015:ギャングスター

 パトワーに到着してから一夜が明け、僕たちは宿屋を後にするのである。

 そして市長と交渉する為、僕たちは市議会に向かう。

 真っ向から行ってしまうと僕たちが革命派との関係があるとバレてしまう。

 そこで議員の1人に接触する。



「パトワー市議会議員の《トレバー=サットン》さんですよね? 少しお話よろしいですか?」


「誰だ? 私に用件があるのなら秘書を通せ」



 これが市議会議員の1人か。

 何処からどう見ても普通のおっさんでしか無い。

 太った体に小さな身長、女にだらしなさそうな顔をしているところも、おっさん度に拍車をかけてるぞ。


 市議会議員のトレバーに接触すると、ある程度のプライドがあるらしく交戦的な態度をとってくる。

 僕としてはイラッとしたが、僕なんかよりもレジーヌの方がイライラしている。

 なんとかレジーヌを宥める。



「そこを何とか、お願いできませんか?」


「君もしつこい奴だな! 私は忙しいんだ。そんなに私と話したいのなら少なくとも3日後だ」


「それじゃあこれでも話さないといえますか?」



 何を言っても時間が無いからと拒否してくる。

 そんなトレバーに対して僕は、ある秘策を出す。

 それはトレバーが市議会の費用を着服しているという明確な証拠である。

 証拠書類を目にした瞬間、トレバーの顔色は天と地ほどに変わってしまった。



「その情報を、何処で手に入れたんだ!?」


「そんなのは関係ないですよね? これが政府側にバレたら大変な事になるんじゃないですか?」


「そ それは……」



 このロデベリス帝国では着服や脱税は、国家転覆をする際の資金集めと判断されて極刑に合う。

 だからこそトレバーは焦っているのである。

 こんなのを出されたら自分だけではなく、家族の殺される為に僕の話を聞かなければいけない。



「ここじゃあできる話もできない………場所を変えて話はできるか?」



 トレバーは周りに人がいれば話はできないからと、トレバーしか知らない会員制の料理屋に移動する。

 そこで席に着いてからトレバーは、ゴクンッと飲み物を飲んで喉を潤してから話し始める。



「それで? その証拠を持って、私に何をさせたいっていうんだ? 金を出せとでもいうのか?」


「そんな難しい事じゃないですよ。僕がトレバーさんに求めてるのは市長である《ダリアン=リード》氏に会わせて欲しいという事です」


「ダリアン市長に? それはどんな用事で?」



 僕がダリアン市長に会わせて欲しいと言ったところトレバーは、どんな理由でかと聞いてきた。

 しかし理由を話したら、こっちの弱みを握られるかもしれないので伝えない方向にする。



「それを話す必要はありませんよね? これは脅しとは取らないで下さいね。告発されたくなければダリアン市長に会わせてください」


「それを脅しって言うんだよ………本当に市長に会わせれば、この件に関しては黙ってくれるのか?」


「もちろん取り引き相手との約束は守りますとも」



 僕とトレバーは固く握手をして話をつけた。

 互いに取り引き相手ではあるが、どちらかといえば僕たちの方が少し優位に立っている。

 トレバーを見送ってから僕たちは、船が入ってくる港を下見する事にした。



「ここに600も入りますか? 上陸するのに時間は、そこまでかけられないと思いますが………」


「それなら考えてる。定員が一杯になったら、僕たちが上陸した港からロデベリス帝国に入って貰う」


「そこから入れますか? 密告者の件は、まだ落ち着いていないと思うんですが」


「確かに今のままなら対応される可能性がある。でもパトワーに船が着くようになれば、そっちに兵士を割くようになって、あそこが手薄になる」



 色々と緊急事態は起きてはいるが、その都度修正はしているので何とか成り立っている。

 しかしこれ以上の問題は失敗に繋がるかもしれない。

 それだけは何とか防がなきゃいけない。



「トレバーは、どれくらいで市長との面会を取り付けて来ますかね? そこまで優秀な人間じゃないように見えましたけど、本当に大丈夫でしょうか?」


「確かに僕の仲間に入らないけど、あそこまで脅しておけば………彼は僕たちの想像を超える活躍をしてくれると信じてるよ」



 僕は脅す事によってトレバーは、想像しているよりも遥かに良い仕事をしてくれるだろうと考えている。

 そんな話をしていると2日後に連絡が来た。

 それは前回の会員制の料理屋で、明日の夜に市長が時間を作ったと言うのである。



「これで少し進歩はしたけど………レジーヌも油断しないようにしておいてね」


「はい! 何があってもマスターをお守りします!」



 そんなやり取りをしてから僕たちは、翌日ダリアン市長が待っている会員制の料理屋に足を運ぶ。

 敵地に乗り込むわけだから、何かを仕掛けられている可能性が十二分に考えられる。

 その為、僕は鑑定スキルを使って人数を調べる。

 すると確かに周辺に人間の反応はあるけど、そこまで敵意を感じないので、今は無視する事にした。

 そして中に入ると明らかに市長!と言う感じの高そうな服を着た男が、椅子にドサッと座っていた。



「私に話があるって言うのは君だね?」


「はい、ギルド・銀翼の夜明けでギルドマスターをしている《アラン=アントワーヌ=アインザック》と申します。本日は時間を作っていただき感謝します」


「ほぉ銀翼の夜明けってカプリバ王国のかい? ギルドマスターだけじゃなくて大将軍の位を貰っていると聞くが………まさかまだこんなにも若々しいとは」



 僕はダリアン市長に会うなり、ペコッと頭を下げてから自分の身分を隠さずに自己紹介した。

 そんなに正直に話して良いのかとレジーヌが隣で驚きの目をしている。



「いえいえ自分たちは、まだ世界的には有名な組織ではありませんので」


「謙遜もできるとは中々にできた男だ」


「そんなに褒めて貰わなくても………ギャングファミリーである〈モレウス〉のファザー《ダリアン=リード=モレウス》さんには敵いませんよ」



 僕はダリアン市長をギャングファミリーのファザーと呼んで、周りの空気を凍り付かせるのである。

 隣にいるレジーヌとトレバーは「え?」と呟く。

 ダリアン市長の眉毛がピクッと動いた。



「ほぉ私がモレウスのファザーだとしているのか。さすがはカプリバ王国の大将軍にして大ギルドのギルドマスターだ………まさしく脱帽だよ」


「いやいや貴方こそ周りにバレずに、市長とファザーを両立できるのは凄い事ですよ。僕だったら絶対に二足の草鞋とはいきませんね」



 互いに互いの腹の探り合いをしている為、何とも言えない空気な上に内容が薄いのである。

 この緊張感を感じたレジーヌは少し警戒する。

 だがダリアン市長は動こうとしない。

 つまりは自分がファザーとバレたところで、何のデメリットも無いと言う事だ。

 その姿を見ている僕はダリアン市長の前の席に座る。

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