第4話

「……トオルくん、まだかな」


 昨日にあれほど夜更かしをして勉強していたはずなのに、カレンは早朝にトオルの家の前に立っていた。


 そもそも寝たのかすら分からない時間。カレンの家の電気はずっとつきっぱなしで、ガリガリとペンの音が聞こえていた。

 もちろんカレンの目元には、隠してはいるが濃いクマがある。だが、それでも当の本人はルンルン気分でトオルを待っているのだ。


「寝坊とかしちゃってないかな? 無理やり起こすのはかわいそうだし、遅くなってきたら声かけよう。メールしようかな」


 一人でつぶやいて、またふふ、と笑みを浮かべている。


 まだ早朝のため、起きていたとしても、扉を開けて出てくるなんてことはないはず。しかし、カレンは意気揚々とトオルが出てくるのを待っている。


(まだかな。待ちきれない。せっかく盗聴器をどうやって手に入れたらいいのか調べて手に入れたのに。あぁ、早くトオルくんにつけてあげたい。そしたらトオルの声をいついかなる時も聞ける……!)


 わずか一日で、盗聴器を手に入れていた。

 恐ろし過ぎる。


 カレンはトオルの家の前にストンと座って、笑顔のまま、トオルのことを待ち続けていた。


 ――ガチャ、という音で、カレンは素早く立ち上がって何気ないふりをする。そして、笑顔を整えた。

 トオルが家から出てくるのだ。


「あら~、カレンちゃん。朝早いのにすごいわねえ」


 ……というのは間違いで、出てきたのはトオルのお母さんだった。柴咲しばさきアカネである。


「あっ。アカネさん。ご無沙汰してます」


(はぁ~、トオルくんかと思ったのに。でも、トオルくんのお母様だから、偉大な人に決まってるわよね。丁寧に接しなくちゃ)


 内心でめちゃくちゃがっかりしつつ、それを態度に出さずにニコニコと挨拶をする。


「昨日も勉強会したんですって? ほんと、うちのトオルと違って、カレンちゃんは優秀ねえ。前回の中間、順位また上位だったんでしょう?」

「あ……まぁ。三教科百点で一位を取らせていただきました」


 淡々と言う。

 アカネは目を見開いた。


「まあまあ! やっぱりカレンちゃんはすごいわねえ」

「……ありがとうございます」


 ザザッ……とノイズが鳴る。


 ――なんでこんなこともできないの?


「ほんと、どんな勉強法をしてるのかしら」

「いや、特別なことは何も……」


 ――もっと勉強しなさいよ。


(……心臓が……)


 うげ、とカレンは顔をゆがめる。アカネはえ、とつぶやいてこちらを見た。


「すいません、ちょっと……気持ち悪くて」

「あらあら、じゃあ中に入って休みます?」

「すみません……」


 カレンは口元を押さえ、トオルの家の中へ入っていった。

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