿の部屋に、外から侵入するのは容易かった。つまりは、脱出も簡単であるということだ。調査としては思ってもない収穫だ。城の連絡通路からバルコニーを4つ飛んだが、副騎士団長には造作もない。
執務室の窓は、鍵が開いていた。無防備だと思ったが、今は好都合だ。
侵入し、誰もいないことを確認。ドアにこっそりと忍び寄り、音がしないように鍵を回す。これで密室。しばらく、邪魔者はいないだろう。
長時間居続けられるわけじゃないが、ひとまず落ち着いた。
フー……。……さて。
城の内部は敵に回った。フェリアル・エフ・マターナの指名手配は、既に全員が知っていることだろう。
敵の全容を考える。
城内の人間は、少なく見積もっても500人から1000人程度。そのうち戦闘員は、常駐の騎士や
300人に対し、おそらく一人も味方のいない副騎士団長一人。
うん。絶望的だ。
では他に。
状況を考える。
城内を表立って歩けば、ものの1分で捕縛される。空からの脱出は魔道具が必要となるが、
地下なら…………地下?
トーウェンタリスが城の地下道に、
もどかしい。手数が欲しい。
これからを考えようと思ったが、行き詰まって部屋を見渡す。
様子自体は初日に見たまま、殆ど変わっていない。荒れた棚、出しっぱの引き出し、燻った暖炉、倒された積本、空の鳥籠。
そして——木枠の台車。
魔法は感知できないから、物理的に調べるしかない。それもあまり、時間はないはずだ。
台車を撫でる。
ただの木だ。特殊なことは状況だけ。
車輪を見る。
ただの車輪だ。特殊ではない。
…………。
致し方無い。
この数日感じ続けた無力感。たぶん必要な情報は、城の外にある。
ケルケルと、湖畔の古屋。行くべき場所は分かってる。
城を出なければ。
シューウ。
ベルテン卿の部屋のドアから、音が響いた。ついでに、ドア枠に光が走る。
フェリアルは顔を背けた。その瞬間に、ドアが吹き飛んだ。
「現場保存」なんてガン無視に、蝶番の砕けたドアが、部屋の内側に音を立てて倒れた。
「残念ね」
残念だ。
第四魔法師団員が4名、フェリアルに杖先を向ける。
その真ん中で、トーウェンタリスはフェリアルに向かって、哀しそうな目で訴える。
「投降しなさい。フェリアル・エフ・マターナ第一副騎士団長。今ならまだ、逃亡罪には問われないわよ」
城の牢を最後に見たのは、去年城下町で発生した暴行事件の際に、当事者を拘留しておくために来たときだった。その頃は、自分が入ることになるとは思ってなかった。
手錠は太く、フェリアルの両手を、手首で交錯させて固定している。体は、一本一本が太くて密度の高い鉄格子の奥に押し込まれ、薄いランタンが濃い陰を灯していた。
剣は取られた。革鎧もない。
独り、訳も知らずに牢に入れられ、ただ尋問を待つ。
ある意味では、これも進展だ。
尋問の内容次第では、情報を逆に引き出せるかもしれない。どうせ、尋問の相手が誰かは分かってるのだ。
訊きたいことはゆっくり訊けるはずだと、フェリアルは殊勝にも、泣き喚いたりはしなかった。
却って、自身の意志は心の真ん中に、堂々と鎮座していた。
数十分後。
案の定、檻を隔ててフェリアルと相対するのは、トーウェンタリス第四師団長だった。フェリアルと同様、簡素な椅子を正面に持ってきて、腰を落ち着けた。
「やんなっちゃうわ。こんな時間まで働かされるのは」
「同感ですね。こんな待遇も。全くもって」
ランタンの光と陰の惑う、薄暗い地下牢。互いの顔は、半分ずつ翳って見える。
「不当では? どうして私は指名手配までされ、この牢に拘束されているのでしょう? 詳細を求めます」
フェリアルは堂々と告げた。現実味を帯びてくる状況は、フェリアルを酷く冷静にさせていた。
トーウェンタリスは言い分を用意していた。それは一枚の紙に。
