016:成立
僕がダリアン市長の前に座ると、少しの沈黙があってから僕の方から口を開く。
「単刀直入に話をさせて貰いますが、これから私の部下が乗っている船が港に到着します。その事に目を瞑って貰う事はできませんか?」
「ほぉここに大将軍の兵士の船がやってくると? それは確かに私の協力がなければ難しいだろうね」
ダリアン市長は直ぐに理解してくれた。
するとフッと笑いながら腕を組んで下を見る。
そしてスーッと息を吸ってから顔を上げて、フーッと吐いてから口を開く。
「まぁその話に答えるかは君が私に出す報酬次第だ」
「それはそうでしょう。もちろんタダで協力して欲しいなんて言いませんよ」
「金なら人にやるほど持っているからな? それ以外の何かを出してくれ」
やっぱり金じゃあ動かないか。
そりゃあ港街を運営できる程の人間なんだから金には困っていないだろうな。
ここからが僕とダリアンの勝負か。
「あなた方は隣国の〈サルヴァード共和国〉にある〈カグン〉っていうギャングと抗争しているんですよね?」
「まさかそんなところまで調べているとは………それで我々の抗争と、今回の話は何か関係でもあるのか?」
そうモレウスは南方の隣国であるサルヴァード共和国に存在するギャング組織〈カグン〉と抗争をしている。
そこまで僕は調べ上げているのである。
そしてダリアン市長もカグンとの抗争をしている事については認めたのだが、その事と今回の交渉に関しては何か関係でもあるのかと聞いてくる。
「そこで我々から提供させて貰うのは〈魔力石〉と〈魔導石〉の2つです」
「なにっ!? 魔力石に魔導石だと!?」
僕が港を開いて貰う代わりに提供すると言ったのは、魔力石と魔導石という2つである。
それを聞いたダリアン市長は驚きで立ち上がる。
この魔力石の魔導石というのは、まず魔力石というのは魔力が足りない人が持つ魔力を増強させる石で、魔導石は石に魔力を通す事で得意属性以外の魔法を使用する事ができる物だ。
どちらも買うとなると大金だし、それなりに入手が困難なので貴重な品である。
「そんな嘘に惑わされるほど、私の頭はまだ耄碌していないわ。嘘を吐くのなら、もっとまともな話をしろ!」
「嘘だと思われるのも当然の事でしょう。そこで信用して貰う為に、こちらを用意しました………こちらを頭金という事になりませんか?」
さすがにそんなわけが無いと言って、ダリアン市長は体を横にして僕の方を見ない。
そこで信用を得る為に懐から魔導石と魔力石を、テーブルに数個ほど置くのである。
それを見たダリアン市長は、さっきまで落ち着いていたのに前のめりになって驚いている。
「これは本当に魔導石と魔力石なのか?」
「もちろん確かめて貰って構いませんよ。私たちは、そんなつまらない嘘を吐くような人間じゃないので」
「それじゃあ確認させて貰う………」
やはりまだダリアン市長は、これが本物なのかと疑っているみたいだ。
それもそうだろう。
若造の懐から何個も高価な魔石が出てくるのだから。
僕としても確認して貰って構わないので、ニコニコしながら見て下さいと確認を許可する。
するとダリアン市長は部下と一緒に、これが本物なのかという確認をするのである。
そして段々とダリアン市長と部下の顔が変わる。
これが本物の魔導石と魔力石だと確認できたからだ。
「確かに本物の様だが、これ以上の量の魔石を本当に手に入るのか?」
「もう既に船に積んで向かっています。その全てをダリアン市長………いやモレウスに献上します」
「その全てだと? どれだけの量の魔石があるんだ?」
「こちらが用意しているのは魔導石30個に、魔力石を150個ほどですね」
用意している量を聞いたダリアン市長は、スーッと息を吸い込んでからフーッと息を吐いてテーブルをジッと見つめて何かを考えている。
それもそのはずだ。
魔導石30個に魔力石150個って日本円にしたら、日本の国家予算に匹敵するレベルの金額だからだ。
「分かった! 君との交渉を受諾しよう………この港に君の部下の船が何隻来ようと見て見ぬ振りをする。そして帝国軍にも密告はしない!」
「素晴らしい判断をしていただき感謝します。必ず魔石をお渡ししますので、よろしくお願いします」
ここに来て魔石を手にするという選択をした。
僕が想定していたよりも遥かに楽に済んだが、だからと言って魔石を失ったのも大きい。
それでも国を手に入れる為に売り払ったと思えば、それはそれで納得する事ができるだろう。
そして交渉が成立した事で僕とダリアン市長は、グッと堅い握手をするのである。
「それでどうして、そんなに魔石を集められたんだ?」
「まぁ全ては伝えられませんが、簡単に言いますと魔石の鉱脈を当てたんです」
「そりゃあついてるな」
嘘は言っていない。
僕が将軍になったばかりの時に攻めた島が、ちょうど魔石の鉱脈があるところだった。
そこで大量に集めていたんだ。
加工には時間がかかったが、それでも今となっては最大の武器になったから良かった。
なんとか交渉が終わった僕たちはダリアン市長を見送って、今日だけは料理屋に行く事にした。
レジーヌは僕とデートだと言って喜んでいる。
そんなレジーヌを見て何とも言えない表情に、僕はなってしまっているのである。
「マスターっ! 今日は良い商談ができましたね!」
「そうだねぇ。レジーヌ、ちょっと酔いすぎなんじゃないのか?」
「そんな事ないれすよ! もっともっと飲めますよ!」
「飲んで良いとは言ったけど、そんなに酔うほど飲まなくても………」
レジーヌはガッツリ酔ってしまっている。
ここまで酒が弱いとは思っていなかった。
騒ぐだけ騒いだ後、レジーヌはテーブルに突っ伏す形でガーガーッと寝始めたのである。
これをどうやって運んだら良いのかと、僕が困っていると後ろから男性に声をかけられた。
「運ぶの手伝いましょうか?」
「あっ全然だい…じょうぶです」
振り返って断ろうとしたら、そこに立っていたのは大柄の男でゆうに2メートルを超えている大男だ。
格好からして帝国軍の軍人だろう。
それにしたって全身から死のオーラが出ている。
明らかに何人も殺している猛者の軍人だ。
「ここら辺は犯罪者が多いからね。君たちみたいな若いカップルが狙われたりしているからね」
「そ それは危険ですね。気をつけますね………」
「どちらから来たのかな? それともここに済んでるのかな?」
「カプリバ王国からの旅行です」
どうなってるんだ?
何で尋問みたいな事を受けてるんだ?
「そうか、カプリバ王国からか!」
必要以上な質問に僕たちが困っていると、この男の部下であろう男が「二クロス将軍っ!」と呼ぶ。
その瞬間、僕はゾッとした。
この二クロス将軍とは、このロデベリス帝国において唯一の大将軍にして大陸でも屈指の騎士である。
まさかそんな人間が目の前にいるとは思わなかった。
顔色を変えたら疑われると思って平然を保つ。
「それじゃあ本当に気をつけるんだよ」
「分かりました! わざわざ注意喚起していただきありがとうございます!」
そういうと二クロス将軍は不気味な笑みを浮かべながら僕たちの前から居なくなる。
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