第3話

「そこ! 間違ってる」


 カレンが指を差して、トオルのノートの一部を指摘する。赤ペンを持つ手をトオルは止めて、頭をかいた。


「やっぱ、カレンは頭いいな。ゲームあんなうまいのに。どうやって勉強してんの? 成績の上げ方、俺にも教えてよ」

「ん~……才能?」


 カレンは笑って答える。その言葉に、トオルはため息をついた。


「そうやってサラッと言えるのはごく一部の人間なんだよ……マジでその頭脳少し分けてくれよ……」


(トオルくんにだったらいくらでも分けるのに。いやいっそのこと全部あげてもいいのに)


 内心カレンはそんなことを思いつつ、声に出さず真面目に勉強会を進める。


「あ、なんか飲み物いる?」

「欲しい~……勉強ばっかで死にそう……」


 カレンが声をかけると、トオルは本当に死にそうな声で応答する。それにクスッと笑うカレン。


(やっぱりかわいいなぁトオルくん。剝製にして眺めたい。だけどそんなことしたらダメだから我慢しよう)


 常にとんでもない思考だが、それをどこかへ追いやり、台所へ行ってオレンジジュースを注いで持ってくる。

 トオルはそれに飛びついて、ごくごくと飲み干した。


「あーっ! 生き返る……やっぱ勉強しすぎは体によくねえんだよ」

「そうだねー」


 にっこにこで返事をするカレン。

 その後少し勉強して、トオルは家へ帰っていった。それを見送った後。


 カレンは素早く、トオルの飲んでいたコップの方に飛びついた。


「……これ、関節キスできるんじゃ⁉」


 家に親が帰ってきていないのをいいことに、はしゃぎまくり、結果的に、カレンはそのコップを大事にしまっておくことにしたそうだ。


 トオルが座ったところに自分も座って、幸福感で満たされる。


 自分もオレンジジュースを飲み、ふっと一息ついて、ワークを開いた。

 カリカリとシャーペンの走る音を聞きながら、真剣に問題を解く。スマホは出しっぱなしだ。ゲームの通知をいつでも確認できるようにだろう。


「私が頭悪かったら」


 カレンはつぶやく。その間も、シャーペンを走らせる手は止めない。サラサラと、ノートに答えが書かれていく。


「トオルくんに頼られない……私はいつだって、トオルくんの全てをしてあげられるし、頼ってもらえる『カレン』じゃなきゃ」


 ブツブツと言いながら、計算式を解いていく。

 やるべきところの何十ページも先をいっていた。どんな時でも、トオルの質問に回答できるように。


 夜遅くまで、部屋の電気は点いている。

 カレンは寝ようとせず、死に物狂いでノートに文字列を書き続けていた。

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