「罪状。フェリアル・エフ・マターナ第一副騎士団長は、『白い光線』の調査をするフリをして、その証拠の悉くを改竄・消去した。また、事件の情報提供者と偽る共犯者と接触し、さらに国家転覆を目論んでいると——」
「証言者が誰かは知りませんが、それは推察です。証拠に基づく罪状ではありません」
「ええ、確かに。しかし、重要参考人としての連行及び拘束は、魔法師団にも騎士団にもある権限ですよ。勝手に逃げたのは貴女でしょう?」
「どうしてでしょうね。こうして悪意のある者に、それを言われることが分かっていたとかでしょうか」
「憶測と推察は、似て非なるものです。貴女は現に、罪人候補であることを忘れてはいませんか? 身の振り方、口の利き方を、もう少し改めた方が良いでしょう」
「でしょうとも。しかし私は騎士ですので、折れないことの重要性を理解しています。貴女にプライドがあるように」
「そういうところがまだ未熟者である貴女の、とても至らないところですね」
同席していた一介の
「御叱責感謝致します。それで尋問は終わりですか?」
「貴女と一緒に、貴女の協力者を手配しました。罪人でないと思うのであれば、騎士として報告するべきことをしなさい」
「協力者にも個人情報があります。全て明かすわけにはいきません。そして私は、協力者の正体を知りません」
嘘は言っていない。非現実的な予想があるだけだ。
ランタンの灯が揺れた。
「いいでしょう。では次に——ベルテン卿との関係は?」
「……貴女の方が詳しいでしょう。私は顔すら知りません」
「あの『白い光線』はなんですか?」
「私も知りたいと思ってました」
妙だった。
トーウェンタリスは無為なことはしない。前半はともかく後半の質問は、フェリアルが共犯者だと思うのであれば、そもそも検討が付いているはずだ。
指名手配はトーウェンタリスの所為じゃない? それか時間を稼いでいるか……目的が違う?
どうもずっと、腑に落ちない。そろそろいい加減にしてほしい。
「あとは、そうですね……貴女は『シンカン』について調べていたそうですが、そっちの情報も訊いてみましょう。『シンカン』に関して、調査上なにか知ったことや、新たに知っていることを話しなさい」
なにも知らない同席者は、『シンカン』という単語に首を傾げた。
「進展はありません。その件はあくまで、調査の『副次結果』に過ぎません。元々は『白い光線』を調査中、たまたま知った事象です。私個人、それほど積極的に知ろうとしていたわけでもありません」
「国家の成り立ちに関わる事象については、国家転覆に付随する結果を招くことがあります。貴女が二人の女性
「でしたら、その二人に確認を取ってみては?」
「二人なら尋問済みです。貴女ほど抵抗しなかったものでして、一時の拘束を経て、現在は既に解放してあります」
フェリアルは長く息を吸う必要があった。ヤンドールはともかく、ヴァシーガはもしかすると、午前の時点で拘束された可能があった。さすれば、ペノンを利用したのはトーウェンタリスの可能性が高い。さらには、ペノンを先に利用した可能性も。ゆっくり……ゆっくりと、より強く自覚的に、息を吐く。胸の筋肉が内側でピクっと動いた。その奥の胸中は、その数百倍に痛んだ。
痛んで傷んで、燃え上がりそうだった。
「他に言うべきことは?」
フェリアルは黙っていた。苛々が腹の中で波打っていた。
「それで、貴女の名誉は護られるのですか?」
フェリアルは黙っていた。不快なことに、トーウェンタリスを見ていると、家で待っている祖母のことを思い出した。
「……いいでしょう。これにて、尋問を一時中断します。マターナ第一副騎士団長は、このままこの場にて拘留状態を保つこと」
トーウェンタリスは立ち上がった。フェリアルは制止する。
