第2話

 カレンは授業が終わるのを確認して、すぐに教室から飛び出した。そしてそのままの勢いで、トオルのクラスへと直行する。

 息を整えながら、前を見た。


 トオルとカレンはクラスが違うので、カレンが最速でトオルの教室へ毎日突っ走るのだ。


「トオル――」


 言いかけて、息を止める。

 トオルが教室の中で、別の女子と話していたのだ。


 別にトオル視点で言えば、女子に次の授業の持ち物を聞かれ、それを普通に答えているだけなのだが、カレンにはそう見ることができない。

 声にならない声で少し叫び、頭に手を当てて落ち着かせようとする。


 カレンは気が狂いそうになりながらも、フラフラと教室のドアまで歩く。


「……ねえ、トオル。今の授業、何だったの」

「あー、数学だけど。なかなかここの公式が……」


 ガンガンする頭を抑え、カレンは微笑みを浮かべる。トオルの前で醜態を晒すわけにはいかないわけだ。


「そう……大丈夫だったの?」

「まあ、苦戦したんだけどな。なんとか俺でもできるところあるんだよ」


 ドヤ顔をするトオル。

 いつも通りのトオルに、少し安心するカレン。けれど、さっき声をかけていた女子の顔は目に焼き付けている。


「ねえ。さっきの子、何で声かけてたの?」

「あ? 次の授業聞かれたんだよ。ほら、音楽の先生、忘れ物するとめちゃくちゃブチ切れるじゃん」

「確かにね」


 笑うカレン。トオルが嘘ついているとはさすがに疑いたくないのか、今回のことは一回見逃すようだ。


「じゃ、こっちは教室移動だし、カレンもそろそろ教室戻った方がいいんじゃないか?」

「そう……だね」


 まだトオルと一緒にいたいのだが、トオルの邪魔をするわけにはいかない。ましてやここにいすぎてトオルに嫌われることも避けたい。

 カレンはしぶしぶうなずく。


「今日も遊ぶよね?」

「あ~……勉強心配だから、教えてくんないか? マジでわかんないところが多すぎるんだよな」

「分かった」


 放課後会えることに、とりあえず満足する。


 教室に戻り、音楽の持ち物を探すトオルを見つめてから、カレンもとぼとぼと教室へ戻った。

 しかし、一つの不安が、カレンの頭をよぎる。


(……クラスが違うんじゃ、トオルの行動を完全に見てはおけないし、もしかしたら他の女に先を越されるかもしれない。どうしよう)


 そして、それに気づいてしまうと、たちまち不安が頭の中を埋め尽くすのである。


(どうしようどうしよう。授業中とか授業が終わった直後に、トオルが誰かに話しかけられたら。私は無理だし、どうしようもない……)


 そうして、カレンは思い立った。


(そうだ、私がずっと聞いてあげればいい。盗聴器とかいくらでもあるよね……別に、私が悪いわけじゃないよね。私がいないときにちょっかいかける女の方が悪いんだから)


 考え続けながら、カレンは教材を用意して、席に座った。

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