021:前日

 遂に作戦実行の日がやってくる。

 僕の部下である12万の兵士が乗った船600隻が、港街パトワーに到着するのである。

 こう見ると壮観だ。

 600もの船が港に着港するのなんて、そうそう見れる物では無いので興奮する。

 しかしそんな事ばかりも言ってられない。



「レジーヌっ! ここら辺の憲兵たちを掃討しろ!」


「はい! 了解しました!」



 僕はレジーヌにパトワーにいる憲兵を掃討するように指示を出すのである。

 これはせっかくの作戦が、憲兵の報告によって対処されてしまっては面倒だからだ。

 その為、異変に気がつき始めた憲兵をレジーヌは片っ端から殺して回る。



「エルサとファビオたちは上手くいってるんだろうな。一手間違うだけで致命書になりかねないぞ………」



 僕はエルサとファビオの方は、上手くいっているだろうかと船が港に到着するのを見ながら思う。

 船が止まるとゾロゾロと兵士たちが降りてくる。

 そしてその中でも僕の軍で中心的存在である男たちが走ってやってくるのである。



「失礼します! アラン大将軍に遅れながらも到着いたしました………お待たせして申し訳ありません!」


「おぉ! エルゲ、疲れたんじゃないか?」


「いえいえ! そんな事はございません!」



 アラン軍で第一将を務めてくれている《エルゲ=ペドロチェ=ヴェーラ》は、まさしく忠犬のように僕に対してペコペコするのである。

 その後ろからやる気無さそうに、ローブを着た顔色の悪い男がヌッと顔を出す。



「俺も居ますよ………」


「バルトロか! もちろん分かってるって。お前は体力が無いのに、こんな長旅疲れたんじゃないか?」


「体力が無いなんて酷いなぁ………まぁアラン大将軍の言う通りではあるけど」



 この顔色が悪い男は僕の軍の魔術師団で、第一将をしている優秀な魔術師バルトロ=パストール=フェルテスという男だ。



「準備は着々と進んでる。お前たちにも早くて明日から働いてもらうからな!」


「もちろんですよ! 今回こそエルサ殿とファビオ殿に負けないように頑張ります!」



 エルゲはエルサとファビオをライバル視しており、かなり気合いが入っている感じだ。

 こんなふうに切磋琢磨し合うのは良い事だ。

 これで軍全体の戦力が上がってくれれば良い。

 入れ込み過ぎって事も考えられるが………。

 そんなのは、まぁなってから考えれば良い事か。



「俺も金を貰ってる分は頑張ります………それ以上の場合は、別途要請しますんでよろしくお願いします」



 うん。

 バルトロは、昔からこんな感じだ。

 エルサにも引を取らない感じではあるのに、こんな風にやる気が無いので勿体無い。

 本人としては努力をした事は無いらしく、この魔法センスや魔力量は完全な才能なのだろう。

 全くもって羨ましい限りだ。



「マスターっ! パトワーに居た憲兵を掃討しました。ですが、もしかしたら生き残りもいるかもしれません」


「そうか。まぁその場合は仕方ないな………どっちにしても600の船が港に入るんだから、絶対に帝都には話が入る事だろう」



 2人と話している時にレジーヌが戻ってくる。

 そして憲兵を排除したが、もしかしたら私服警官のように潜んでいる奴がいるかもしれないと報告する。

 こんな大胆な事をしているのだからバレるだろう。

 今はとにかく時間を遅らせたいだけだ。

 それが成功しているのならば、船が着港した事はバレたとしても問題は無い。



「エルゲ、バルトロっ! 直ぐに指揮官クラスの人間を僕の天幕に集まるように伝えろ」



 明日にでも攻撃を開始する為に、僕は指揮官クラスの人間を天幕に集まるように指示をする。

 その指示を受けてエルゲたち将校たちが集まる。

 僕は椅子に座り、その両脇にエルゲとバルトロが立って十数人の将校の出欠をとる。

 そして全員がいる事を確認してから作戦を伝える。



「まず明日から直ぐに城砦攻略を開始する。我々が落とすべき城砦はストングレッグ城砦だ」


「えぇと先ほど、アラン大将軍から城砦の情報に関する書類を受け取った。それでここにいる人間には、ある事を覚えて欲しい事がある」



 落とすべき城砦の名前を発表してから司会進行を、エルゲに任せるのである。

 エルゲは城砦に関する書類の中身を確認し、ここに集まっている将校たちに伝える。



「このストングレッグ城砦に行くまでの道に数ヶ所、城があると確認されている。そこも落とすが、その際に食料と物資を補給するつもりだ………だが! 絶対に一般人に対して強姦・虐殺・略奪をするな!」



 エルゲは僕の意向である人道的に反する行為の一切を禁止すると、大きな声で将校たちに伝えるのである。

 それに対して将校たちは大きく頷く。



「君たちにはアラン大将軍の騎士として大いなる志を持ち、この度の戦争に挑んで欲しい!」


『はいっ!!!!』


「最後にアラン大将軍からの言葉だ。しっかりと傾聴するようにな!」



 意識を統一してからエルゲは、最後に僕からの言葉で締めると言って手をスッと皆んなのところに向ける。

 そして僕は椅子から立ち上がり部下たちを見る。

 

 前世で普通のサラリーマンだった僕からしたら、人を殺すなんてできない事だと思っていた。

 しかしそれはタダの甘えであり、自分が生き残る為に仲間を救う為には躊躇はしていられない。

 だが、それは命を無碍にして良いというわけじゃないのは理解してもらえるだろうか。



「良いか! 明日から始まる戦争で死者は必ず出る。隣の人間が死ぬかもしれないし、小さい時からの付き合いだった奴が死ぬかもしれない………もしかしたら自分が死ぬ事だってあり得る! その中でみんなには己の正義の為、大切な人を守る為に命を燃やして欲しい!」


『うぉおおおおお!!!!!』


「諸君の明日からの活躍に期待している!」



 僕は心の中で思っている事を素直に伝える。

 1人も死者を出さない戦争なんて、この世界では絶対にあり得ない事なのだ。

 ならば何をして死ぬのか。

 逃げて死ぬのか。

 それとも自分の為に家族の為に戦って死ぬのか。

 それはここにいる僕の部下ならば理解している。


 今回の作戦会議を終えたところで、将校たちは各自の持ち場にゾロゾロと戻っていく。

 僕は天幕に残って明日からの緻密な計算をする。

 転生してから前世では比べ物にならないくらいの知恵が、この体にはあると10年間の修行で分かった。


 そんな僕が仕事をしているとレジーヌのエルゲ、そしてバルトロがやってきて挨拶する。



「それでは私たちも各自の持ち場に戻りますので、明日はよろしくお願いします」


「あぁこちらこそ期待しているからな。お前たちも早く寝て明日に備えろ」



 皆んなに檄を飛ばしてから3人とも天幕を後にする。


 まぁ僕の天幕の前には、誰かは必ずいるから変な音を立てながら気持ちよくなる事はできないな。

 これも生存本能なのだろうか。

 今、言う事じゃないだろうが童貞のまま、また来世なんて事だけはしたく無いよなぁ。

 じゃあ明日は生き残る必要があるか。

 頑張ろ………。

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