第7話

「ねぇ、あの、カレンさん……! ど、どこまで……?」


 抵抗するのが怖く、そのまま引きずられる私。恐る恐る、前を歩くカレンさんに話しかける。

 しかし、反応してくれない。


「カレンさ……」

「よし」


 もう一度話しかけようとしたとき、ようやくカレンさんが止まった。ひとけのない場所。

 ここは……学校の別棟だ。


 別棟は、不気味だし、もう特に使われてないから、そろそろ取り壊しのはずだけど……カレンさんは、どうしてここに。


「ねえ、アヤさん。あなた、トオルに話しかけたよね?」

「え……ま、まあ」


 本当なのでうなずく。

 えっと、どうしてそんな質問されるんだろう。


 あっ、もしかして、トオルさんに話しかけたから、カレンさんから何か誤解されてるんだろうか。

 私は弁明する。


「あっ、えっと、私、二人を邪魔する気なんてないから! 勘違いしてるんだったら、違うからね」

「そうやって」


 カレンさんが私の言葉を遮る。相変わらず、びっくりするほど冷たい声だ。


「トオルが話題だと分かった瞬間焦りだすの、おかしいと思うんだ。ねえ、トオルと何を話してたの?」

「いや……えっと……」


 ヤバい。余計に嫌な状況になっちゃった。確かに私はトオルさんのこと、気になっているけれども、カレンさんを邪魔したいわけじゃない。


 別に、もうあの二人はカップルみたいなもんだから。


 でも……この雰囲気だと、よからぬ方向に絶対誤解されてる!


「時間割……それだけ……」

「トオルも言ってたけどさぁ……それ、本当?」


 ずいっとカレンさんが、こちらへ距離を詰めてきた。

 思わずひぃっと悲鳴が出る。


「いや、トオルを疑うわけじゃないんだ。だけど、本当に危険かもしれないじゃん。トオルは優しいから、もしかしたらこの子をかばってる可能性だってあるし。あ、だけどそれじゃあトオルはこの子に好意があるってこと? ねえ、そんなのおかしいよ……」


 一人で突っ走り、ぶつぶつと話し出すカレンさん。

 やはり、その姿は異様だ。


 私の肩を掴む手。力が強い。痛くて抜け出せない。


「ちょ、ちょっとカレンさん! 私、別にあなた方の邪魔をするわけじゃ……」

「するわけじゃ……何?」


 下を向いていたカレンさんは、一気に私に目線を合わせてくる。

 瞳の奥からは、何も感じ取れない。


「する、わけじゃ……」

「ねえ、嘘言ってでしょ? トオルに何か吹き込んだ? 早く教えてよ。私だって時間がないの。早くトオルのお見舞い行ってあげないといけないのに。……もういいや」


 カレンさんは吹っ切れたように言った。


「ねえ、近づいてこないで。今度あなたが何かしようとしていたら……」


 また、手に持ったカッターを、私の方に近づけてきた。下手に動くと、どうなるか分からない。私は恐怖が蘇る。


「あなたを殺しに行くわ」


 カレンさんが、にっこりと笑った。

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