019:エルサの交渉

 獣人の森にやってきたエルサは、クロロとマリーナと勝負をして何とも言えない勝利を収めた。

 その勝負で2人が気を失ったのでエルサが看病する。

 この2人が起きない限りは、獣人の村に行けないから仕方なくである。

 すると10分くらいで2人とも目を覚ます。

 何が起きたのかについては目が覚めてから直ぐに理解したので、2人とも何とも言えない恥ずかしそうな顔をしてモジモジする。



「これは私の勝ちって事で良いのかしら?」


「ま まぁ今日のところは、そういう事にしておいても良いにゃ………今度はそうは行かないにゃ」


「それじゃあ長のところに連れて行ってもらっても良いかしら? 約束は約束よね?」


「確かに約束したわん。これは守るしかないんじゃないのかわん?」


「わかってるにゃ! 獣人族は嘘つきだって言われちゃ困るにゃ………仕方ないから着いてくるにゃ!」



 意識を取り戻した2人にエルサは確認する。

 それは戦う前にしていた約束についてだ。

 勝ったのだから長のところに連れて行ってくれるのかと聞いたのである。

 するとクロロは仕方ないと約束は守るという。

 エルサはニコッと笑って案内してと返す。

 クロロとマリーナは恥ずかしい負け方をした上に、獣人以外を村に入れるという事について溜息を吐く。



「獣人の村に人って来たりするの? 帝国の人とか、海外から来た人とか」


「しないにゃ。ウチの村は基本的に人間が嫌いにゃ」


「ロデベリス帝国と獣人は仲が悪いんだわん! 私も帝国の人は嫌いだわん………」



 エルサは後ろを着いていきながら村に来る人間はいるのかと聞いてみた。

 するとクロロたちは人間たちが嫌いだと答える。

 その言葉に全てが詰まっている。

 一体、帝国の人間たちに何をされたのだろうか。

 そこから何とも言えない雰囲気のまま歩く事、約15分後くらいが経った。



「ここで、ちょっと待ってるにゃ」


「えぇいくらでも待つわ」



 どうやら入り口に着いたみたいなので、クロロはエルサに入り口で待っててと言う。

 そのまま2人は前に歩く。

 するとスッと2人の姿が消えた。

 やはり村全体をカモフラージュで隠している。

 エルサは2人が帰ってくるまで、カモフラージュしている村の周辺をウロウロするのである。

 そんなエルサのところにクロロたちが戻ってくる。



「待たせしたにゃ。長に会わせてやるにゃ」


「話はついたみたいね。それじゃあ案内よろしく」



 エルサはクロロの後ろを着いて歩いていき、カモフラージュの境目を通過する。

 境目を過ぎた瞬間、目の前に広がったのは殺風景な森ではなく木のモダンな家が並ぶ村だ。

 当たり前の事だが猫人族と犬人族の人たちが、自由に人間の脅威に晒される事なく生き生きと暮らしている。

 そんな空間にエルサは何だか心が安らぐ。



「何をしてるにゃ。さっさと着いてくるにゃ」


「早く来ないと置いていくわんよ?」


「えぇ今行くわ」



 見惚れているエルサに2人は声をかけて、また後ろを見ずに歩き始める。

 その後ろをご機嫌なエルサは着いていく。

 すると村の中心にある大きな木が長の家らしい。

 クロロは木の扉をノックして「入りますにゃ!」と言ってから扉を開く。



「エルフの女を連れてきたにゃ!」


「クロロ、そんな言葉を使うんじゃないにゃ」



 語尾のにゃと言うのは老人だとしても使うみたいだ。

 そんな事を思いながらエルサは家の中に入ると、深々と頭を下げて長に挨拶する。



「お初にお目にかかります。ギルド・銀翼の夜明けで、魔術師団長をしている《エルサ=リドホルム》と申します。本日は時間を作っていただき感謝します」


「こちらこそ無礼な孫たちで申し訳ないですにゃ。ワシは、この村で長をしている《カッレ=リンド》です」



 互いに挨拶してからエルサは着席する。

 そして長の奥さんであろう人が、スッとエルサにお茶を出して裏に下がっていく。

 落ち着いたところで話がスタートする。



「それでワシらに話があると言うのは、一体どんな話なんですかにゃ? エルフのエルサ殿が、どうしてわざわざ獣人の村にやってきたのか聞かせて欲しいですにゃ」


「はぐらかしても仕方がないので、単刀直入で私たちのお願い事をさせていただきます。どうか獣人族のお力をお借りしたいのです」


「我々の力を借りたいですって? それは一体どういう事ですかにゃ?」


「申し訳ありません、分かりづらかったですよね? 私たちの革命に手を貸して欲しいのです」



 エルサは遠回しに行ったとしても仕方ないので、自分たちが求めている話を長にする。

 革命に手を貸して欲しいという事に、長の眉がピクッと動いたのである。



「いまいち状況が理解できないんですが、革命を起こそうとしているんですかにゃ?」


「はい、我々は悪帝ロデベリス3世から助けて欲しいという人たちの声を受けて援助にやってきたんです。そして我々のボスである《アラン=アントワーヌ=アインザック》様が新しい皇帝に即位します」


「ほぉまさかそんな事を考えていたとは知りませんでしたにゃ。それに手を貸して欲しいという事ですにゃ?」



 やはり人間種との関係を絶っている長たちは、よく理解できないという事だった。

 そこで今回の事についてや現状について、エルサが分かりやすく説明して納得してくれた。



「そちらが単刀直入に話してくれたんでね。私も単刀直入に答えさせてもらいますにゃ………残念ながら、それに協力する事はできませんにゃ」



 やはり長は協力できないと単刀直入に言った。

 それに対してエルサはニコッと笑いながらウンウンと頷きながら下を向く。

 しかしエルサとしても引き下がるわけにはいかない。



「やはりそうですか………しかし私も、はいそうですかと引き下がるわけにもいきません。どうして協力していただけないかを教えてもらえませんか?」


「我々は人間種に何年経っても癒せない傷を負わせられたんにゃ。その時に人間との関わりを断つと、種族会議を行なって決めたんにゃ」


「だから今更になって人間に協力する事はできない、というわけですね? 確かに長の言う事は理解できますし、やられてきた事を考えれば納得できます」



 獣人族は帝国の人間たちに酷い目に遭わせられて来たと考えると、僕たちも理解をしなきゃいけない。

 だが革命を成功させるには獣人族の協力は、絶対に必須な事なのは誰だって分かる。

 だからエルサは一歩も引き下がらない。



「我々は一方的に協力して欲しいと言うわけではなく、新しい国家を作っていくにあたって共存の道を選びたいと思っているんです」


「ワシらは共存も考えていないんにゃ。もう人間との関わりは持たない事になっているんにゃ」



 これは本当に確固たる意志があるとエルサは感じる。

 これ以上の交渉は不可能かと思ってしまうかもしれないが、エルサは最後の手を使うのである。

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