011:海の男

 僕たちが海賊島に上陸すると、海賊たちにゾロゾロと囲まれてしまったのである。

 僕は落ち着いていてレジーヌは警戒している。

 海賊たちの罵声とレジーヌの反論で、砂浜の空間が阿鼻叫喚のような事になってる。

 僕は話にならないとしてゴホンッと咳をする。



「良いか? 今から僕が話をするから黙って聞けよ?」


「誰がテメェのはな……」


「おいおい! 黙って聞けって言ったよな? それなのに直ぐに破るなんて、海賊は静かに話も聞けない奴らなのか?」



 僕は海賊たちに静かに聞くよう言う。

 しかし1人が声を荒げて突っかかろうとした。

 そんな海賊の腹にパンチを入れて気を失わせる。

 明らかな強者感に海賊たちは後退りをしながら距離を取って様子を見る。


 これだから海賊っていうのは好かないんだよ。

 黙って話も聞けないなら仲間にする必要もないか?

 この調子なら報連相も出来なさそうだな………。

 船長がダメそうだったら、コイツらを掃討して懸賞金を受け取ってやろう。


 僕は海賊たちが黙ったのを確認してから喋り出す。



「君たちのボスである《アンダース=トゥルーリ》のところに連れてってくれるか?」


「ぼ ボスのところにか!?」


「別に良いだろ? さもないと君たちを使って金を稼がなきゃならなくなるからね」



 僕が海賊たちにボスのところへと案内するようにいうと、最初こそ渋ったが死ぬと分かると承知してくれた。

 しかしその代わりに条件を出してきた。



「連れて行ってやる代わりに、全て武器を捨てて来い」


「まぁそれくらいだったら良いよ。皆んな海賊たちの言う事を聞いて武器を捨てよう」



 海賊たちの交換条件である武器を捨てると言う事に対して、それくらいならばと了承した。

 レジーヌたちにも武器を捨てるように言う。

 するとレジーヌは僕の耳元にやって来る。



「本当に大丈夫なんですか? マスターにもしもの事があったら、エルサ様やファビオ様に顔が立ちません」


「えっなに? もしかして僕が素手になったくらいで、この海賊たちに勝てないと思ってるの?」


「い いえ! 決してそう言うわけでは………要らない心配をしてしまって申し訳ありませんでした」



 うんうん。

 こんな海賊たちに遅れをとるようなら、これまでの修行は全くもって意味を成して無いだろう。


 僕たちは海賊たちの指示通りに武器を船の中に残し、海賊たちの案内でアンダースのところに向かう。

 それなりの数の海賊たちが居て、そこら中で強奪した金品を自慢しあっているのである。

 そんな海賊たちをレジーヌは軽蔑の目を向ける。

 僕はそんなレジーヌの目を見てニコニコする。

 するとアンダースが居るという大きなテントの前にやって来ると、声をかけるから待ってて欲しいと言う。



「ボスっ! ボスに客人が来ましたが………中に通しますか? 武器は所持していません」


「俺に客人だと? まぁ通せ。話はそれからだ」



 海賊たちのボスであるアンダースの顔は、整いながら少し濃い顔に、全てを無に返す程の髭を生やしている。

 そんなアンダースは客人が誰だかは知らないが、とりあえず中に通すように言うのである。

 その指示通り僕たちはテントの中に入る。

 するとアンダースは眉を歪める。



「お前たちは誰だ? お前たちのようなガキに知り合いなんていないぞ?」


「アンダース、久しぶりに会ったのに冷たい事を言ってくれるじゃ無いか。本当に僕の事を忘れたのかい?」


「知らん! お前たちの事なんて微塵もな!」



 あらあらそんな冷たい事を言われるとは。

 ちょっと分からせる必要があるな。


 僕は知らないと言われた事に、少しガッカリして体から殺気を少し出した。

 するとアンダースはブルッと身震いをした。

 その感覚に覚えがあったのだろう。

 震え出したのである。



「ま まさか!? アンタはアラン=アントワーヌ=アインザックかっ!?」


「おっ! ようやく思い出してくれたんだな。そうだ、8年前に君をスカウトしたアランだ」



 そう僕とアンダースの関係が始まったのは、約8年前に話が遡るのである。

 あれは僕とエルサとファビオの3人で、海へと遊びに来た日の事だった。

 修行で傷んだ体を労う為の息抜きだ。

 そんな日に僕たちはアンダースたちに捕まった。

 もちろん身売りをする為の誘拐である。



「おうおう! 子供が3人で遊んでたら危ないだろ?」


「だから俺たちみたいな悪いおじちゃんたちに、こうやって捕まっちゃうんだぞぉ」



 分かりやすい悪役って感じだった。

 普通の子供だったら命乞いをしながら泣いている。

 しかし僕たちは全くもって焦る事なく、相手の戦力や人数を冷静に分析していた。

 そして勝てると判断すると僕はファビオに合図する。

 それに合わせて覚えたスキルを使って拘束されているロープを斬るのである。

 見張りをしていた海賊たちは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた事を覚えている。



「ど どうなってるんだ!? どうやってロープを解きやがったんだ!」


「それを貴方かたに説明する必要がありますか? そんな事よりも周りを警戒しないと………エルサっ!」


「はいっ! アラン様っ!」



 海賊たちがアワアワしている隙に、僕はエルサに指示を出して魔法を使った。

 エルサが放ったのは突風を出す〈吹き荒れる風ブラスト・ウィンド〉と言う魔法だ。

 その魔法で見張りの海賊たちは吹き飛んでいった。

 残りの生き残った海賊たちは、ファビオが剣を抜いてズバッと斬り捨てる。

 戦闘の音を聞きつけた海賊たちが、ゾロゾロとやって来るが僕たちは倒した海賊たちを人質にする。



「建設的な話し合いがしたいんですけど、まずは君たちのボスのところに連れてってくれませんか?」


「なっ!? わ 分かった………ソイツらを話してくれ」



 僕たちの指示に海賊たちは素直に応じた。

 そしてアンダースの前に僕たちが現れた。

 これが僕とアンダースの初めての対面である。



「お前たちが俺の部下をやってくれたって? お前たちは一体何者なんだよ………」


「なんて事ない、ただの騎士見習いと魔法使い見習いってだけですよ」


「ただの見習いだと? 俺たちが簡単に負ける見習いって何なんだよ!」



 アンダースは額に汗を汗をかきながら質問する。

 それに対して僕はニコニコしながら答える。

 僕たちが普通の子供じゃないと思ったアンダースは、いつでも戦える姿勢を取っている。



「それにしても良い船ですね。この船には何かこだわりでもあるんですか?」


「なに? この船のこだわりだと?」


「えぇ普通の海賊だったら、ここまで良い船を用意したりしないでしょう。それなら船を安くして金を手元に多く残しているはず………しかしこの船は細部まで、色々とこだわってあるように見えるんで」



 僕は誘拐されたところから気になっていたのだが、この船は海賊にしてはこだわりが詰まっている。

 それをアンダースに聞いてみたのである。

 すると驚きを隠せずにいる。

 僕にこだわりがあると言う事を見抜かれたから、口をあんぐりさせて驚いているんだろう。

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