第6話

 私の名前は田中たなかアヤ。

 実は最近、クラスメートのトオルさんのことが気になっている。


 最近席が近くになって、ちょっと視線を移してたら、なんかすごく引き込まれてた。


 最初は気にしてなかったのに、全然トオルさんはかっこいい。友達も多いし、勉強も得意だし、スポーツもすごい。

 だけどそういうところで威張らない。頼れる人。


 よく私は、時間割が分からなくて、トオルさんに聞く。そしたら、笑顔で答えてくれる。


 最近は、時間割を知っていても、「忘れっぽくて」を言い訳に聞きに行ってしまう。


 それを……恋心って、言うらしい。

 恋したこと、今までなかったから、分からなかった、けど……。


 でも、私よりもずっと、お似合いの人がいる。


「花宮カレン」さん。

 成績が毎回トップで、トオルさんとは幼馴染らしい。


 体も柔らかくて、スポーツも大体こなせるから、本当凄いんだよなぁ。


 よく、トオルさんも一緒に勉強したり、遊んだりしてるって噂だし。相思相愛カップル……私が入る隙間などない。

 でも、表立って発言してないから、私もチャンスあるかも……?


 いや、あれだけぴったりの恋人だから、付き合ってなかったとしても両片思いか。やっぱり、私が入るべきじゃない。


 私はトオルさんを見守るのみ。

 そして、二人を応援するのみ……。





「田中さんっているかしら?」


 ガヤガヤとした、帰りの会が終わった時間。私たちのクラスにそんな声が響いた。名前を呼ばれたので振り向くと、そこにはカレンさん。


 いっつもトオルさんとしゃべってるから、私が呼ばれてびっくりする。


 今日はトオルさんは体調不良で休み。

 それを、カレンさんは知っているはずで、なんでクラスに来て私を呼んだんだろう。


「あ、はい、私……」


 控えめに声を出して、カレンさんの方へ近づいた。


「田中アヤです。あの、何か……?」

「ちょっと来てくれないかしら?」


 私の質問に反応せず、手を掴んでそう言ってくるカレンさん。えっ、なんだろう。どこに行くのかな。

 私、そんなにカレンさんと関わった覚えないんだけどな。


 私は少し不思議に思って、引っ張られる腕を振りほどき、その場にとどまる。

 カレンさんは後ろを振り向き、無表情で私のことを見た。


 私は少しゾッとした。


 先ほどまでのニコニコとした雰囲気。トオルさんと話すような雰囲気が、まるで消え失せている。

 違和感を通り越して恐怖まで覚えた。


 その冷たい雰囲気のまま、カレンさんはにこりと笑った。


「アヤさん……だったよね。来てくれないかしら?」


 今度は脅迫にも近い圧。

 まるで断らせる気などない。何が何でも、連れて行こうとしている声色。


「あ……あの、何で、ですか」

「何で……か」

「は……はい」


 震える声で理由を尋ねる。ここは少し引っ張られたから廊下。教室まで戻れば、さすがにカレンさんも入ってこれないはず。

 話題を変えて、気をそらす。


「い、いきなり来て。私、今日習い事があるんです。離してもらえませんか」

「……」


 カレンさんが無言になる。圧が少し和らいだ。ここから教室までは、すぐだ。


 私は勢いをつけて走り、教室まで戻ろうとする。しかし、制服の襟部分を掴まれた。窒息しそうになり、慌てて立ち止まる。


 嫌な音が聞こえた。


 キリキリ……。これは、カッターの刃をのばす音だ。


「行きましょ」


 カレンさんは、恐怖で固まる私を、笑顔でそのまま引っ張っていった。

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