「待ってください。尋問と勾留の権限は理解していますが、証拠不充分の場合は再拘束及び起訴状の発行があるまでは、勾留し続ける権限は無かったはずです」
相手が理解できるよう、そして理解していると思われるように、フェリアルは規則を、記憶なるべくそのままに読み上げた。
だが、トーウェンタリスは眉を顰めて言った。
「いえ。残念ながらその権限があるわ」
「……それは魔法師団長でも、あり得ません」
シンカルン王国の魔法師団も騎士団も、戦争の無い今は基本、便利屋だ。牢兵や所属警備兵ですらない専門外の魔法師団長が、「勾留権限」などという重要な権威を、簡単に有せるはずがない。……なかった。
「御忠告しておきましょう。……そういうところが、未熟であると言ったのよ」
怪訝に首を傾げるフェリアルに向けて、トーウェンタリスは一枚の紙を見せた。
その紙は報告書や書状と違い、小さなカード上の物であった。厚めの紙に、金色の装飾と銀色の刻印がしてある。図書室の入館証のような、改められて認められたような物。
そこに書かれている文字は、フェリアルの瞳孔を大きく開かせた。
『シンカルン王国現主君、チャーローゼ・シー・シンカルンの命に寄り、
フェリアル・エフ・マターナ第一副騎士団長の勾留持続権限を、
トーウェンタリス・ティー・アルバン第四魔法師団長に、委譲する』
……………………は?
……勾留持続権限だけ、ピンポイントで委譲されている?
「そんなふざけた話があるか?」
自分が騎士として気を遣い続けていた口調さえも変わるほど、それは衝撃的な事象であった。私の勾留持続だけを重要とする権限委譲?
調べ上げたことが頭から全部吹っ飛んでしまうほど、不能と思しき、理解し難い出来事であった。
「ごめんなさいね。私が数枚
驚愕で動けないマターナ副騎士団長を置いて、第四魔法師団長は、その場を後にして行った。
しばらく途方に暮れていたフェリアルは、事態の深刻さに漸く気付いたと、独り牢の中で感じていた。
今回の件は全てがたまたまで、偶然の産物が組み合わさった事象だと、ショックのあまり血流が巡り巡る思考が、そう結論づけていた。
問題は根本にあった。
何故城から、『白い光線』が放出されたのか。
何故ベルテン卿の部屋からなのか。
何故それを調べようとすると、魔法師団の席の長い者が敵に回ったのか。
そして調査するたびに関心を散らし、「国家転覆」の言い訳になりそうな事象を調べさせようとするのか。それをワザと助長させようとしているのか。
目的は知らない。
理由の詳細も。
もはや知らなくて良い。
しかし、敵がなにかは明確に分かった。そしてそれは、調査関係者のほぼ全員であるということだった。大方、悪事を働こうとする王国は、住民に寄り添う副騎士団長が邪魔になった、というところか。ちょうど実験に失敗でもしたのか、ワザと住民を消し飛ばし、それには最もらしい理由をつけ、残された者たちはうやむやに数年を過ごさせ、忘れさせる。もしくはその間に、またなにか別の事変でも起こすのだろう。推測の殆どは理解できないが、筋道はなんとなく見えた。そしてフェリアルは、その件に必要とされていなかった。
言わば「邪魔者」だ。
誰も彼もが敵に回った。
それが結論だった。
フェリアル・エフ・マターナの物語は、これでお終いだ。
以上。
後は数日ここで過ごし、斬首刑にてその命を終える。そして魂は霊の国・ラトに着き、一生そこから出ることもなく、遠くには見えもしない、
ちゃんちゃん。
夜も更け、珍しくとうとうそこまでの妄想を繰り広げていたフェリアルは、地下牢の入り口が開いたことに気付いた。遠くから足音が近付いてくる。足音からは、誰かは分からなかったが、またもトーウェンタリスであれば、多少噛み付いてみたいという「攻撃欲」が高まる。もしくは投獄された副官の様子を見に来た団長か?
