第13話

 私の脳裏に、膨大な数の言葉と感情があふれ出て、徐々に消えていく。


 あの日から、私はトオルくん以外の男を考えた事なんて一切ないし、考えなかった日なんてない。


 今でもずっと、胸が苦しい。

 どうして、どうして私の手に収まってくれないの。おかしいよ。


 私を助けたんなら、生かしたのなら、トオルくんも責任を取ってよ、取れないんだったら一緒に死んで。


 それが……一方通行なのかな。


 私はトオルくん以外の、何に縛られている?


 両親はいない。親戚もいない。誰もいない。

 私はトオルくんだけに囚われている、はずなのに。


 胸を締め付ける糸が絡まっていて、いつまでたっても解けてなんてくれない。


 その日は結局、家に少し残っていた睡眠薬を口にして、無理やり寝た。

 私が大人になるまで……絶対に、トオルくんを守り通してみせる。


 だけど、トオルくんに嫌われないように、慎重に、分からないように。


 それで、トオルくんが孤独になった時……私が。






「……よし、ついた」


 トオルは息を吐き出して、身を地面に投げ出した。

 そして、快晴と、緑の森をながめる。


 今日は、忙しい仕事から抜け出し、一人きりで楽しめるソロキャンプの日。


 何日も前からトオルは決めており、この有給の日までに片付けるべき仕事を着々とこなしていたのだ。


 友人からすすめられ、少し気になっていたソロキャンプ。


 友人とまずは一緒にキャンプに行き、やり方を教えてもらい、今回が実戦だ。


 ワクワクしながら、キャンプ場にテントをたてて、テーブルを広げ、火を用意して……。


 とやっていくと、意外と時間が経つのは早く、ご飯も食べて、キャンプ場にあるシャワーを浴びてしまうと、もう真っ暗だった。


 懐中電灯を使いながら、テントに戻って、毛布にくるまる。


 慣れなくて少し手間取ってしまったが、トオルは満足しながら、今日の出来事を思い返す。


(はぁ……分かんないこともあったが、色々できたな。いいキャンプ場にこれたおかげだ。ソロキャンプ、楽しいが……俺にも彼女できたら、その彼女と来たいな、なんて)


 自分で少し虚しく思いながらも、トオルは眠りについた。


「……あははぁ」


 しかし、テントがそっと開けられた。

 手には、透明に透き通った瓶。


 その中には、小さな白い錠剤がいくつか入っていた。


 そう、家に残っていた睡眠薬をできる限りかき集めたものだった。


「トオルくんさぁ、油断しない方がいいよ。トオルくんが友人だと思っていた人も、私の駒でしかないんだ。私ってさぁ、結構モテるんだよ? トオルくん。仕事の動機だからって、信用しすぎちゃダメじゃない?」


 ……カレンは、黒の服装で身を隠しつつ、テントの中に入った。

 そして、トオルがしっかり寝ていることを確認する。


「もう私も大人なんだよ。まあ、トオルくんの前には姿を見せるのをやめてたから、仕方ないか。私、色々と準備したんだからね。調べもしたよ。トオルくん、働いてるのブラックなんだよね? しかも職場が遠いから一人暮らし中だよね?」


 返事もないのに、楽しそうに話し続けるカレン。


「あ、話してる時間もないか。じゃあ、運ぼうっと」


 ふふ、とカレンは不気味に笑って、準備を始めた。

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