第11話

 お母さんたちがいなくなったのは、もう物心がついて、色々理解できるようになった年齢だった。


 最初は、親戚の人が来てくれていたけれど、面倒くさかったのか、私が大体一人で生きて行けるしお金の供給もあると知ったのか。


 よくわからないけど、いつの間にか消えた。


 だから、手紙だけ来た。


 例えば、生理への対処法だとか。

 買うべきものを簡単にまとめてたりとか。

 もう少し経ったら、どこの中学へ行けだとか。


 まあ、その手紙に従う他、私が生きる道などなかったと思う。


 でも、ある日突然、私のところに、手紙と共に大量の睡眠薬が送られてきた。

 手紙には、


「お父さんとお母さんの責任を取って」


 と、冒頭から書かれている。その先を読んだ。


 お母さんは病院の中で暴れたらしい。そして、誰が誰か分からない状態で意識を錯乱させ、自殺した。


 お父さんは、あの後失踪し、見つかったと思えば薬物に手を出していて、現在は捕まっているらしい。


 そのせいで、親戚の方にも大分被害が及んでいる。親戚には代々受け継がれてきた家業があって、それが絶えてしまうのかもしれないのだと。

 だから、「呪いの家族」である私を殺し、血を断とうとした。


 別に、予想はついていた。


 この状態で、私が睡眠薬を飲んで死んでも、自殺になるだろう。

 自分で遺書を書いて死ね、と手紙は言った。


 朝に届いたその手紙を一回しまい、とりあえず学校に行った。


 朝、死ぬ時間はない。

 それに、転校生が来る日だった。


 転校してきたのは近所。転校直後に近所の人、そしてクラスメートが死ぬなんて、不幸だなぁと思った。


 まあいいか、とも感じていた。

 だって、こんなふうに、手紙だけで指示をされ、大切な人もいない、飼い殺されるのも時間の問題と思ったから。


 固いランドセル、暗い気分に不似合いな日差し。


 いつものように、机を見つめる。大量のプリントと課題。


「あ、それやっといてよ」

「……」


 にやにやしながら出てきた女子の一人。

 ほんと、キモいな。


 私は、女子とその仲間がやるべきであろう宿題を、サラサラとやる。


 はぁ。

 面倒くさい。でもきっと、反抗するのもそれはそれで面倒。


 それに、問題は簡単だ。すぐに答えが出せるものばかり。これくらいならあっという間に終わるだろう。

 そして、私は今日死ぬのだから。


「前々から言っていたけど、今日、転校生を紹介するわよー」


 私の前に置かれたプリントをチラリと見てから、先生は言った。

 先生も見て見ぬふり。私がプリントをやっていたって無視だ。


 そして、あまり興味のない転校生に目を向ける。


「えーっと……初めまして! 柴咲トオルです!」


 私の人生は、そこから狂わされた。

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