……いや。べルッツ団長は副官がいなくなったからこそ、忙しいはずだ。来るならもう少し後だろう。少なくとも、素早い気遣いができるような人ではない。
平和の象徴たるシンカルンの地下牢に、罪人は長くは常駐しない。今入って来た人物は、明らかにフェリアルに用がある者だ。誰であれフェリアルにとっては、好ましくないはずの相手で、警戒心からフェリアルは椅子から立ち上がった。
牢にいても、フェリアルは騎士だった。手錠をされていることよりも、剣が無いということの方が、どうしても不安だった。
「マターナ副団長」
しかし、現れたのは想定していた二人ではなかった。
「グレアット」
ヤンドール・ワイ・グレアットは、
二人だけで調査をした場面はあったが、調査ではなく、互いに用件がある状態で正面からちゃんと向き合ったのは、初めてな気がした。
「なにか御用でしょうか?」
我ながら、かなり敵意の強い声音だった。「類は友を呼ぶ」という言葉にある通り、トーウェンタリスはフェリアルのそういうところを見出し、「お気に入り」にしていたのかもしれない。嗚呼……卑屈になりかけている。これは良くない。
「……私は」
それでもヤンドールは、口を開いた。
「私は、偶然とはいえ、貴女に可能性を見ました。これまで誤った印象と、不審な挙動をお見せしたことを謝罪します」
相手の態度にめげずにというよりは、なにか重要なことを知っている、といった口振りだった。その妙に丁寧な態度に、フェリアルの敵意は急速に治った。
「そしてその上で、貴女の騎士道に追ずる信念に問います」
フェリアル・エフ・マターナ第一副騎士団長——、
「まだ、『白い光線』の一件を解決したいと思いますか?」
フェリアルの騎士道は、血統によるものだと自覚がある。
しかし、それだけではないという自覚もあった。幼少期から自分を育ててくれたリリアネット・エル・マターナという、元女騎士の祖母。詳細は知らないが、任務を全うして死んでしまった両親。その辺りの事情を知り、育ててくれた王国の城下町の人々。友情によって繋がった同期の二人と、同じく繋がっていたが、消えてしまった一人の友。残されたその父親。手配された自分を、攻撃することなく思い止まった、同僚であり仲間の騎士団員。女はあまり歓迎されない騎士団で、副官として自分を携えてくれた団長。悔しくも、トーウェンタリス第四魔法師団長の後ろ盾も、自分が国務を担う上では、欠かせなかったことだろう。
走馬灯のように見えては過ぎ去る景色たちは、全てフェリアルが騎士であるために在ったものだった。全員が巻き込まれたこの一件を、自分が勝手に放棄することは赦されない。そしてその件に繋がる一筋が、今目の前に向かって立っている女だったが、それを断ることもできない。彼女はなにか、持っている気がした。
フェリアルは、嘘であろうと真であろうと、相手に対してではなく、自分に対して、そして思い出した、失せてしまった友の顔に向けて、言った。
「私の任務は、まだ終わっていません」
私の騎士道は、牢に入った程度で手放せません。
私は、まだ折れていません。
ヤンドールはその答えを訊くと、一度視線を落としてから、フェリアルを見た。その視線は真っ直ぐに、ちゃんと見据えた、意志の強くこもったものだった。
「貴女に可能性を見て、今、心から『良かった』と思っています」
ヤンドール・ワイ・グレアットが
「紹介したい人がいます」
その言葉は予想外であったが、似たようなことを聞くのは初めてじゃない。促すよう目を細めると、ヤンドールの隣に、一人の陰が現れた。
一緒に入って来たのだろうが、フェリアルは気付かなかった。足音が聞こえなかったわけじゃなく、一人だろうと二人だろうと、意識するようなことではないと、勝手に思っていたのだ。
一介の
だがそんなことはどうでも良かった。
今日、フェリアルが瞳孔を強く開いたのは二度目だった。
「久しい、とは言えないが……騙してて悪かったな」
最近見慣れた「外套を纏った男」が、そこに立っていた。
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