020:共存

 エルサは確固たる意志がある獣人族の長に対して、僕から言われていた最後の手段を使う事にした。

 それを言う前にゴホンッと咳をしてから話し出す。



「確か獣人族の村では、人攫いによる被害に悩まされていると聞きましたが、そこのところはどうですか?」


「それはそうですが………それが今回の事と何か関係でもあるんかにゃ?」



 長の表情が少し変わった。

 やはり突いて行くのならば、この村が困っているところかとエルサはギアを上げる。



「我々としては連れ去られた獣人の人たちの救出に、手を貸したいと考えています」


「救出に手を貸すにゃ? そんな必要は無いにゃ………我々は自分たちだけで救い出すにゃ」


「獣人の皆さんで解決できるのなら、それはそれで良いですけど………それができていないですよね? 私たちは皆さまを助けて、我々も助けて欲しいんです。これが獣人と人間の共存です」



 エルサは自分たちにも連れ去られた獣人を、救出する事を手伝わせて欲しいというのである。

 これこそが人間と獣人の共存だとも言った。

 それを言われると長は顔を下に下げて「うぅ……」と唸りながら必死に悩んでいる。

 人間に苦しめられてきた獣人たちの長として、人間に助けられるのはプライドが許されない。

 しかし連れ去られた仲間を救い出したい。

 その狭間でひたすらに悩まされているのである。



「そちらに協力したとして、本当に連れ去られた仲間を救い出せるのかにゃ?」


「生きているのならば助け出します。もう居場所については見当がついているとアラン様は言っていました」


「そうか……」



 長はエルサに協力したら、本当に連れ去られた仲間を救い出す事はできるのかと聞いて来た。

 それに対してエルサは約束すると言った。

 エルサの答えに長は、また下を向いて唸る。

 そして顔を上げて答えを出したのである。



「分かりましたにゃ、そちらの言葉を信じましょう。我々も仲間を救いたいと言うのは本当の事にゃ」


「本当ですか! 私の命に賭けて皆様のお仲間を、絶対に救い出して見せます!」



 長は仲間を助けたいという気持ちが強く交換条件という形でなら僕たちに協力すると言うのである。

 その答えを聞いたエルサは、自分の命に変えても仲間を救い出してみせるという。

 その声や態度からして長は、エルサは信用できる奴だと判断したらしい。



「それで我々は何を協力すれば良いんにゃ?」


「説明させてもらいます。まずは獣人族の兵力について聞いても良いですか?」


「戦士の数ですかにゃ? それならウチの男たちは全員が戦士ですからにゃあ〜。猫人族5000に、犬人族が5000の計1万人ですかにゃ」


「十分すぎるくらいです! 是非とも皆様の力を貸してもらえませんか!」



 やはり最初に算出していた獣人族の数であり、これなら獣人の森と帝都の間にあるジストック城砦を攻略する事ができるだろう。



「それから条件という程の事でも無いんですがにゃ。ウチの孫も連れて行ってはもらえませんか?」


「えっ!? どうして私が、このエルフなんかについていかなきゃいけないのにゃ!」


「そんな言い方をしなさんにゃ! このエルサ殿は、とても力強い魔力を感じるにゃ………是非とも孫を連れて行ってくれませんかにゃ?」



 長はエルサに孫を連れて行って欲しいという。

 それに対して横で見ているクロロは、まさかの発言に驚いているのである。

 そんな発言をしたのはエルサを、一流の魔術師と認めた上で孫に立派な魔術師となって欲しいからだ。

 協力して貰えるのだからエルサは快諾する。



「それじゃあクロロ。エルサ殿を戦士団の代表のところへと案内しなさいにゃ」


「わ 分かったにゃ………長の言う通りにするにゃ」



 長は猫人族と犬人族の各族で戦士代表をやっている奴のところに、エルサを連れて行けというのである。

 クロロはイヤイヤな顔をしながら案内する。

 それは木材で作られている闘技場コロッセオで実践のトレーニングをしている。

 そこにエルサが訪れるのである。



「クロロ、その女は誰にゃ? どうしてエルフなんかが村にいるんにゃ?」



 声をかけてきたのは黒髪で褐色の猫人族の女性だ。

 かなり美人で手足がスラッとしていて、まさか戦闘において強そうには見えない。

 しかし全身から出るオーラは本物だ。

 その猫人族の女性はエルフが、何でいるのかと聞く。

 それに対してクロロは溜息を吐いてから説明する。



「………って言う事にゃ。だから紹介するにゃ」


「ふ〜ん、そういう事か。まぁ長が言うなら従うし、仲間を助けてくれるって言うのなら………こっちも手を貸してやっても良いにゃ」


「まさかトーヴァさんが、そっち側に立つなんて思わなかったにゃ。1番先頭で反対すると思ったにゃ」


「人間は嫌いだけど、別に全員が嫌いってわけじゃ無いからにゃ。全ての人間が嫌いっていう奴は、それもそれで差別にゃ………嫌いな人間がやっている事にゃれ



 この黒猫人は女性の名前は《トーヴァ=ヴィケーン》と言って、クロロの中では1番の人間嫌いだと思っていたが僕たちに協力すると前のめりだった。

 それに対してクロロは驚いているのである。

 エルサはスッとトーヴァの前に立って、スッと手を出すと名前を名乗って握手する。



「もしも約束を破ったら、私たちがアンタらのボスの首を捻り取ってやるにゃ」


「ウチのボス……アラン様は、この世で唯一崇めるに相応しい尊き人です! きっと皆さんの事も仲間の事も助けてくれるに違いありません!」



 エルサには、こういうところがある。

 もうやっている事は布教だ。

 別に僕は神様になりたいわけでも、宗教を開いて信者を集めたいわけじゃ無い。

 だから引かれる行動だけはエルサには控えて欲しい。

 まぁとにかく上手くいっている事には嬉しく思う。

 猫人族の戦士代表にあったので、次は犬人族の戦士代表のところに会いに行く。

 どんな人かと思ったらガチムチの筋肉マンだ。

 さっきのドーヴァとは違うタイプの獣人で、明らかに脳筋というイメージが思いつく。



「ん? それじゃあ帝国人と戦えるんだわん? 殺したとしても仕方ないんだわん?」


「えぇもちろんです。これは戦争なのだから関係のない市民を殺すのは論外として、向かってくる兵士を殺すのは仕方ない事よ」



 やっぱり想像通りの話をして来た。

 この犬人族の戦士代表イェンス=シェバリは、帝国の兵士と戦ってみたいらしい。

 この見た目で戦闘狂なんて分かりやすい奴だ。

 まぁ戦争なのだから相手を殺すのは仕方ない。

 その為、エルサは市民を殺さずに兵士を殺すのならば戦争だから当たり前だという。

 それに対してイェンスは、雄叫びをあげてやる気満々で気合いが入っているのである。



「それで貴方も行くの?」


「何にゃ? 私に聞いてるのかにゃ?」


「確かに長は連れて行くように言ってたけど、戦争に無理矢理に連れて行くのは心が痛むのよ」


「舐めるんじゃないにゃ! こっちは立派な魔術師なんだにゃ。引き下がるわけにはいかないにゃ!」



 エルサは最終確認として、クロロは本当に戦場に行きたいのかと聞いた。

 無理やり連れて行くなんて気が引けるからだ。

 しかしクロロ本人が行きたいというのだから我々は、それを援助してやる必要がある。

 まぁこれも長の孫という忖度だけどな。

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