第10話

 でも、手に入れようにも、今の私じゃ、何もできやしない。


 成績が良くても、お金はないし、まだ未成年だし。

 それじゃ、トオルくんの隣に立つ資格なんてない……。


 私は考えた。

 本当はすぐにでも、閉じ込めて、私だけのものにしたい。たくさん愛でて、ずっと一緒にいたい。

 トオルくんがいてくれれば、それだけで幸せだから。


「……でも」


 でも、トオルくんはそれだけじゃダメだというだろう。そして、出て行こうとするだろう。もしかしたら嫌われる?


 嫌われたとしても、閉じ込め続ければいいだろうけど、それができるほど私は自由じゃない。

 それに、トオルくんの家族から何か言われたらいやだ。


 解決できない問題が溢れてくる。そして、無力感に自分を呪いたくなる。





 お母さんは、ちょっと脳がおかしかった。


 もともとおかしなところはあったらしいんだけど、妊娠をきっかけにそれが爆発したらしい。


 言動が変になり、気分がころころ変わり、すごくご機嫌なときもあれば、怒鳴りつけることもある。

 時には、布団からずっと出てこない。その時は、いっつも死にたがってる。


「ほんと、何にもできないんだからっ!」


 バシッと投げつけられた教科書。それと、グシャグシャになったテスト用紙。ゴミだらけの部屋。洗い物がたまったままのシンク。


 何もかもが嫌になってきた。


 私は、最初の頃は頑張った。

 一生懸命やって、テストは大体九十点以上だったし。


 でも、お母さんは脳がおかしかったから、オール◎が当たり前だった。いつもいつも怒鳴られた。


 こんな点数しか取れないの。

 怠けてるんでしょ。

 どっかいけって言ってんの!


 一晩たてば、それは変わった。


 ごめんね。こんなダメなお母さんで。

 死にたい。もう死にたい……。

 もう嫌だよ……無理だよ……。


 お母さんを否定してはいけない。でも、こういう時は「大丈夫だよ」「そんなことないよ」で濁さないといけない。


 いつも怒られないよう頑張ってるのに、いつの間にか怒られてしまう。


 自分が悪いのは分かるけど、そのあと飛んでくる言葉の理不尽さ、暴力に、だんだん私は何も感じなくなってきた。


 あーあ。もう駄目なのかも。


 そんな時に、お母さんは入院した。脳の病気だった。

 それからずっと、帰ってきていない。


 お父さんは、そんなお母さんに嫌気がさして、ずっと帰ってこない。たまに帰ってきては、お金を置いてどこかへ行く。


 いつも惨めで暗い私。


 ……だけど、トオルくんだけは、まるで違った。

 私を生かしてくれたのだから。

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