第8話

 やっぱり、カレンさんはトオルさんのことを好きだったんだ。

 しかも狂気的に。


 私はガタガタと震える手を押さえつけて、学校のリュックを床に降ろした。


 あの後、すぐにカレンさんは走って行ってしまった。

 本当は追いかけたかったけど、怖くて……。


 私、そんなに成績よくないし、運動も苦手だ。だから、先生に報告したところで、成績優秀なカレンさんは、少し疑われて終わりだろう。

 ……知ってるのは、おそらく私だけ。


 トオルさんって天然そうなところあるから、気づいてないと仮定して。


 私だけが知っているなら、トオルさんのことを、助けないわけにはいかない。


「――今度あなたが何かをしようとしていたら……あなたを殺しに行くわ」


 頭の中に、いなくなる直前言われた言葉が響いた。

 そして、恐怖が再び蘇る。


 カレンさんは……異常だ。


 だからこそ、止めなきゃ。

 カレンさんの考えを正して、そのうえで二人には幸せになってほしい。


 そのためにも。

 まずは、トオルさんについてのことを把握しないと。






 何なの、何なの、何なの、あの女。

 さっさと話せばいいのに。やっぱり、私に隠れて何かやってたの?


 トオルくんが、そんなこと……。


 色々考えていたら、もうドアの前に立っていた。一回思考をリセットして、インターホンを鳴らす。


 すると、アカネさんの声が聞こえてきた。


『あら、カレンちゃん。お見舞いに来てくれたのかい?』

「はい。トオル、会えますか?」

『あぁ、それがねえ。あの子ったら、恥ずかしいから誰もいれるなって。ごめんねえ、せっかく来てくれたのに』


 そっかぁ……残念だなあ。


 まあいいや、前に遊びに来た時に、盗聴器をそこら中に仕掛けておいた。


 帰って、自分で聞けばいいや。


「すみません、それなら帰ります」

『ごめんなさいねえ』

「いえ、大丈夫です」


 インターホンの光が無くなったのを見て、作り笑いを無くす。

 そして、耳に機器を当てた。


 ただ、場所指定で切り替えられる端末は家に置いたままだ。早く帰ろう。


 ……やっぱり、怪しいな、田中アヤ。

 絶対に見逃さない。こちらにしつこく関わってくるなら、一生口きけないようにしてやる。


「はぁ。課題多いな」


 テストなんかよりも、こっちが一番難しい。なんでほいほいみんな恋なんてできるんだろう。


 そして、何で簡単に、相手から離れようとするんだろう。


 私なら、絶対に離れたりしないのに。

 ……そういう人もいるってことなんだろうか。


 まあいいや。

 トオルくんのためなら、私は何でもする。ただそれだけ。それだけで、私のこの世界は完結するのだ。

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